【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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一章

1話 寮の部屋

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「まぁ、コウテイペンギンですし。未来の皇帝に相応しいんじゃないですか」
「気休めを言うなティーグレ! どこが皇帝だ! なんか小さいぞこのペンギン!」
「ピング殿下も小柄な皇帝の予定でしょ。お似合いですよ、可愛らしくて」
「ううううううー!」

 ティーグレと呼ばれた男がベージュのカーペットに片膝をつき、成鳥にしては小振りのペンギンの頭を撫でる。
 その和やかこの上ない様子を学生寮のベッドの上で見たピングは、天敵を懸命に威嚇する小動物を思わせる唸り声を上げた。

 魔術師見習いの黒いローブを脱ぎ捨てた浅葱色の詰襟姿で、バフンバフンと弾力のある枕に何度も何度も頭を打ち付ける。それでも、成人男性が二人は余裕で寝られそうなベッドはビクともしない。

 痛みを受けない場所を心得てのたうち回るピングの姿を、ペンギンを撫でる手を腹に移動させていたティーグレの紫色の瞳が眺めていた。
 薄い唇を片方上げ、笑いを堪えているのが丸わかりの表情だ。

「何が不満なんですか。ようやく召喚できたのに」
「未来の皇帝の一生の相棒だぞ! かわいいは求めてないんだよ!!」
「おっと」

 渾身の力でピングが投げたフリル付きの白い枕が、ティーグレに当たる直前。
 大きな影が二人の間を通り過ぎる。
 ピングの癖のある金髪とティーグレの刈り上げた短い銀髪が舞い上がった。

 枕を器用に咥えたその姿を見て、ピングは再びベッドに蹲る。

「ホワイトタイガーカッコいい! 羨ましいぃいい!! イケメンずるいぃい! ティーグレなんて永久にどっか行ってしまえぇええ!!」

 腹の底から出した声がこだまする。
 机、本棚、収納棚、カーテンに窓ガラス、部屋の全てが揺れると錯覚するほどの音量だ。
 使い魔のペンギンはひっくり返り、ホワイトタイガーは口から枕を落とした。

「……そんなに?」

 幼なじみで乳兄弟でもある侯爵家の嫡男、ティーグレ・アルジェント・グリチーネは口元を引き攣らせてしまったのだった。
 
 マーレ帝国領の海には、宙に浮く島がある。
 その島がここ、マーレ魔術学園の所在地だ。

 庶民から貴族まで、魔術の素質あるマーレ帝国民全てが通う学舎である。
 魔術の素質があるかどうかは、国がとり行う成人の儀にて判明する。
 魔術師は重宝されるため、素質があるということは将来を約束されたも同然だと言えよう。

 魔術大国であるこの国の歴代皇帝は、特に優れた魔術師であると言われている。
 現皇帝であるピングの父もまた、その一人。

 皇太子のピングももちろん、そう期待されている……わけでもなかった。

「また父上と母上に『ピングらしいなぁ』と温かく微笑まれてしまうぅう」
「温かく微笑んでもらえるならいいじゃないですか」
「父上は大鷲、母は鮫、弟のアトヴァルなんてシャチだぞ! なんで私だけっ……ペンギン……」

 ペンギンが悪いわけではない。ペンギンはかわいい。
 ピングだってペンギンが好きだ。

 だが、使い魔は召喚した魔術師の人生の相棒。
 使い魔は召喚する人物に相応しい形をしていると言われていて、魔術師本人を象徴する動物であるとも言える。

 それが、ペンギン。

 将来、皇帝として国を治める立場のピングは正直、もっと威厳のある動物が良かった。

「ライオンが良かった……」
「先日パーティでお会いした隣国の王女の使い魔はライオンでしたね」
「うわぁあああんカッコよかったぁああ」

 きっと次に会ったとき、笑われるに違いない。
 ベッドに伏して泣きべそをかいているピングを、起き上がったペンギンはつぶらな瞳でひたすら見つめている。

 ホワイトタイガーがベッドの傍に寄ってふわふわとした金髪を鼻先で柔らかく突く。すると、ガバッと体を起こしたピングはホワイトタイガーの首に抱き付いた。

「どうせ私は顔も頭脳も魔力も武道も何もかも出来損ないでアトヴァルの足元にも及ばないんだ。せめて使い魔くらいかっこよくあれよ! またみんなに『どっちが皇太子?』って言われるんだイケメンはずるい!」

 ピングは白と黒の温かい毛並みに顔を埋めて擦り付け、ぐずぐずイジケ始める。
 そんなピングを見ているティーグレはフッと目を細めて、

「めんどくさかわいい」

 と呟いた。残念ながらぐじぐじと独り言を続けるピングには届かなかったが、そんなことは気にせずにティーグレはピングの肩をポンと叩いた。

「まぁアトヴァル殿下はチート級なんで諸々の能力値は置いといて。顔面偏差値は変わりません」
「気休めを言うな」

 チートだの顔面偏差値だのと、辞書にない言葉をよく使う幼なじみだが長い付き合いだから理解している。
 ピングと弟のアトヴァルは外見の良さにおいてだけは大差ないと言っているのだ。

「そんなわけないだろ」

 口をへの字に曲げたピングは鼻を啜るが、ティーグレの言う通りである。

 魔力や学力、運動能力など全てにおいて平均以下の実力のピングではあるが。
 柔らかい金髪も大きな青い目もそれを縁取る長いまつ毛も、線の細い骨格も、ピングの外見はどこもかしこも整っている。
 小柄で線が細く、男らしいとは言えないが、完璧に美形の部類である。

 ネガティブで感情的な部分がそれをぶち壊しているだけなのだ。

 今もホワイトタイガーに頬ずりしながら卑屈な目をペンギンに向けていた。

「お前もあいつと同じイケメンで背が高くて魔力が強くて男女問わずモテモテで使い魔までかっこよくて……私の気持ちなんて分かるはずがないんだ。ペンギンなんて……ペンギンなんて……」
「ところで、ピング殿下」

 ぶつぶつといつまでも自分のパートナーを認められずにいるピングの言葉を、「もういいや」とばかりにティーグレは断ち切る。
 ピングはしょんぼりと眉を下げたままティーグレを見る。

「なんだ。私はしばらく立ち直れないぞ」
「そろそろ食堂に行かないと夕飯を食いっぱぐれます」
「……食欲ない……」

 皇太子というだけで目立つ存在が、一年間も使い魔を召喚することができず。
 いつ召喚できるのかと興味の的になっていたのだ。
 そして、ようやく召喚できたと思ったらペンギンである。

 一般の生徒ならば誰も気にしないのだろうが、自分たちの国の皇太子の使い魔がペンギンとは。
 陰で嘲笑されるに決まっている。
 ただでさえ学園に来てからの成績が芳しくなく、補習を受ける惨めな姿を晒しているというのに。
 もうこのまま引きこもってしまいたかった。

 肩を落としていると、ティーグレがふわりと金色の髪を撫でてくれる。見下ろしてくる紫の瞳が、揶揄う様子は形を潜めて優しく細まった。

「召喚できたお祝いに俺のデザートあげますよ」
「おいティーグレ。何やってる早く行くぞ」
「え、はや」

 ドアの前に立つピングを見て、ティーグレの目はベッドとドアを何往復もする。
 瞬間移動の魔術でも使ったのかというほど、素早い動きだった。
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