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第3章 高校1年生 2学期
第42話 セッション。
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学園祭当日。
百合ケ丘生はみないつもより早起きして学園祭の準備に追われていた。
私たちのバンドも例外ではない。
「ふぅ……。重たかった……」
私たちは協力してドラムセットやアンプなどの楽器や機器を舞台裏に運び入れた。
この約1ヶ月ほどの間にずいぶんと親しみを持つようになった楽器たちを、大事に大事に移動させた。
とある事情で、結構時間がかかってしまったが、とりあえずは一段落である。
ナキのバイオリンだけは、自分以外の人に触られたくないとナキが嫌がったので彼が持ち歩いている。
「後は出番を待つばかりだな」
「頑張りましょうね」
「素敵なセッションにしましょう」
誠、柚子さん、由紀さんは準備万端といった感じだ。
今日まで十分とまでは言えないまでもそれなりに練習を積んできた。
その事実が静かな自信となって彼らを支えているように見える。
私はといえば、ものすごく緊張していた。
「どないや、和泉ちゃん。緊張しとる?」
そんなものとは無縁とばかりのへらっとしたナキの声。
「はい。何しろ大人数の前で歌った経験があまりないもので」
「何言うてん。中学で散々歌っとったって冬馬から聞いたで?」
「あぁ……。それはそうなのですが……」
それは和泉の話だ。
私は前世・今世通じて、こんな目立つ形で大人数の前に立った経験など無い。
the 庶民だったのだから。
前世でもこういうイベント事はなくはなかったけれど、もっと大きな集団の中の1人、one of them としての参加であって、バンドのボーカルのような目立つ形ではない。
「緊張しないコツは3つあんねん。1つは聴衆の目を見ないこと。もう1つは自分の歌に集中すること」
「もう1つは?」
私が尋ねると、ナキはニヤリと笑って。
「最後の1つはちょっと難しいかもしれんけど、セッションを楽しむことや。会場との一体感を感じれたら気持ちえーで?」
最後のは確かにハードルが高そうだ。
「手のひらに人という字を書いて飲み込むことにします」
「あー。あれ、余計に意識しすぎて逆効果って話やで?」
「そうなんですか?」
「かぼちゃと思えっていうのも、それが出来たらそもそも上がったりせえへんちゅう話やな」
「脅かさないで下さいよ」
「ハハ。まぁ、気ばりや。どうしようもなくなったらわいの顔見いや。緊張ほぐしたるわ」
軟派に笑うナキ。
「さて、4人とも」
誠が私たちに声を掛けた。
「紆余曲折あったが、こうしてこの日を迎えられたことを嬉しく思う。今日はがんばろう」
「はい」
「へーい」
「はい!」
「はい!」
こうして学園祭が始まった。
◆◇◆◇◆
例年であれば、百合ケ丘の学園祭は土曜日と日曜日の2日間に渡って行われる。
内部学生だけの非公開な土曜日と、一般に公開される日曜日の2日間である。
ところが、今年は誘拐騒ぎと脅迫状の件から、内部学生のみ参加の土曜日1日だけとなってしまった。
何やら学校全体を巻き込んでしまったようで申し訳ない気持ちになるけれど、仕方ないのかな、というのが正直な気持ちだ。
誘拐なんて大それたことを企てる輩がいるのだ。
それと関連があると思しき脅迫状が送りつけられている現状で、一般客を学園内に入れるのは自殺行為だろう。
非公開となったことに対して、学生の親御さんたちから不満が出なかった訳ではない。
けれど、やはり我が子の安全が第一なのだろう。
学園が事情を説明したところ、非公開での開催に同意を取り付けたようだ。
さて、発表されたスケジュールによれば、私たちのユニットの出番は午前の最後である。
言ってみれば、前半戦のトリである。
私はまた心拍が少し上がるのを感じた。
ちなみに、いつねさんたち演劇部の上演は午後の最後――大トリなので、余裕で間に合う。
今日はまだいつねさんに会っていない。
朝のホームルームで、彼女は遅刻するということだった。
(何かあったのかな?)
心配はすれど、詳しいことは分からない。
とはいえ、せっかく勝ち取ったヒロインの座だ。
多少、体調が悪かろうと出席してくるだろう。
私も何事もないことを祈るばかりだ。
◆◇◆◇◆
「……やはりこうなったか」
誠が苦々しげに呟いた。
出番まで1時間を切った舞台裏。
私たちが目にしたのは、無残な姿を晒した楽器たちだった。
誠のギターは弦を切られ、キーボードはいくつか鍵が外され、ドラムセットは皮が破られている。
そしてトドメに一通の封筒。
中にはもうお決まりとなった文面。
『一条 和泉に関わるな』
やってくれたじゃないか、ちくしょう。
「誠の言う通りになりおったな」
唯一自分で持ち歩いていてバイオリンが無事だったナキが言った。
「ああ。すぐ準備をし直そう。手はず通りに」
そう。
私たちはこうなることを予想していた。
今、ここで壊されてしまったのは、実は軽音部のお古なのだ。
脅迫状の件を踏まえて、実際の演奏で使う楽器や機材たちは、体育館に一番近い空き教室に運び込んで鍵を掛けてある。
これが今朝、時間のかかった理由である。
さらに――。
「撮れていればいいがな……」
このブラフの楽器には監視カメラが仕込んであった。
犯行に及んだ人物の姿が写っているかもしれない。
「映像の確認は後だな。とりあえずみんな急ぐぞ」
その後はてんてこ舞いだった。
文化祭実行委員と学校側に事情を説明し、壊れた楽器を運び出し、本物を運び入れ、チューニングし終えた頃にはもう出番だった。
ドキドキしている暇もなかったのは良かったのか悪かったのか。
「軽音部、あと1分で出番でーす」
タイムキーパーが時間を告げた。
「練習はしてきた。あとは存分にやるぞ」
「はい」
「かましたろやないか」
「負けないからね、由紀」
「柚子姉こそ」
意気込みは十分だ。
「よし、いくぞ」
誠を先頭に、舞台へと上がる。
◆◇◆◇◆
ステージの上からは聴衆の姿はあまり見えなかった。
客席の照明が落とされているせいだろうか。
私はナキに言われた通り、目を見ないように務めた。
私の立ち位置は、中央一番前。
一番目立つ位置だ。
右にナキ。
左に誠。
後列右側に柚子さん。
後列左側に由紀さんという配置。
衣装は普段着慣れている制服。
見た目よりも音に集中してもらおうという、誠の配慮である。
拍手が鳴り止み、さあ、これからという時に急に緊張感がこみ上げてきた。
私はナキの言葉を思い出して、一瞬、彼の方を見た。
ナキは苦笑すると、へらっと軽薄な笑みを浮かべた。
そして、ステージの逆サイドを指さした。
そちらを見ると、誠がいた。
彼は私の視線に気がつくと、静かな笑みを浮かべて頷いた。
それだけで、私の緊張はほどけていった。
そうだ。
私には頼りになる仲間がいる。
今、この時。
私はぼっちじゃない。
「軽音楽部その他の有志連合です」
私はマイクで自己紹介をした。
「お送りする曲は『Change』です。それでは、聴いて下さい」
MCは簡潔に。
セッションが、始まる。
前奏はナキ。
どこか雨音を思わせるような静かでゆっくりとした入り。
伸びやかなアマティの調べが聴衆の心をぐっと引きつける。
徐々にテンポアップして緊張感を高め、Aメロの直前で一旦弛緩する。
Aメロは柚子さんのキーボードと誠のギターが主旋律を奏で、由紀さんのドラムが土台を支える。
そして私の歌が主役だ。
――キミはいつも孤独だね。
歌い出しはスムースにいった。
歌詞の忘れもない。
ドラムが刻むリズムに合わせながら、ギターとキーボードの調べに乗って調子よく歌う。
Aメロは抑えめ。
寂しげな雰囲気を漂わせた音律。
ナキが一瞬高めた緊張をひっぱりにひっぱる。
――でも、本当にキミはひとりぼっち?
続くBメロ。
構成は変わらず。
寂しげな音律も曲の組み立ても変わらない。
けれどサビに入るところに、階段を駆け上がるような旋律の山がある。
聴衆の心をもぎ取るように、引きずり出すように歌い上げる。
――You can change. So do I. So do I.
1回目のサビ。
ギターが高く吠える。
キーボードが複雑な旋律を紡ぎだす。
私はそれに負けないように、高く、低く、音の奔流に身を任せて歌いきった。
間奏。
間奏は抑えめ。
打ち込みのベースが静かに間をつなぐ。
再びAメロ、Bメロ、サビとこなし、今度はCメロへの間奏。
ここは誠とナキの協奏が入る。
キーボード、ドラムを従えて、音を響かせる誠のギターとナキのバイオリン。
細かく刻むような音をいくつもいくつも重ねて、競うように高みへと登っていく。
もう少し、という所でまた一旦弛緩し、曲はCメロへと移っていく。
――耳を塞いで瞳を閉じて。でもそれで本当にいいの?
寂しげな調子を一層深め、いっそ切なげに、呟くように歌う。
ここで一旦、テンションを切る――と思わせて、最後の怒涛のサビへ。
――You can change. So do I. So do I.
誠とナキがその実力を遺憾なく発揮する。
柚子さんのキーボードと由紀さんのドラムも最高潮だ。
私も懸命に歌う。
誠と先生の思いが詰まったこの曲。
どうか届け、みんなの心へ。
後奏。
もう1つのサビとも言うべき、最後の山。
誠のギターとナキのバイオリンが競うように、絡みあうように、高く高く登っていく。
真面目なギターリストと不真面目なバイオリニストという、普通とは逆のキャラクターである2人。
見解の相違はあった。
衝突もあった。
でも今はこうして同じステージに上がり、共に1つの曲を作り上げている。
歌い終えて2人の協奏――いや、競奏に身を委ねる私。
終わりたくない。
いつまでもこの音に身を委ねていたい。
そんなことを微睡むように考えるともなく感じながら音に包まれる。
ギターとバイオリンの音がうねるように高まり、テンションが最高潮に達して、そして――。
曲が終わった。
私たちの演奏に、聴衆は万雷の拍手で応えてくれた。
私たちは顔を見合わせると、とびっきりの笑顔で微笑みあった。
悪くない。
こういうのもたまには、悪くない。
百合ケ丘生はみないつもより早起きして学園祭の準備に追われていた。
私たちのバンドも例外ではない。
「ふぅ……。重たかった……」
私たちは協力してドラムセットやアンプなどの楽器や機器を舞台裏に運び入れた。
この約1ヶ月ほどの間にずいぶんと親しみを持つようになった楽器たちを、大事に大事に移動させた。
とある事情で、結構時間がかかってしまったが、とりあえずは一段落である。
ナキのバイオリンだけは、自分以外の人に触られたくないとナキが嫌がったので彼が持ち歩いている。
「後は出番を待つばかりだな」
「頑張りましょうね」
「素敵なセッションにしましょう」
誠、柚子さん、由紀さんは準備万端といった感じだ。
今日まで十分とまでは言えないまでもそれなりに練習を積んできた。
その事実が静かな自信となって彼らを支えているように見える。
私はといえば、ものすごく緊張していた。
「どないや、和泉ちゃん。緊張しとる?」
そんなものとは無縁とばかりのへらっとしたナキの声。
「はい。何しろ大人数の前で歌った経験があまりないもので」
「何言うてん。中学で散々歌っとったって冬馬から聞いたで?」
「あぁ……。それはそうなのですが……」
それは和泉の話だ。
私は前世・今世通じて、こんな目立つ形で大人数の前に立った経験など無い。
the 庶民だったのだから。
前世でもこういうイベント事はなくはなかったけれど、もっと大きな集団の中の1人、one of them としての参加であって、バンドのボーカルのような目立つ形ではない。
「緊張しないコツは3つあんねん。1つは聴衆の目を見ないこと。もう1つは自分の歌に集中すること」
「もう1つは?」
私が尋ねると、ナキはニヤリと笑って。
「最後の1つはちょっと難しいかもしれんけど、セッションを楽しむことや。会場との一体感を感じれたら気持ちえーで?」
最後のは確かにハードルが高そうだ。
「手のひらに人という字を書いて飲み込むことにします」
「あー。あれ、余計に意識しすぎて逆効果って話やで?」
「そうなんですか?」
「かぼちゃと思えっていうのも、それが出来たらそもそも上がったりせえへんちゅう話やな」
「脅かさないで下さいよ」
「ハハ。まぁ、気ばりや。どうしようもなくなったらわいの顔見いや。緊張ほぐしたるわ」
軟派に笑うナキ。
「さて、4人とも」
誠が私たちに声を掛けた。
「紆余曲折あったが、こうしてこの日を迎えられたことを嬉しく思う。今日はがんばろう」
「はい」
「へーい」
「はい!」
「はい!」
こうして学園祭が始まった。
◆◇◆◇◆
例年であれば、百合ケ丘の学園祭は土曜日と日曜日の2日間に渡って行われる。
内部学生だけの非公開な土曜日と、一般に公開される日曜日の2日間である。
ところが、今年は誘拐騒ぎと脅迫状の件から、内部学生のみ参加の土曜日1日だけとなってしまった。
何やら学校全体を巻き込んでしまったようで申し訳ない気持ちになるけれど、仕方ないのかな、というのが正直な気持ちだ。
誘拐なんて大それたことを企てる輩がいるのだ。
それと関連があると思しき脅迫状が送りつけられている現状で、一般客を学園内に入れるのは自殺行為だろう。
非公開となったことに対して、学生の親御さんたちから不満が出なかった訳ではない。
けれど、やはり我が子の安全が第一なのだろう。
学園が事情を説明したところ、非公開での開催に同意を取り付けたようだ。
さて、発表されたスケジュールによれば、私たちのユニットの出番は午前の最後である。
言ってみれば、前半戦のトリである。
私はまた心拍が少し上がるのを感じた。
ちなみに、いつねさんたち演劇部の上演は午後の最後――大トリなので、余裕で間に合う。
今日はまだいつねさんに会っていない。
朝のホームルームで、彼女は遅刻するということだった。
(何かあったのかな?)
心配はすれど、詳しいことは分からない。
とはいえ、せっかく勝ち取ったヒロインの座だ。
多少、体調が悪かろうと出席してくるだろう。
私も何事もないことを祈るばかりだ。
◆◇◆◇◆
「……やはりこうなったか」
誠が苦々しげに呟いた。
出番まで1時間を切った舞台裏。
私たちが目にしたのは、無残な姿を晒した楽器たちだった。
誠のギターは弦を切られ、キーボードはいくつか鍵が外され、ドラムセットは皮が破られている。
そしてトドメに一通の封筒。
中にはもうお決まりとなった文面。
『一条 和泉に関わるな』
やってくれたじゃないか、ちくしょう。
「誠の言う通りになりおったな」
唯一自分で持ち歩いていてバイオリンが無事だったナキが言った。
「ああ。すぐ準備をし直そう。手はず通りに」
そう。
私たちはこうなることを予想していた。
今、ここで壊されてしまったのは、実は軽音部のお古なのだ。
脅迫状の件を踏まえて、実際の演奏で使う楽器や機材たちは、体育館に一番近い空き教室に運び込んで鍵を掛けてある。
これが今朝、時間のかかった理由である。
さらに――。
「撮れていればいいがな……」
このブラフの楽器には監視カメラが仕込んであった。
犯行に及んだ人物の姿が写っているかもしれない。
「映像の確認は後だな。とりあえずみんな急ぐぞ」
その後はてんてこ舞いだった。
文化祭実行委員と学校側に事情を説明し、壊れた楽器を運び出し、本物を運び入れ、チューニングし終えた頃にはもう出番だった。
ドキドキしている暇もなかったのは良かったのか悪かったのか。
「軽音部、あと1分で出番でーす」
タイムキーパーが時間を告げた。
「練習はしてきた。あとは存分にやるぞ」
「はい」
「かましたろやないか」
「負けないからね、由紀」
「柚子姉こそ」
意気込みは十分だ。
「よし、いくぞ」
誠を先頭に、舞台へと上がる。
◆◇◆◇◆
ステージの上からは聴衆の姿はあまり見えなかった。
客席の照明が落とされているせいだろうか。
私はナキに言われた通り、目を見ないように務めた。
私の立ち位置は、中央一番前。
一番目立つ位置だ。
右にナキ。
左に誠。
後列右側に柚子さん。
後列左側に由紀さんという配置。
衣装は普段着慣れている制服。
見た目よりも音に集中してもらおうという、誠の配慮である。
拍手が鳴り止み、さあ、これからという時に急に緊張感がこみ上げてきた。
私はナキの言葉を思い出して、一瞬、彼の方を見た。
ナキは苦笑すると、へらっと軽薄な笑みを浮かべた。
そして、ステージの逆サイドを指さした。
そちらを見ると、誠がいた。
彼は私の視線に気がつくと、静かな笑みを浮かべて頷いた。
それだけで、私の緊張はほどけていった。
そうだ。
私には頼りになる仲間がいる。
今、この時。
私はぼっちじゃない。
「軽音楽部その他の有志連合です」
私はマイクで自己紹介をした。
「お送りする曲は『Change』です。それでは、聴いて下さい」
MCは簡潔に。
セッションが、始まる。
前奏はナキ。
どこか雨音を思わせるような静かでゆっくりとした入り。
伸びやかなアマティの調べが聴衆の心をぐっと引きつける。
徐々にテンポアップして緊張感を高め、Aメロの直前で一旦弛緩する。
Aメロは柚子さんのキーボードと誠のギターが主旋律を奏で、由紀さんのドラムが土台を支える。
そして私の歌が主役だ。
――キミはいつも孤独だね。
歌い出しはスムースにいった。
歌詞の忘れもない。
ドラムが刻むリズムに合わせながら、ギターとキーボードの調べに乗って調子よく歌う。
Aメロは抑えめ。
寂しげな雰囲気を漂わせた音律。
ナキが一瞬高めた緊張をひっぱりにひっぱる。
――でも、本当にキミはひとりぼっち?
続くBメロ。
構成は変わらず。
寂しげな音律も曲の組み立ても変わらない。
けれどサビに入るところに、階段を駆け上がるような旋律の山がある。
聴衆の心をもぎ取るように、引きずり出すように歌い上げる。
――You can change. So do I. So do I.
1回目のサビ。
ギターが高く吠える。
キーボードが複雑な旋律を紡ぎだす。
私はそれに負けないように、高く、低く、音の奔流に身を任せて歌いきった。
間奏。
間奏は抑えめ。
打ち込みのベースが静かに間をつなぐ。
再びAメロ、Bメロ、サビとこなし、今度はCメロへの間奏。
ここは誠とナキの協奏が入る。
キーボード、ドラムを従えて、音を響かせる誠のギターとナキのバイオリン。
細かく刻むような音をいくつもいくつも重ねて、競うように高みへと登っていく。
もう少し、という所でまた一旦弛緩し、曲はCメロへと移っていく。
――耳を塞いで瞳を閉じて。でもそれで本当にいいの?
寂しげな調子を一層深め、いっそ切なげに、呟くように歌う。
ここで一旦、テンションを切る――と思わせて、最後の怒涛のサビへ。
――You can change. So do I. So do I.
誠とナキがその実力を遺憾なく発揮する。
柚子さんのキーボードと由紀さんのドラムも最高潮だ。
私も懸命に歌う。
誠と先生の思いが詰まったこの曲。
どうか届け、みんなの心へ。
後奏。
もう1つのサビとも言うべき、最後の山。
誠のギターとナキのバイオリンが競うように、絡みあうように、高く高く登っていく。
真面目なギターリストと不真面目なバイオリニストという、普通とは逆のキャラクターである2人。
見解の相違はあった。
衝突もあった。
でも今はこうして同じステージに上がり、共に1つの曲を作り上げている。
歌い終えて2人の協奏――いや、競奏に身を委ねる私。
終わりたくない。
いつまでもこの音に身を委ねていたい。
そんなことを微睡むように考えるともなく感じながら音に包まれる。
ギターとバイオリンの音がうねるように高まり、テンションが最高潮に達して、そして――。
曲が終わった。
私たちの演奏に、聴衆は万雷の拍手で応えてくれた。
私たちは顔を見合わせると、とびっきりの笑顔で微笑みあった。
悪くない。
こういうのもたまには、悪くない。
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