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第1章
【9】私と俺と!
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「すまない、カレン。マナーに反するのは重々承知だが、ここまで無理矢理通らせて頂いた!」
ニーハイムス様は、私に真っ直ぐと目線を向ける。
「…………本当にマナー違反ですわよ。そうやって私の都合を乱して面白いですか?」
「お嬢様……」
侍女のデンファレが困り果てた顔で私とニーハイムス様の間に入った。
「――デンファレ。私は大丈夫よ。……そうね、少し席を外して頂けるかしら?」
「しかし、私はお嬢様の侍女ですので――」
「今更そんなこと言わないの!」
私はデンファレににっこりと笑顔で返したわ。
「……そうでございますか。それでは、私はお部屋の前で待機致しております。何か有りましたら即お呼びくださいませ」
そう言って、デンファレは部屋を後にしたわ。
「…………」
「……………………」
私室にはニーハイムス様と私のふたりきりになってしまいましたわ。
何からお話しすればよいのでしょうか?
「…………あの」
「…………あの」
ふたり同時に声を出してしまったわ。
「……ニーハイムス様からどうぞ」
「いえ、カレンからどうぞ……」
「そ、それでは私から……」
私は遠慮なく話させて頂くことにしたわ。
「ニーハイムス様、今日は学院ですみませんでした……」
まずは学院でニース先生の手を振り払ってしまったことをお詫びしたかったわ。
「いいえ、その件は気にしないでください――元々の否は私に有ると思いますから」
ニーハイムス様はお話しを続けたわ。
「……昨日は突然すみませんでした。つい、調子に乗って衝動を抑えきれずに愛しい貴女にくちづけをしてしまいました――」
「そ、それは……!!」
突然核心に迫られて私は動揺してしまう。
「こんなに動揺するとは思ってもみませんでした。貴女も、俺も――」
――俺? 今、ニーハイムス様は『俺』と仰ったかしら?
「全く、俺は大人げないですね。婚前の少女に触れただけとは言えキスをしてしまうなんて――――深く反省しています。この通りです。カレン・アキレギア」
そう言って、ニーハイムス様は私に深く頭を下げましたわ。
「――お止めくださいニーハイムス様! 私もあなたの婚約者としての自覚が足りませんでしたわ! 婚約をしているのなら、いつかは必ず訪れることでしたのに――――」
「いいえ、時期尚早という言葉も有るでしょう。貴女は俺のことをまだ解らないと言っていた。なのに先走った俺がいけなかったのです―――」
……ここまで来て、私は決して、ニーハイムス様に謝って頂きたかったのでは無いのだと気付きましたわ。
「ニーハイムス様。私は確かにあなたのことが解らないと言いましたが、決してあなたのことを好きではないとは言っておりません……」
自分で言っておきながら思うけど、これはとんだ屁理屈だわ!
頭を下げたままだったニーハイムス様が頭を上げてこちらを見たわ。
「…………! それは好意的な意味で捉えてよろしいのですか? カレン!」
「……はい……」
あのキスの後、私は色々考えたわ。次にニーハイムス様に会ったらどんな表情をしたらいいのかしら。いつもどおりの礼儀正しい振る舞いだけでいいのかしら? それとも笑顔が良いのかしら? それとも何も知らぬ存ぜぬでクールに振る舞ったほうがよろしいのかしら? その他沢山!
そしてニーハイムス様もどのような態度で私に接して下さるのかしらと――――
「決して嫌では無かったのです! ただ、ただ動揺してしまって……恥ずかしいですわっ……!」
ニーハイムス様はいつの間にか、窓辺の私の側まで近寄っていたわ。
「……はぁ……良かった…………。俺はカレンに嫌われてしまったらどうしようかと……それが恐ろしくてたまらなかったのです」
ニーハイムス様は深く息を吐いて、私を見つめましたわ。
「俺がこの世で愛しているのは貴女だけです。その貴女が私の前から消えたら、私はきっと狂ってしまうでしょう――」
なんて、口説き文句なのかしら……。私は悪役令嬢なのよ? そんな私にこんなに愛を注ぐ殿方が現れて本当にいいのかしら?
私は耳の端まで顔が真っ赤になっていくのを自覚していたわ!
ダメよ、話をそらしましょう。
「――と、ととところでっ! ニーハイムス様はいつから『私』から『俺』に変わりまして?」
「――……あ。しまった。私としたことがみっともない。つい、幼い頃からの『俺』が抜けなくて……焦った時など素の自分として出てしまうのです……」
これは恥ずかしい、と、ニーハイムス様は頭を掻きましたわ。
「くすっ」
私は笑いを漏らしてしまいました。
「ああ、やはりおかしいですよね」
ニーハイムス様は恥ずかしそうに微笑みました。
「……いいえ。その『俺』が素のニーハイムス様なのなら、私の前では『俺』でお願いしたいですわ」
「――……え? 本当に?」
ニーハイムス様は意外そうな顔で私を見つめましたわ。
「はい。私はニーハイムス様の婚約者なのですから。一生を添い遂げるのなら、本来のあなたをもっと知りたいと思います――」
「カレン――――」
ニーハイムス様は、ゆっくりと私に近づいて来ましたわ。
「嫌なら、嫌と言ってくださいね?」
そうして、ゆっくりと優しく私を抱きしめてくださったの―――
トクン、トクンと心臓が脈打つ音が聴こえる気がする。私の顔は丁度ニーハイムス様の胸の位置。もしかしてこれはニーハイムス様の心臓の音なのかしら……?
以前も抱きしめられたことは有りましたけど、私にはニーハイムス様のことを考える余裕など全くありませんでしたわ。
「ああ……抱きしめるとより一層愛しさが増します。俺のカレン……」
ニーハイムス様はまた歯が浮くような台詞を普通に繰り出してくるわ。
「そんな……お恥ずかしいです……」
ほんっとーに恥ずかしい!! 何で私はこのような方が気になってしまうのかしら?
「貴女が俺のカレンなら、俺は貴女のニーハイムスです」
「私の……ニーハイムス様……?」
ニーハイムス様は私の顔を上げ、覗き込む。
目と目が合う。
ニーハイムス様の紅い瞳には今、私だけが映っているのですね……。
「貴女の紺碧の瞳は今、俺のモノです。カレン」
「――ふふっ」
「……? どうしました?」
「今、同じことを考えていましたわ――」
そうして、ニーハイムス様と私は、今度は合意の軽いキスをしたのですわ――――
ニーハイムス様は、私に真っ直ぐと目線を向ける。
「…………本当にマナー違反ですわよ。そうやって私の都合を乱して面白いですか?」
「お嬢様……」
侍女のデンファレが困り果てた顔で私とニーハイムス様の間に入った。
「――デンファレ。私は大丈夫よ。……そうね、少し席を外して頂けるかしら?」
「しかし、私はお嬢様の侍女ですので――」
「今更そんなこと言わないの!」
私はデンファレににっこりと笑顔で返したわ。
「……そうでございますか。それでは、私はお部屋の前で待機致しております。何か有りましたら即お呼びくださいませ」
そう言って、デンファレは部屋を後にしたわ。
「…………」
「……………………」
私室にはニーハイムス様と私のふたりきりになってしまいましたわ。
何からお話しすればよいのでしょうか?
「…………あの」
「…………あの」
ふたり同時に声を出してしまったわ。
「……ニーハイムス様からどうぞ」
「いえ、カレンからどうぞ……」
「そ、それでは私から……」
私は遠慮なく話させて頂くことにしたわ。
「ニーハイムス様、今日は学院ですみませんでした……」
まずは学院でニース先生の手を振り払ってしまったことをお詫びしたかったわ。
「いいえ、その件は気にしないでください――元々の否は私に有ると思いますから」
ニーハイムス様はお話しを続けたわ。
「……昨日は突然すみませんでした。つい、調子に乗って衝動を抑えきれずに愛しい貴女にくちづけをしてしまいました――」
「そ、それは……!!」
突然核心に迫られて私は動揺してしまう。
「こんなに動揺するとは思ってもみませんでした。貴女も、俺も――」
――俺? 今、ニーハイムス様は『俺』と仰ったかしら?
「全く、俺は大人げないですね。婚前の少女に触れただけとは言えキスをしてしまうなんて――――深く反省しています。この通りです。カレン・アキレギア」
そう言って、ニーハイムス様は私に深く頭を下げましたわ。
「――お止めくださいニーハイムス様! 私もあなたの婚約者としての自覚が足りませんでしたわ! 婚約をしているのなら、いつかは必ず訪れることでしたのに――――」
「いいえ、時期尚早という言葉も有るでしょう。貴女は俺のことをまだ解らないと言っていた。なのに先走った俺がいけなかったのです―――」
……ここまで来て、私は決して、ニーハイムス様に謝って頂きたかったのでは無いのだと気付きましたわ。
「ニーハイムス様。私は確かにあなたのことが解らないと言いましたが、決してあなたのことを好きではないとは言っておりません……」
自分で言っておきながら思うけど、これはとんだ屁理屈だわ!
頭を下げたままだったニーハイムス様が頭を上げてこちらを見たわ。
「…………! それは好意的な意味で捉えてよろしいのですか? カレン!」
「……はい……」
あのキスの後、私は色々考えたわ。次にニーハイムス様に会ったらどんな表情をしたらいいのかしら。いつもどおりの礼儀正しい振る舞いだけでいいのかしら? それとも笑顔が良いのかしら? それとも何も知らぬ存ぜぬでクールに振る舞ったほうがよろしいのかしら? その他沢山!
そしてニーハイムス様もどのような態度で私に接して下さるのかしらと――――
「決して嫌では無かったのです! ただ、ただ動揺してしまって……恥ずかしいですわっ……!」
ニーハイムス様はいつの間にか、窓辺の私の側まで近寄っていたわ。
「……はぁ……良かった…………。俺はカレンに嫌われてしまったらどうしようかと……それが恐ろしくてたまらなかったのです」
ニーハイムス様は深く息を吐いて、私を見つめましたわ。
「俺がこの世で愛しているのは貴女だけです。その貴女が私の前から消えたら、私はきっと狂ってしまうでしょう――」
なんて、口説き文句なのかしら……。私は悪役令嬢なのよ? そんな私にこんなに愛を注ぐ殿方が現れて本当にいいのかしら?
私は耳の端まで顔が真っ赤になっていくのを自覚していたわ!
ダメよ、話をそらしましょう。
「――と、ととところでっ! ニーハイムス様はいつから『私』から『俺』に変わりまして?」
「――……あ。しまった。私としたことがみっともない。つい、幼い頃からの『俺』が抜けなくて……焦った時など素の自分として出てしまうのです……」
これは恥ずかしい、と、ニーハイムス様は頭を掻きましたわ。
「くすっ」
私は笑いを漏らしてしまいました。
「ああ、やはりおかしいですよね」
ニーハイムス様は恥ずかしそうに微笑みました。
「……いいえ。その『俺』が素のニーハイムス様なのなら、私の前では『俺』でお願いしたいですわ」
「――……え? 本当に?」
ニーハイムス様は意外そうな顔で私を見つめましたわ。
「はい。私はニーハイムス様の婚約者なのですから。一生を添い遂げるのなら、本来のあなたをもっと知りたいと思います――」
「カレン――――」
ニーハイムス様は、ゆっくりと私に近づいて来ましたわ。
「嫌なら、嫌と言ってくださいね?」
そうして、ゆっくりと優しく私を抱きしめてくださったの―――
トクン、トクンと心臓が脈打つ音が聴こえる気がする。私の顔は丁度ニーハイムス様の胸の位置。もしかしてこれはニーハイムス様の心臓の音なのかしら……?
以前も抱きしめられたことは有りましたけど、私にはニーハイムス様のことを考える余裕など全くありませんでしたわ。
「ああ……抱きしめるとより一層愛しさが増します。俺のカレン……」
ニーハイムス様はまた歯が浮くような台詞を普通に繰り出してくるわ。
「そんな……お恥ずかしいです……」
ほんっとーに恥ずかしい!! 何で私はこのような方が気になってしまうのかしら?
「貴女が俺のカレンなら、俺は貴女のニーハイムスです」
「私の……ニーハイムス様……?」
ニーハイムス様は私の顔を上げ、覗き込む。
目と目が合う。
ニーハイムス様の紅い瞳には今、私だけが映っているのですね……。
「貴女の紺碧の瞳は今、俺のモノです。カレン」
「――ふふっ」
「……? どうしました?」
「今、同じことを考えていましたわ――」
そうして、ニーハイムス様と私は、今度は合意の軽いキスをしたのですわ――――
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