なぜ吟遊詩人は殺したか

一条りん

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第三章 吟遊詩人の罪

転機

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「それから数年は平穏な日々が続いた。ビビとの間には子どもが三人産まれてね。上が男の子ふたり、下が女の子で、僕らは幸せの絶頂にあった。
 ただ、三人も子どもがいると何かとお金がかかるようになって、食堂の下働きや路上演奏だけでは生活がきつくなってきた。それで僕はビビとも相談の上、ある冒険者の誘いに乗り、秘宝が隠されているという洞窟へ旅に出たのさ」

 出発の日、アルトーは子どもたちに見送られて家を出た。
 末娘のナターシャはまだ一歳半で、ビビの腕の中からぽかんとアルトーを見つめているだけだったが、八歳のセトと五歳のユージーンは泣きながら手を振って、

「父さん、絶対帰ってきてね」

「無事でいてね、父さん」

 と叫び続けていた。

 後ろ髪を引かれるような思いで村を後にしたアルトーは、洞窟の入り口で竪琴をかき鳴らし、『地獄の子守歌』を唄いはじめた――。

「その瞬間、僕は激しい衝撃を受けた。それまで何の気なしに唄っていた『地獄の子守歌』の調べの美しさに、そのとき初めて気が付いたのさ」

 アルトーの歌声は洞窟の壁に反響し、隅から隅まで響き渡った。その歌声に引き込まれ、モンスターたちは心地よさそうに眠りにつき、アルトーを誘った剣士もまた、

「聞きしに勝る歌声だな。まさしく地上の天使だ」

 と聞き惚れた。

 しかし、その歌声に最も魅せられていたのはアルトー自身だった。
 自らの喉から奏でられる声と、竪琴の繊細にして神秘的な音色。その二重奏はこの世のものとも思われないほど優美な旋律に包まれ、耳に蜜を味わわせるような甘い魅力に満ちていた。

 唄っている間、アルトーは妻子を忘れた。

 いや、そのときのアルトーは現世の何もかもから遠ざかっていた。自分の歌声と、自分自身と。モザイクをかけられたように茫漠とした世界の中で、そのふたつだけが鮮やかに際立っていた。
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