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第8章
【54】冬のデート その2!
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寝室を用意していただいたニーハイムス様と私は、とりあえずニーハイムス様をベッドに寝かせることにしました。
「楽な格好で寝てくださいまし」
私は寝室から人払いをし、ニーハイムス様が落ち着いて眠れるように計らいました。
そうしてニーハイムス様のスーツを脱がせ、タイを取り、前ボタンをいくつか開けさせて頂きました。
窮屈なフォーマルなままでは昼寝もままならないでしょう。
「……カレン、随分積極的なのですね……」
ニーハイムス様はわけのわからないことを言って、私にたじろいで居ます。
何をそんなに引く必要があるのでしょう? 当然のことをしているまでですが。
「……カレンは別室で昼寝しないで大丈夫なのですか? 独りにしておくのも申し訳ないが」
「私は、ニーハイムス様の寝顔を拝見したり、こちらの書物に目を通したりして時間を潰しますからお気になさらず」
「…………はぁ」
ニーハイムス様は脱力したふうに私を覗き込みましたわ。
「いいですか、カレン。男女が寝室にふたりきりなのですよ。」
「…………はぁ。それが何か? ニーハイムス様と私がふたりきりで何か問題が?」
「――……ここにはハクテイさんもいません。俺が貴女を襲おうとすればいくらでも襲えるのですよ」
ニーハイムス様は私の両肩を掴みましたわ。強い力で。
「――……ニーハイムス様はそのようなことは致しませんわ」
私はニーハイムス様の深く紅い瞳をじっと見て言いました。
「…………どうやら俺は信用され過ぎてしまっているらしい。悔しいです」
ニーハイムス様はふっと笑って、私に軽くくちづけをしました。
「何も起きないふたりならば、添い寝でもしていただきたいですね」
「えっ……。添い寝ですか?」
私のドレスがシワになってしまいます……。
少し考えて。ドレスの一番上の部分だけ脱いで対応することに致しました。
「これで添い寝も可能ですわ!」
「えっ……ちょっと待ってくださいカレン本気ですか!?」
ニーハイムス様、今度は焦っています。私と添い寝したいのかしたくないのかどちらなのですか?
「本気に決まってます! ニーハイムス様には眠ってお休みを取っていただかないと!」
このやり取りも、もういい加減面倒臭くなってきましたわ!
私は先にベッドに入り、寝転び、ニーハイムス様をお誘いしました。
「さあ、いらっしゃいまし」
「…………心の準備が。というかこれ、立場が逆転していませんか…………」
ニーハイムス様は赤面して何やらブツブツと言っておられます。
「もう、じれったいお方ですわね!」
私はニーハイムス様の腕を掴んで、ベッドに引き釣り込みました。
「うわっ!」
ニーハイムス様はベッドになだれ込みます。
「ち、近い…………」
「当然でしょう?」
今まで、何度くちづけを交わしたことか。今更こんな近距離が何だと言うのでしょう?
「貴女の顔を見ていると、逆に眠気が覚めていく気がするのですが」
「それでは見ないで眠って下さい」
「それはとても勿体ない!」
ニーハイムス様、駄々っ子のようですわ。
「……カレン、貴女を抱きしめて眠ってみても?」
「抱き枕ですか。ええ、構いませんよ」
ニーハイムス様は私の髪を優しく触ると、そのまま肩と腰を抱きしめてきました。
私はすっぽりとニーハイムス様に収まってしまいます。
「…………なるほど。抱き枕にちょうどいいサイズですのね、私」
私はニーハイムス様の胸の中で軽く笑ってしまいましたわ。
「…………心臓の音が漏れないかが心配です」
「心臓の音?」
私はニーハイムス様の胸に耳を近付けます。
「あ、こら、カレン」
「…………トクン、トクン聞こえますわ」
「聞かないでいいので! というか聞かないでください!」
「ふふっ。でも不思議ですね。心臓の音って、聞いている分には安心してしまいます……これでは私が先に眠くなってしまいますわ――……」
「…………先に眠っても良いのですよ?」
「だーめ。私がニーハイムス様のお世話をすると決めたのですから! あっ、そうだ。ニーハイムス様が私の心臓の音を聞きます?」
「…………カレン。それは俺が貴女の胸に顔を埋めるということになりますが」
…………間を置いて。想像いたしましたところ。
「そ、それは却下です! 却下!」
「……ですよねぇ……」
「それでは、手を握っていてください。俺はそれで今は十分満足ですので。というか満足ということにしますので」
ニーハイムス様がベッドの上で私を抱きしめながら提案してくださったわ。
「はい! それくらいならお安い御用です!」
それから数分したでしょうか、お互い無言のまま過ごしました。
「――すぅ」
ニーハイムス様から寝息が聞こえ始めました。
良かった。眠ってくださったのね。これで今日はひとまず安心ですわ。そう思うと私も眠くなって来ました。
おやすみなさい、ニーハイムス様……。
「おやすみなさい、カレン。良い夢を」
寝落ちする瞬間、ニーハイムス様の優しい声が聞こえた気がしましたが、私は眠りに抗えませんでしたわ――――
※
夕方。先にニーハイムス様が目覚めていました。
「目覚めのお茶を、こちらに用意するよう言い渡していますのでそれまでにお着替えを。カレン」
「ふぁい……おはようございます、ニーハイムス様……」
私は脱ぎ捨てた上着を着て、何とかドレスのシワを誤魔化します。
そうして、寝室に用意された紅茶を頂き、目が覚めて、私が先程までしていたことを改めて思い出すと。
「あの、もしかして私、こっ、こっ、婚前前に破廉恥な行動をしてしまいました!?」
ニーハイムス様はにっこりとして。
「はい。だいぶ積極的で驚きました。俺は大歓迎でしたが」
「――……………」
私は言葉が出ません。
「是非また、『俺専用の抱き枕』になって頂きたいです」
「んもう! 知りません! ……でも、それでニーハイムス様が休まるなら」
「ふふっ。貴女はどこまでも俺に優しいですね」
※
屋敷を出、そろそろ帰る頃に森を巡回していたハクテイさんも戻ってきましたわ。
「おかえりなさい、ハクテイさん。森はどうでしたか?」
「うむ。なかなか安らぐ土地であった。ここらも一般人は入れぬ王領地であろう? ヒトの手の行き届かぬ森は気持ちがいい」
「……それは良かったです。また是非いらしてください」
ニーハイムス様は、聖獣のハクテイさんに敬意を持って接していますわ。
「…………それはそれで。ニーハイムス、必要以上にカレンの匂いがするが」
「そ、それは気のせいでしょうハクテイさん!」
ハクテイさんの言葉にニーハイムス様は慌てます。添い寝した時に移ったのかしら?
「そうか? カレンからもニーハイムスの匂いがするから我は心配なのだが」
「し、心配は有りませんよハクテイさん――」
私もニーハイムス様をフォローしますわ。
「なら良いのだが――む」
瞬間。遠くで何かが光りましたわ。
「危ない!」
ハクテイさんは飛来してきた矢を口に加えていました。
ニーハイムス様がハクテイさんに尋ねます。
「ハクテイさん、それは――」
「容易く触るでない。矢尻には魔法で毒が塗りつけられておる」
「この中で狙われるなら真っ先の候補は――ニーハイムス、そなただろうな」
「ええ、そうでしょうとも」
ニーハイムス様は真顔でハクテイさんの言葉に答えます。
「ニーハイムス様…………」
突然、夢のような休日が悪夢のような現実に変化してしまいましたわ――
「楽な格好で寝てくださいまし」
私は寝室から人払いをし、ニーハイムス様が落ち着いて眠れるように計らいました。
そうしてニーハイムス様のスーツを脱がせ、タイを取り、前ボタンをいくつか開けさせて頂きました。
窮屈なフォーマルなままでは昼寝もままならないでしょう。
「……カレン、随分積極的なのですね……」
ニーハイムス様はわけのわからないことを言って、私にたじろいで居ます。
何をそんなに引く必要があるのでしょう? 当然のことをしているまでですが。
「……カレンは別室で昼寝しないで大丈夫なのですか? 独りにしておくのも申し訳ないが」
「私は、ニーハイムス様の寝顔を拝見したり、こちらの書物に目を通したりして時間を潰しますからお気になさらず」
「…………はぁ」
ニーハイムス様は脱力したふうに私を覗き込みましたわ。
「いいですか、カレン。男女が寝室にふたりきりなのですよ。」
「…………はぁ。それが何か? ニーハイムス様と私がふたりきりで何か問題が?」
「――……ここにはハクテイさんもいません。俺が貴女を襲おうとすればいくらでも襲えるのですよ」
ニーハイムス様は私の両肩を掴みましたわ。強い力で。
「――……ニーハイムス様はそのようなことは致しませんわ」
私はニーハイムス様の深く紅い瞳をじっと見て言いました。
「…………どうやら俺は信用され過ぎてしまっているらしい。悔しいです」
ニーハイムス様はふっと笑って、私に軽くくちづけをしました。
「何も起きないふたりならば、添い寝でもしていただきたいですね」
「えっ……。添い寝ですか?」
私のドレスがシワになってしまいます……。
少し考えて。ドレスの一番上の部分だけ脱いで対応することに致しました。
「これで添い寝も可能ですわ!」
「えっ……ちょっと待ってくださいカレン本気ですか!?」
ニーハイムス様、今度は焦っています。私と添い寝したいのかしたくないのかどちらなのですか?
「本気に決まってます! ニーハイムス様には眠ってお休みを取っていただかないと!」
このやり取りも、もういい加減面倒臭くなってきましたわ!
私は先にベッドに入り、寝転び、ニーハイムス様をお誘いしました。
「さあ、いらっしゃいまし」
「…………心の準備が。というかこれ、立場が逆転していませんか…………」
ニーハイムス様は赤面して何やらブツブツと言っておられます。
「もう、じれったいお方ですわね!」
私はニーハイムス様の腕を掴んで、ベッドに引き釣り込みました。
「うわっ!」
ニーハイムス様はベッドになだれ込みます。
「ち、近い…………」
「当然でしょう?」
今まで、何度くちづけを交わしたことか。今更こんな近距離が何だと言うのでしょう?
「貴女の顔を見ていると、逆に眠気が覚めていく気がするのですが」
「それでは見ないで眠って下さい」
「それはとても勿体ない!」
ニーハイムス様、駄々っ子のようですわ。
「……カレン、貴女を抱きしめて眠ってみても?」
「抱き枕ですか。ええ、構いませんよ」
ニーハイムス様は私の髪を優しく触ると、そのまま肩と腰を抱きしめてきました。
私はすっぽりとニーハイムス様に収まってしまいます。
「…………なるほど。抱き枕にちょうどいいサイズですのね、私」
私はニーハイムス様の胸の中で軽く笑ってしまいましたわ。
「…………心臓の音が漏れないかが心配です」
「心臓の音?」
私はニーハイムス様の胸に耳を近付けます。
「あ、こら、カレン」
「…………トクン、トクン聞こえますわ」
「聞かないでいいので! というか聞かないでください!」
「ふふっ。でも不思議ですね。心臓の音って、聞いている分には安心してしまいます……これでは私が先に眠くなってしまいますわ――……」
「…………先に眠っても良いのですよ?」
「だーめ。私がニーハイムス様のお世話をすると決めたのですから! あっ、そうだ。ニーハイムス様が私の心臓の音を聞きます?」
「…………カレン。それは俺が貴女の胸に顔を埋めるということになりますが」
…………間を置いて。想像いたしましたところ。
「そ、それは却下です! 却下!」
「……ですよねぇ……」
「それでは、手を握っていてください。俺はそれで今は十分満足ですので。というか満足ということにしますので」
ニーハイムス様がベッドの上で私を抱きしめながら提案してくださったわ。
「はい! それくらいならお安い御用です!」
それから数分したでしょうか、お互い無言のまま過ごしました。
「――すぅ」
ニーハイムス様から寝息が聞こえ始めました。
良かった。眠ってくださったのね。これで今日はひとまず安心ですわ。そう思うと私も眠くなって来ました。
おやすみなさい、ニーハイムス様……。
「おやすみなさい、カレン。良い夢を」
寝落ちする瞬間、ニーハイムス様の優しい声が聞こえた気がしましたが、私は眠りに抗えませんでしたわ――――
※
夕方。先にニーハイムス様が目覚めていました。
「目覚めのお茶を、こちらに用意するよう言い渡していますのでそれまでにお着替えを。カレン」
「ふぁい……おはようございます、ニーハイムス様……」
私は脱ぎ捨てた上着を着て、何とかドレスのシワを誤魔化します。
そうして、寝室に用意された紅茶を頂き、目が覚めて、私が先程までしていたことを改めて思い出すと。
「あの、もしかして私、こっ、こっ、婚前前に破廉恥な行動をしてしまいました!?」
ニーハイムス様はにっこりとして。
「はい。だいぶ積極的で驚きました。俺は大歓迎でしたが」
「――……………」
私は言葉が出ません。
「是非また、『俺専用の抱き枕』になって頂きたいです」
「んもう! 知りません! ……でも、それでニーハイムス様が休まるなら」
「ふふっ。貴女はどこまでも俺に優しいですね」
※
屋敷を出、そろそろ帰る頃に森を巡回していたハクテイさんも戻ってきましたわ。
「おかえりなさい、ハクテイさん。森はどうでしたか?」
「うむ。なかなか安らぐ土地であった。ここらも一般人は入れぬ王領地であろう? ヒトの手の行き届かぬ森は気持ちがいい」
「……それは良かったです。また是非いらしてください」
ニーハイムス様は、聖獣のハクテイさんに敬意を持って接していますわ。
「…………それはそれで。ニーハイムス、必要以上にカレンの匂いがするが」
「そ、それは気のせいでしょうハクテイさん!」
ハクテイさんの言葉にニーハイムス様は慌てます。添い寝した時に移ったのかしら?
「そうか? カレンからもニーハイムスの匂いがするから我は心配なのだが」
「し、心配は有りませんよハクテイさん――」
私もニーハイムス様をフォローしますわ。
「なら良いのだが――む」
瞬間。遠くで何かが光りましたわ。
「危ない!」
ハクテイさんは飛来してきた矢を口に加えていました。
ニーハイムス様がハクテイさんに尋ねます。
「ハクテイさん、それは――」
「容易く触るでない。矢尻には魔法で毒が塗りつけられておる」
「この中で狙われるなら真っ先の候補は――ニーハイムス、そなただろうな」
「ええ、そうでしょうとも」
ニーハイムス様は真顔でハクテイさんの言葉に答えます。
「ニーハイムス様…………」
突然、夢のような休日が悪夢のような現実に変化してしまいましたわ――
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