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第1章 始まりの街『グリィト』
第6話 一緒に旅をしよう!
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煌めく銀色のもふもふ毛並み。
すらっと流れるように伸びる体の曲線美。
狼のような姿と、凛々しい顔つき。
その特徴的な姿に、思わず叫んでしまった。
「えええぇぇーー!! あ、あなたって本当にあのフェンリルだったのーー!?」
全身が土汚れで目立っていた時には全く気付かなかった。
まさか茶黒い体を洗ったら中からこんな美しいフェンリルが現れるなんて!?
「カッカッカ! これじゃこれじゃ! この美しくも麗しい白銀の毛並みこそ、我の真の体じゃ!」
フェンリルは相変わらず豪快に笑う。
そのあまりの変わりように、呆然と立ち尽くしていた。
「礼を言うぞ、幼子よ! たしか、アイリと申したか?」
「は、はい!」
名前を呼ばれ、ハッと意識を取り戻す。
「ま、まさかフェンリルと出会えるなんて……! そうだ、鑑定で確かめてみよう」
わたしは目の前のフェンリルに鑑定を発動させた。
―――――――――――――――――――
【フェンリル】:白銀の狼の姿をした神獣。聖なるエネルギーに満ちており、フェンリルに認められた者は生涯に渡って災厄から守護されるという伝承がある。
―――――――――――――――――――
うわぁ、やっぱり本物のフェンリルなんだ……!
驚きと同時に沸き上がるのは、猛烈なもふもふ欲!
フェンリルのもっふもふな毛並みにダイブして今すぐもふりまくりたい衝動に駆られる!
こんなもふかわ神獣、他にいないよね?
「……お主、何か失礼なことを考えておらんか?」
「い、いえいえ、そんなまさか!」
やばい、見透かされてる……!
わたしは作り笑いを浮かべて話題を変えた。
「それで、どうして神獣のあなたはこんなところにいるんですか?」
「うむ、それなのじゃが」
フェンリルは悩ましげな表情で唸った。
「我は長きに渡って眠りについておっての。目を覚ましたのはついさっきなのじゃ」
「長い眠りって、一体どれほどの……?」
「ふむ……ちなみにじゃが、今は神暦何年じゃ?」
『神歴』っていうのは、前世で言うところの『西暦』みたいなものか。
幼女の知識を借りると――
「今は、神歴二千年です」
「やはりか」
フェンリルは少し視線を落とした後、はっきりとした口調で告げた。
「我が眠りについたのは、神歴が千年にも満たぬ頃じゃったな」
「じ、じゃあ、千年以上もの間、眠りについていたってこと!?」
な、なんというスケール感での爆睡!
ブラック社畜で日夜残業&早朝出社を課されていた前世の私にとったら、なんと羨ま……いや、さすがにちょっと寝過ぎか。
「目を覚ました感覚からおよそ千年くらいは経っておろうと思ったが、その通りじゃったの。千年も眠りについたとなれば、今の世界は我が知っていた世界とは随分と様変わりしたことであろうて」
「まあ、千年も経ってますしね」
「実際、ここもただの山奥になっておる。千年前は、そこそこ大きな村々が集まっておったのじゃぞ? 我が眠りについた祭壇も、今や風化しきってもはや岩くれと化しておったわ」
へえ。
千年前はここにも人が住んでいたんだ。
今は全く人気がないけれど、千年という時間は膨大だ。環境が一変してるなんてザラだろう。
フェンリルが怪訝な顔でわたしを見下ろす。
「して、アイリこそなぜこんな所におるのじゃ? 我からすれば、幼子が一人でこのような山奥におること自体が奇妙なのじゃが」
「あー、それは……」
これ、本当のこと言っちゃって良いのかな?
本来ならわたしが『転生者』であることはバラさない方が無難ではありそうだけど……。
でも、フェンリルは『神獣』。
神格みたいな超常的な肩書きを持ってるなら、ここは正直に打ち明けてみても良いかもしれない。
意を決して口を開く。
「あの、女神アスティアーネ様ってご存知ですか?」
その名前を聞いた神獣は、目を丸くした。
「アスティアーネ……懐かしき名じゃのう。神界で何度か会うたことがあるわ。じゃが、我が出会う度にあやつは何かしらポカをやらかしてその始末に終われておったがのぅ。まったく、どんくさい女神じゃ」
「あ、あはは」
アスティアーネ様って昔からおっちょこちょいなんだ。
わたしを『ながら転生』なる理不尽きわまりない理由で異世界送りにしただけはある。
まあ、一旦それは置いといて。
「実はわたし、そのアスティアーネ様を介してこの世界に転生して来たんです」
「なぬ!? 転生じゃと!?」
フェンリルが初めて驚きの顔を浮かべた。
さすがにわたしが転生者だとは思わなかったか。
「はい。前世は日本っていう別の世界で暮らしていたんですけど、天界で手違いがあったらしく、色々あってこの世界に来ることになったんです。あ、この幼女の肉体はこの世界で亡くなってしまった現地人のものなんですけど」
この幼女――セリエーヌちゃんが『ランダム転生魔法』という超高等魔法を繰り出してしまい、それが女神アスティアーネ様の監視の目を潜り抜けた結果、日本のオフィスで深夜残業をしていたわたしの魂が弾き出されて天に召されてしまったのだ。
わたしの話を黙って聞いてくれたフェンリルは、納得したように頷いた。
「ふむ、事情は分かった。幼女の身でありながら、中身は成熟した女子というわけじゃな」
「ま、まあ、一応……」
「アイリも昨日目覚めたばかりで、この山奥にあった小屋を出てここまで歩いてきた、と」
「はい。山を下りた所に人間の街があるみたいなんで、そこに向かおうかと」
「ふむふむ」
フェンリルは少し考えるように前足を顎に添え、大きく鼻を鳴らす。
「――決めた! ならば、我がアイリをその街まで連れて行ってやろう!」
「えっ! いいんですか!?」
思ってもみない申し出に、わたしは目を輝かせる。
おっと、しっかりサングラスをかけないとね。
テンションが上がると魔眼が暴発しちゃう。
「気にすることはない。先ほど我の体を綺麗にしてくれた礼じゃ」
「魔法撃ち込んだだけですけどね」
でも、この神獣が街まで連れていってくれるなら、すぐに到着できちゃうんじゃない!?
だって見るからに早そうな足してるし!
幼女の体では長距離の移動は厳しいと痛感したところだったしね……!
「じゃあ、街に着くまでの短い間ですけど、よろしくお願いします!」
「ううむ……」
わたしがお礼を言うと、フェンリルは視線を彷徨わせ、少しためらいがちに続けた。
「それなんじゃが、アイリよ。良かったらなのじゃが……しばらく我と行動を共にせんか?」
「え、どうして?」
わたしの質問に、フェンリルは遠い目をして答えた。
「実は我は極東にあった国の出身での。かつてはその地を治めておられた主神に仕えておったこともあるのじゃ。千年も経ってしもうたが、いまいちど、彼の地に足を踏み入れ、探訪してみたいんじゃよ」
「極東の国、ですか。それって遠いんですか?」
「遠いのぅ。というか、この場所からならほとんど惑星の反対側なんじゃないかのぅ」
「そ、そんなに!?」
日本で言うところのブラジルみたいな位置付け!?
めっちゃ遠いじゃん!?
「我単独で向かっても良いのじゃが、なにぶん千年も経過しておるがゆえ社会や常識も変わっておろう。ならば、我の素性を知る現地の人間と行動を共にした方が、何かと都合が良かろうて」
「でも、わたしは極東の国に行くか分からないですよ? 気ままに巻物集めの旅をしようと思ってはいますけど」
「巻物じゃと?」
ああ、そうか。
わたしが巻物《スクロール》を欲している理由を説明していなかった。
肩に掛けたマジックバッグから、下級の巻物を取り出す。
「はい。わたしの魔眼は、今はこの『神のサングラス』で暴発を抑えているんですけど、でもずっとサングラスをかけてるのって不便じゃないですか? 今はこんな下級の巻物しか持っていないんですけど、魔法の暴発を抑える上級の巻物を収集して、この魔眼の暴発を克服しようと思って!」
「そうか。ちなみにじゃが、千年前の極東の国は巻物の宝庫じゃったぞ?」
「えっ、ほんとに!?」
初耳なんだけど!
でも、『巻物』っていかにも巻物の形だったよね。
それに巻物のタイトルも『魔力ノ暴発ヲ抑エシ書 ―火の巻―』みたいな、いかにも古風な雰囲気があったし。
もしかして、巻物ってその極東の国発祥の産物なの!?
「そ、そうだったんだ……! なら、絶対に極東の国には行ってみないと!」
「そうか! ならば、我とアイリの最終目的地は同じということじゃの! ということは――」
フェンリルの言葉を、わたしが引き継ぐ。
「はい! わたしと一緒に旅のお供をしてください、フェンリルさん!」
「うむ! この我に任せるが良い!」
わたしとフェンリルは互いに笑い合う。
わたしは幼女のか弱い肉体をカバーしてもらい、旅の道中をサポートしてもらうために。
フェンリルは慣れない千年後の世界で悪目立ちしないよう、現地人であるわたしにフォローしてもらうために。
互いを助け合う形で、当面の目的地――『極東の国』に向けて旅をすることになった!
と、そこで、わたしは引っ掛かりを覚える点を提案してみる。
「あの、ずっとフェンリルさんって呼ぶのもなんかアレなんで、仮の名前をつけません?」
「ふむ、そうじゃの。ならばアイリが名付けるが良い」
「え、わたしが!?」
「言い出しっぺじゃろう。我に似合った名前をつけるのじゃぞ!」
言い出しっぺの法則というやつか……。
うーん、そうだなぁ。
改めてフェンリルの姿を見る。
白銀のもふもふの毛並み。
大の大人でも見上げるくらいに大きく、雄々しく四本の足で立つ勇ましい姿。
あと可愛い狼さん。
ぽくぽくぽく……、と頭を悩ませたわたしは、やがてチーン! と閃いた。
「――モッフィ、とかどうでしょうか!?」
その名前に、フェンリルが若干たじろいだ。
「モ、モッフィじゃと? う、ううむ、ちと可愛らし過ぎはせんか?」
「そんなことないですよ! それに可愛らしいのは問題ないです! だって実際可愛いし! できることならもふりたいしぃ!!」
カッと目を見開いて熱弁するわたしにフェンリルはやや押されつつ、ゴホンと咳払いをした。
「ま、まあ、それくらい可愛らしい名前の方がこの世界の人間に警戒心を抱かれなくて良いかもしれんの。ならば、我は今この瞬間から『モッフィ』と名乗ることにしよう」
「やったー!!」
手を上げて喜ぶわたしに、モッフィは照れるのを隠すようにそっぽを向く。
すると、モッフィは思い出したようにぐぐっとわたしに顔を寄せてきた。
「それと、我には畏まらずとも良い。千年前は、あまり魔物に敬語で話しかける人間はおらんかったからの」
「そうなんですか? でも神様だし……」
「我は自らが神であることをあまりひけらかすつもりはない。その他の人間たちには、アイリの使い魔くらいに思われておった方がなにかと都合が良かろうて」
たしかに神獣のフェンリルを連れて歩いているグラサン幼女って、怪しさ満載すぎる。
まあ幼女がグラサンかけて出歩いてる時点で怪しいんだけど、そこにフェンリルまで加わったら大騒ぎになりそうだ。
「でも神獣を使い魔って……バチとか当たりませんよね?」
「我が許しておるのだからバチなど当たるわけがなかろう。仮にアイリに罰を下すような神がおるならば、我がちと神界に出向いて話をつけてきてやるわい!」
なんと頼もしいセリフか。
神獣様が言うと説得力が違うね……!
だけど、これからしばらく旅のお供として時間を共有するわけだから、ずっと気を遣いっぱなしだと気疲れしちゃうのも確かだ。
ここはありがたく、モッフィの申し出に乗っからせてもらおう!
「ありがとう! じゃあこれからよろしくね、モッフィ!」
「うむ! こちらこそじゃ、アイリ!」
こうして、わたしの旅にフェンリルという超強力なパートナーが追加されたのだった!
すらっと流れるように伸びる体の曲線美。
狼のような姿と、凛々しい顔つき。
その特徴的な姿に、思わず叫んでしまった。
「えええぇぇーー!! あ、あなたって本当にあのフェンリルだったのーー!?」
全身が土汚れで目立っていた時には全く気付かなかった。
まさか茶黒い体を洗ったら中からこんな美しいフェンリルが現れるなんて!?
「カッカッカ! これじゃこれじゃ! この美しくも麗しい白銀の毛並みこそ、我の真の体じゃ!」
フェンリルは相変わらず豪快に笑う。
そのあまりの変わりように、呆然と立ち尽くしていた。
「礼を言うぞ、幼子よ! たしか、アイリと申したか?」
「は、はい!」
名前を呼ばれ、ハッと意識を取り戻す。
「ま、まさかフェンリルと出会えるなんて……! そうだ、鑑定で確かめてみよう」
わたしは目の前のフェンリルに鑑定を発動させた。
―――――――――――――――――――
【フェンリル】:白銀の狼の姿をした神獣。聖なるエネルギーに満ちており、フェンリルに認められた者は生涯に渡って災厄から守護されるという伝承がある。
―――――――――――――――――――
うわぁ、やっぱり本物のフェンリルなんだ……!
驚きと同時に沸き上がるのは、猛烈なもふもふ欲!
フェンリルのもっふもふな毛並みにダイブして今すぐもふりまくりたい衝動に駆られる!
こんなもふかわ神獣、他にいないよね?
「……お主、何か失礼なことを考えておらんか?」
「い、いえいえ、そんなまさか!」
やばい、見透かされてる……!
わたしは作り笑いを浮かべて話題を変えた。
「それで、どうして神獣のあなたはこんなところにいるんですか?」
「うむ、それなのじゃが」
フェンリルは悩ましげな表情で唸った。
「我は長きに渡って眠りについておっての。目を覚ましたのはついさっきなのじゃ」
「長い眠りって、一体どれほどの……?」
「ふむ……ちなみにじゃが、今は神暦何年じゃ?」
『神歴』っていうのは、前世で言うところの『西暦』みたいなものか。
幼女の知識を借りると――
「今は、神歴二千年です」
「やはりか」
フェンリルは少し視線を落とした後、はっきりとした口調で告げた。
「我が眠りについたのは、神歴が千年にも満たぬ頃じゃったな」
「じ、じゃあ、千年以上もの間、眠りについていたってこと!?」
な、なんというスケール感での爆睡!
ブラック社畜で日夜残業&早朝出社を課されていた前世の私にとったら、なんと羨ま……いや、さすがにちょっと寝過ぎか。
「目を覚ました感覚からおよそ千年くらいは経っておろうと思ったが、その通りじゃったの。千年も眠りについたとなれば、今の世界は我が知っていた世界とは随分と様変わりしたことであろうて」
「まあ、千年も経ってますしね」
「実際、ここもただの山奥になっておる。千年前は、そこそこ大きな村々が集まっておったのじゃぞ? 我が眠りについた祭壇も、今や風化しきってもはや岩くれと化しておったわ」
へえ。
千年前はここにも人が住んでいたんだ。
今は全く人気がないけれど、千年という時間は膨大だ。環境が一変してるなんてザラだろう。
フェンリルが怪訝な顔でわたしを見下ろす。
「して、アイリこそなぜこんな所におるのじゃ? 我からすれば、幼子が一人でこのような山奥におること自体が奇妙なのじゃが」
「あー、それは……」
これ、本当のこと言っちゃって良いのかな?
本来ならわたしが『転生者』であることはバラさない方が無難ではありそうだけど……。
でも、フェンリルは『神獣』。
神格みたいな超常的な肩書きを持ってるなら、ここは正直に打ち明けてみても良いかもしれない。
意を決して口を開く。
「あの、女神アスティアーネ様ってご存知ですか?」
その名前を聞いた神獣は、目を丸くした。
「アスティアーネ……懐かしき名じゃのう。神界で何度か会うたことがあるわ。じゃが、我が出会う度にあやつは何かしらポカをやらかしてその始末に終われておったがのぅ。まったく、どんくさい女神じゃ」
「あ、あはは」
アスティアーネ様って昔からおっちょこちょいなんだ。
わたしを『ながら転生』なる理不尽きわまりない理由で異世界送りにしただけはある。
まあ、一旦それは置いといて。
「実はわたし、そのアスティアーネ様を介してこの世界に転生して来たんです」
「なぬ!? 転生じゃと!?」
フェンリルが初めて驚きの顔を浮かべた。
さすがにわたしが転生者だとは思わなかったか。
「はい。前世は日本っていう別の世界で暮らしていたんですけど、天界で手違いがあったらしく、色々あってこの世界に来ることになったんです。あ、この幼女の肉体はこの世界で亡くなってしまった現地人のものなんですけど」
この幼女――セリエーヌちゃんが『ランダム転生魔法』という超高等魔法を繰り出してしまい、それが女神アスティアーネ様の監視の目を潜り抜けた結果、日本のオフィスで深夜残業をしていたわたしの魂が弾き出されて天に召されてしまったのだ。
わたしの話を黙って聞いてくれたフェンリルは、納得したように頷いた。
「ふむ、事情は分かった。幼女の身でありながら、中身は成熟した女子というわけじゃな」
「ま、まあ、一応……」
「アイリも昨日目覚めたばかりで、この山奥にあった小屋を出てここまで歩いてきた、と」
「はい。山を下りた所に人間の街があるみたいなんで、そこに向かおうかと」
「ふむふむ」
フェンリルは少し考えるように前足を顎に添え、大きく鼻を鳴らす。
「――決めた! ならば、我がアイリをその街まで連れて行ってやろう!」
「えっ! いいんですか!?」
思ってもみない申し出に、わたしは目を輝かせる。
おっと、しっかりサングラスをかけないとね。
テンションが上がると魔眼が暴発しちゃう。
「気にすることはない。先ほど我の体を綺麗にしてくれた礼じゃ」
「魔法撃ち込んだだけですけどね」
でも、この神獣が街まで連れていってくれるなら、すぐに到着できちゃうんじゃない!?
だって見るからに早そうな足してるし!
幼女の体では長距離の移動は厳しいと痛感したところだったしね……!
「じゃあ、街に着くまでの短い間ですけど、よろしくお願いします!」
「ううむ……」
わたしがお礼を言うと、フェンリルは視線を彷徨わせ、少しためらいがちに続けた。
「それなんじゃが、アイリよ。良かったらなのじゃが……しばらく我と行動を共にせんか?」
「え、どうして?」
わたしの質問に、フェンリルは遠い目をして答えた。
「実は我は極東にあった国の出身での。かつてはその地を治めておられた主神に仕えておったこともあるのじゃ。千年も経ってしもうたが、いまいちど、彼の地に足を踏み入れ、探訪してみたいんじゃよ」
「極東の国、ですか。それって遠いんですか?」
「遠いのぅ。というか、この場所からならほとんど惑星の反対側なんじゃないかのぅ」
「そ、そんなに!?」
日本で言うところのブラジルみたいな位置付け!?
めっちゃ遠いじゃん!?
「我単独で向かっても良いのじゃが、なにぶん千年も経過しておるがゆえ社会や常識も変わっておろう。ならば、我の素性を知る現地の人間と行動を共にした方が、何かと都合が良かろうて」
「でも、わたしは極東の国に行くか分からないですよ? 気ままに巻物集めの旅をしようと思ってはいますけど」
「巻物じゃと?」
ああ、そうか。
わたしが巻物《スクロール》を欲している理由を説明していなかった。
肩に掛けたマジックバッグから、下級の巻物を取り出す。
「はい。わたしの魔眼は、今はこの『神のサングラス』で暴発を抑えているんですけど、でもずっとサングラスをかけてるのって不便じゃないですか? 今はこんな下級の巻物しか持っていないんですけど、魔法の暴発を抑える上級の巻物を収集して、この魔眼の暴発を克服しようと思って!」
「そうか。ちなみにじゃが、千年前の極東の国は巻物の宝庫じゃったぞ?」
「えっ、ほんとに!?」
初耳なんだけど!
でも、『巻物』っていかにも巻物の形だったよね。
それに巻物のタイトルも『魔力ノ暴発ヲ抑エシ書 ―火の巻―』みたいな、いかにも古風な雰囲気があったし。
もしかして、巻物ってその極東の国発祥の産物なの!?
「そ、そうだったんだ……! なら、絶対に極東の国には行ってみないと!」
「そうか! ならば、我とアイリの最終目的地は同じということじゃの! ということは――」
フェンリルの言葉を、わたしが引き継ぐ。
「はい! わたしと一緒に旅のお供をしてください、フェンリルさん!」
「うむ! この我に任せるが良い!」
わたしとフェンリルは互いに笑い合う。
わたしは幼女のか弱い肉体をカバーしてもらい、旅の道中をサポートしてもらうために。
フェンリルは慣れない千年後の世界で悪目立ちしないよう、現地人であるわたしにフォローしてもらうために。
互いを助け合う形で、当面の目的地――『極東の国』に向けて旅をすることになった!
と、そこで、わたしは引っ掛かりを覚える点を提案してみる。
「あの、ずっとフェンリルさんって呼ぶのもなんかアレなんで、仮の名前をつけません?」
「ふむ、そうじゃの。ならばアイリが名付けるが良い」
「え、わたしが!?」
「言い出しっぺじゃろう。我に似合った名前をつけるのじゃぞ!」
言い出しっぺの法則というやつか……。
うーん、そうだなぁ。
改めてフェンリルの姿を見る。
白銀のもふもふの毛並み。
大の大人でも見上げるくらいに大きく、雄々しく四本の足で立つ勇ましい姿。
あと可愛い狼さん。
ぽくぽくぽく……、と頭を悩ませたわたしは、やがてチーン! と閃いた。
「――モッフィ、とかどうでしょうか!?」
その名前に、フェンリルが若干たじろいだ。
「モ、モッフィじゃと? う、ううむ、ちと可愛らし過ぎはせんか?」
「そんなことないですよ! それに可愛らしいのは問題ないです! だって実際可愛いし! できることならもふりたいしぃ!!」
カッと目を見開いて熱弁するわたしにフェンリルはやや押されつつ、ゴホンと咳払いをした。
「ま、まあ、それくらい可愛らしい名前の方がこの世界の人間に警戒心を抱かれなくて良いかもしれんの。ならば、我は今この瞬間から『モッフィ』と名乗ることにしよう」
「やったー!!」
手を上げて喜ぶわたしに、モッフィは照れるのを隠すようにそっぽを向く。
すると、モッフィは思い出したようにぐぐっとわたしに顔を寄せてきた。
「それと、我には畏まらずとも良い。千年前は、あまり魔物に敬語で話しかける人間はおらんかったからの」
「そうなんですか? でも神様だし……」
「我は自らが神であることをあまりひけらかすつもりはない。その他の人間たちには、アイリの使い魔くらいに思われておった方がなにかと都合が良かろうて」
たしかに神獣のフェンリルを連れて歩いているグラサン幼女って、怪しさ満載すぎる。
まあ幼女がグラサンかけて出歩いてる時点で怪しいんだけど、そこにフェンリルまで加わったら大騒ぎになりそうだ。
「でも神獣を使い魔って……バチとか当たりませんよね?」
「我が許しておるのだからバチなど当たるわけがなかろう。仮にアイリに罰を下すような神がおるならば、我がちと神界に出向いて話をつけてきてやるわい!」
なんと頼もしいセリフか。
神獣様が言うと説得力が違うね……!
だけど、これからしばらく旅のお供として時間を共有するわけだから、ずっと気を遣いっぱなしだと気疲れしちゃうのも確かだ。
ここはありがたく、モッフィの申し出に乗っからせてもらおう!
「ありがとう! じゃあこれからよろしくね、モッフィ!」
「うむ! こちらこそじゃ、アイリ!」
こうして、わたしの旅にフェンリルという超強力なパートナーが追加されたのだった!
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