Fairy

さくららららんぼ

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Fairy

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 「ハァッ…ハァッ…ハァッ…!」

 足が痛い。

 足だけじゃない、全身が痛い。

 だが足を止める訳にはいかないっ……。

 足を止めたらその瞬間は私は死ぬ!

 奴らは人間じゃない!!

 さっきの光景はまるで地獄絵図だった。

 思い出しただけで吐き気がする。
 
 「ともかく、早くここから逃げなければ私も殺される!」

 出口が見える。

 あともう少しで助かる……!

 助かるんだ!!

 安心しきったその刹那、私は宙を舞う。

 そしてすぐに地面に落ちた。

 「あ、れ?」

 どうして、体が動かない?

 出口は目の前なのに……。

 おかしい。足の感覚がない。

 「最後の一人を発見した、直ちに始末する。」

 知らない白銀の髪の女が私を見下ろしている。

 手には銃を持っている。

 殺されるっ!!!

 「…………なぁ、ゲームをしようか。」

 「え?」

 「今から十数える間に、そこの扉に触れたら家に返してやる。」

 この女は何を言っているんだ?

 だが、助かるためなら何だってやる!

 「……わかった。」

 「じゃあ数えるぞ……1……。」

 私は這いつくばって出口へ向かう。

 「……2……3……4。」

 いける!このペースなら間に合うぞ!

 「……5……6……7。」

 あと少し!

 もう少しで手が届く!!!

 「……8……9……。」

 トン。

 触れた。扉に触れることが出来た。

 これで私は助かる。

 ああ……。太陽の木漏れ日が美しい。

 生きるとはこんなに素晴らしいことなのか。

 家に帰ったら、家族を抱きしめよう!

 妻に愛してると言おう!

 子供に美味しいものを食べさせよう!

 私は生き残ったっ!!

 生きて帰れるんだ!

 「おめでとう。時間内に扉に触れることが出来た。約束通り家に返そう。」

 女は銃をしまうと、背を向けて歩き始めた。
 
 「助かった……。」

 つい本音が口からこぼれてしまった。

 目から大量の涙が溢れてくる。

 目だけじゃない、鼻からも口からも出てくる。

 おかしい、口の中が鉄の味だ。

 手で口を押さえようと思ったが、なぜだか手が動かせない。

 視界も悪くなってきた。

 きっと、疲労が溜まりすぎたせいだろう。

 少し休めば、良くなるさ。

 そうだ、今日はこのまま寝よう。そして明日家族の元へ帰るんだ。

 私はそっと目を閉じた。

 「生かして返すとは一言も言っていない。」

 意識がなくなる前にそんな言葉を聞いた気がした……。
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