43 / 83
二章
42話 変化
しおりを挟む
「嘘だろ!? えっ! どうして!? なんでー!!」
日光が葉と葉の間からしか差し込まない、影の多い森の中。
ペンギンの口の中を覗き込んでいたピングは、背後から聞こえた絶叫に近い声に飛び上がる。
振り返るとティーグレが真っ青な顔で立ち尽くしていた。
「ど、どうしたティーグレ?」
「待て、そんなの……嘘だろ、シナリオが違う!!」
人生のほとんどを共に過ごしているが、こんなに取り乱したティーグレは初めて見た。
「し、シナリオ……?」
久しぶりに聞いた前後関係のよく分からないティーグレの単語。質問しているつもりで投げかけたが、ティーグレは返事をする余裕なくペンギンを抱き上げた。
「吐き出してくれ!!」
ペンギンを逆さまにして乱暴に揺らし始めたティーグレは、発狂していると言っても過言ではない。
ピングは止めることもできず、ただ豹変した幼馴染を唖然と見上げるしかなかった。
時は少し遡る。
喧嘩の日以降は穏やかな日が続いた。嵐の前の静けさ、だったのかもしれない。
アトヴァルとの大喧嘩についてはティーグレが、
「魔術の練習中に力加減を間違った」
と先生たちに報告してくれていたので、妙な噂になることもなく終わることができた。
ティーグレはあらかじめ周囲に結界まで張ってくれていたらしい。用意周到すぎて、
「まるで未来が見えてるみたいだ」
と、リョウイチが驚くほどだ。
今日ものどかな日だった。天気は良好、ピングは寝起きもスッキリしていて、ティーグレとのんびり登校した。
寮から校舎までの並木道で、アトヴァルとリョウイチが手を繋いで歩いているのを見かけ、歩くペースを落としたりしつつ滞りなく学園に着く。
授業も大きなミスなく、ピングは居残りをすることもなく下校時間まで過ごしたのだ。
なんと平和で良い日なんだろう。
ところで、最近ピングは気になっていることがあった。
ティーグレが変なのだ。
元々変なのだが、どうも変の方向性が変わってきている。
例えば、だ。
(よし、図書館行くか)
その日、出た課題をするためにはいくつかの資料を調べる必要があった。他の生徒はもう少しゆっくり始めるかもしれないが、ピングは自分が課題を完成させるのに時間が掛かるのを知っている。
課題が出た日の内に準備を始めると決めていた。
授業が終わってすぐに回廊に出たピングの隣を当然のように歩くティーグレが、足元にまとわりつくペンギンを抱き上げる。
「ピング殿下、図書館ですか?」
「ああ、資料を借りに行こうかと」
「ご一緒します」
ティーグレは優秀だから1日あれば終わるだろうに、その日は図書館で二人で並びながらずっと課題をこなした。
ところどころピングが唸っているところがあると、ティーグレが気づいて助言してくれたので課題の進みがとても良かった。
また別の日。
ティーグレが女子生徒に囲まれているのを、どうしようもなく面白くない気持ちで眺めながら、
(召喚の練習でもしよう)
と思い立ったときのこと。
近頃、ようやくペンギンが制御できるようになってきた。
本当にアトヴァルへのわだかまりが原因で言うことを聞かなかったのではないかと思うほど、話し合った後から暴走しない。
魔術は技術や修練の他に精神状態も大きく関わるから、影響はあったのかもしれない。
それをピングよりも先に感じ取った担任のシュエットが、そろそろペンギンを召喚しっぱなしにしなくてもいいのではないかと提案してくれたのだ。
(魔術塔なら誰にも迷惑かけないかな……)
「ピング殿下、どこ行くんですか」
学舎から少し離れたところに見える塔を教室の窓から眺めながら立ち上がると、ティーグレがすぐに反応した。
女子生徒たちにデレデレしていたくせに、まるでピングが動くのを待っていたかのような素早さだった。
「ペンギンの召喚と解除の練習をしようかと」
「付き合いますよ」
女子生徒に笑顔を振りまくティーグレと並んで歩くのが嫌で早足になったピングだったが、脚の長さの差のせいかすぐに追いつかれてしまう。
「ショートカットしましょうか」
と、召喚したホワイトタイガーに乗せられ、ティーグレに後ろから抱きしめられて。
練習に付き合って貰えるのはありがたいが、どうも落ち着かない気持ちになった。
更には。
(トイレ……)
「ピング殿下」
「トイレ……だぞ?」
「一緒にいきます」
「ああ……え……うん……? うん」
というやりとりをする日まで出てくる始末。
そう。最近のティーグレはピングがどこへ行くにもついてくるのだ。
もちろんこれまでも、一緒にいる時間は長かった。クラスも同じだし、ピングもティーグレが一緒にいると安心した。
それでも、常に一緒にいた訳じゃない。
「諸用が」
「アトヴァル殿下を眺めてきます」
「あ……そろそろあれだ。お先に失礼します」
と、ティーグレは何かと忙しそうにしていたのだ。理由は分からないが、とにかく色んなところへ赴いていた。
ピングがついていくと言っても、のらりくらりと躱されてしまうから諦めたほど。
だというのに、そういったことがなくなった。
これも、アトヴァルと長い睨めっこからの話し合いをしてからだ。
ティーグレが「アトヴァルアトヴァル」という回数も圧倒的に減った。
出会うと気持ち悪い発言をするのは健在だが、以前ほど能動的に会いに行くことはなくなったようだ。
一体ティーグレに何があったのか。
本人に聞くことも出来ないし、ティーグレに聞けなければピングは相談する相手も居なかった。
日光が葉と葉の間からしか差し込まない、影の多い森の中。
ペンギンの口の中を覗き込んでいたピングは、背後から聞こえた絶叫に近い声に飛び上がる。
振り返るとティーグレが真っ青な顔で立ち尽くしていた。
「ど、どうしたティーグレ?」
「待て、そんなの……嘘だろ、シナリオが違う!!」
人生のほとんどを共に過ごしているが、こんなに取り乱したティーグレは初めて見た。
「し、シナリオ……?」
久しぶりに聞いた前後関係のよく分からないティーグレの単語。質問しているつもりで投げかけたが、ティーグレは返事をする余裕なくペンギンを抱き上げた。
「吐き出してくれ!!」
ペンギンを逆さまにして乱暴に揺らし始めたティーグレは、発狂していると言っても過言ではない。
ピングは止めることもできず、ただ豹変した幼馴染を唖然と見上げるしかなかった。
時は少し遡る。
喧嘩の日以降は穏やかな日が続いた。嵐の前の静けさ、だったのかもしれない。
アトヴァルとの大喧嘩についてはティーグレが、
「魔術の練習中に力加減を間違った」
と先生たちに報告してくれていたので、妙な噂になることもなく終わることができた。
ティーグレはあらかじめ周囲に結界まで張ってくれていたらしい。用意周到すぎて、
「まるで未来が見えてるみたいだ」
と、リョウイチが驚くほどだ。
今日ものどかな日だった。天気は良好、ピングは寝起きもスッキリしていて、ティーグレとのんびり登校した。
寮から校舎までの並木道で、アトヴァルとリョウイチが手を繋いで歩いているのを見かけ、歩くペースを落としたりしつつ滞りなく学園に着く。
授業も大きなミスなく、ピングは居残りをすることもなく下校時間まで過ごしたのだ。
なんと平和で良い日なんだろう。
ところで、最近ピングは気になっていることがあった。
ティーグレが変なのだ。
元々変なのだが、どうも変の方向性が変わってきている。
例えば、だ。
(よし、図書館行くか)
その日、出た課題をするためにはいくつかの資料を調べる必要があった。他の生徒はもう少しゆっくり始めるかもしれないが、ピングは自分が課題を完成させるのに時間が掛かるのを知っている。
課題が出た日の内に準備を始めると決めていた。
授業が終わってすぐに回廊に出たピングの隣を当然のように歩くティーグレが、足元にまとわりつくペンギンを抱き上げる。
「ピング殿下、図書館ですか?」
「ああ、資料を借りに行こうかと」
「ご一緒します」
ティーグレは優秀だから1日あれば終わるだろうに、その日は図書館で二人で並びながらずっと課題をこなした。
ところどころピングが唸っているところがあると、ティーグレが気づいて助言してくれたので課題の進みがとても良かった。
また別の日。
ティーグレが女子生徒に囲まれているのを、どうしようもなく面白くない気持ちで眺めながら、
(召喚の練習でもしよう)
と思い立ったときのこと。
近頃、ようやくペンギンが制御できるようになってきた。
本当にアトヴァルへのわだかまりが原因で言うことを聞かなかったのではないかと思うほど、話し合った後から暴走しない。
魔術は技術や修練の他に精神状態も大きく関わるから、影響はあったのかもしれない。
それをピングよりも先に感じ取った担任のシュエットが、そろそろペンギンを召喚しっぱなしにしなくてもいいのではないかと提案してくれたのだ。
(魔術塔なら誰にも迷惑かけないかな……)
「ピング殿下、どこ行くんですか」
学舎から少し離れたところに見える塔を教室の窓から眺めながら立ち上がると、ティーグレがすぐに反応した。
女子生徒たちにデレデレしていたくせに、まるでピングが動くのを待っていたかのような素早さだった。
「ペンギンの召喚と解除の練習をしようかと」
「付き合いますよ」
女子生徒に笑顔を振りまくティーグレと並んで歩くのが嫌で早足になったピングだったが、脚の長さの差のせいかすぐに追いつかれてしまう。
「ショートカットしましょうか」
と、召喚したホワイトタイガーに乗せられ、ティーグレに後ろから抱きしめられて。
練習に付き合って貰えるのはありがたいが、どうも落ち着かない気持ちになった。
更には。
(トイレ……)
「ピング殿下」
「トイレ……だぞ?」
「一緒にいきます」
「ああ……え……うん……? うん」
というやりとりをする日まで出てくる始末。
そう。最近のティーグレはピングがどこへ行くにもついてくるのだ。
もちろんこれまでも、一緒にいる時間は長かった。クラスも同じだし、ピングもティーグレが一緒にいると安心した。
それでも、常に一緒にいた訳じゃない。
「諸用が」
「アトヴァル殿下を眺めてきます」
「あ……そろそろあれだ。お先に失礼します」
と、ティーグレは何かと忙しそうにしていたのだ。理由は分からないが、とにかく色んなところへ赴いていた。
ピングがついていくと言っても、のらりくらりと躱されてしまうから諦めたほど。
だというのに、そういったことがなくなった。
これも、アトヴァルと長い睨めっこからの話し合いをしてからだ。
ティーグレが「アトヴァルアトヴァル」という回数も圧倒的に減った。
出会うと気持ち悪い発言をするのは健在だが、以前ほど能動的に会いに行くことはなくなったようだ。
一体ティーグレに何があったのか。
本人に聞くことも出来ないし、ティーグレに聞けなければピングは相談する相手も居なかった。
189
あなたにおすすめの小説
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる