【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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二章

43話 戸惑い

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 そして、会話していても変なことがある。
 特に何をするわけでもなく、ただピングの顔をじっと見つめてくる時があるのだ。
 端正な顔に意味もなく見られていると居心地が悪いことをピングは知った。

「……私の顔に何かついてるか?」
「はい。青空を宝石に閉じ込めたみたいな瞳がついてますね」

 甘い微笑みを浮かべて、ピングを真っ直ぐと見つめながら、歯の浮くような台詞が次から次へと形の良い唇から流れてくる。

 日によっては髪の煌めきを褒め、声の心地良さを褒め、指の仕草の美しさを褒め。

 さすがにピングが訝しんで、

「お前、頭でも打ったのか?」

 と、眉を顰めても。

「俺は正気です。常々そう思ってました」

 などと頬を撫でながら言ってくるのだ。

「聞いたことないぞ!」

 勢いよく払いのけたが、触れられた頬は桜色を通り越して深紅の薔薇のようになっていた。
 アトヴァルに向けていた下心全開の視線や言動とも少し違う。
 まるで口説かれているようで、勘違いしそうになる。

(女性しか好きにならないくせに揶揄って……)

 その都度ドキドキするこっちの身にもなって欲しい。舞い上がりそうになるのを押さえつけるのに必死だ。

 回廊に無遠慮な足音を響かせ、生徒と生徒の間を縫い歩き、軋む胸を腕に抱えた本で抑える。

 幼いころからずっと一緒にいて、ティーグレを恋愛対象だと思ったことはなかった。
 失恋やアトヴァルとの直接的な喧嘩、魔法薬準備室での触れ合いに夢での温もり。全てがピングを混乱させているに違いない。

 ティーグレは乳兄弟で幼なじみで親友。
 それ以上は求めてはいけないと心に刻み込もうとする。

 考え込んで歩くピングの視界は、どんどん狭くなっていく。回廊を抜けて校庭に出た時、前を向いていても景色は霧がかかったようにぼんやりとしか見えていなかった。

 だから、目の前に人が来たことに全く気が付かずにぶつかってしまう。

「わっ」
「おっと……! すまん、ぼーっとしとった……あれ」
「わ、私も……あ」

 衝撃を受けて重い本ごとひっくり返りそうになった時、強い力で腰を支えられた。
 顔を上げると、太陽の似合う褐色の肌と炎のような髪の美青年が至近距離で覗き込んでいた。見覚えのある顔に、ピングは目を瞬かせる。

 相手もピングの顔を赤い瞳に映して破顔した。

「皇太子様やん」
「ローボ」
「ティーグレ様は?」
「ま、撒いてきた」 

 身体を離しながら、ピングは視線を泳がせる。
 当然のように聞かれるほど、ティーグレはピングと一緒に居たということか。

「最近、見かけたときにはいつも一緒やったのに」
「そ、そうなんだ。ちょっと私も訳がわからない……過保護が加速してる」

 今も教室を出るピングについてこようとしたティーグレが教師に呼ばれた隙に一人になったのだ。

 いくらドキドキするからといって、今更一緒にいるのが嫌なわけではない。しかし最近はティーグレに手伝ってもらいすぎている。自分で出来ることは自分でさせてくれるが、助けてくれるタイミングが早い。

 一体どうしたというのかと頭を悩ませているピングだが、ローボは顎に指を添えて納得したように頷いた。

「なんや遠慮しとるなーと思っとったけど……もう吹っ切って迫ることにしたんちゃう?」
「何の話だ」
「なんのって……」

 真面目に首を傾げるピングに、ローボは目を丸くする。対照的な青と赤の瞳が見つめ合った。
 瞬きの限界までそうした後、ローボはフッと口元を緩めて目を閉じる。

「流石に野暮やな。黙るわ」

 ローボは何かを知っているのだとピングは察した。そういえばティーグレと一緒にいるところはほとんど見たことがないのに、話している様子は親しそうだった。

「ローボ、あの」

 ティーグレの様子がおかしくなった理由を聞こうとピングは口を開きかけたが。

「ほんで、その本を抱えて温室か?」

 サラリとピングのセリフを遮ったローボは、腕に抱えた植物の本をつっついてきた。聞いても笑って流されてしまうのだろうと感じたピングは、諦めて首を左右に振る。

「今日は森だ」
「一人で大丈夫か? 一緒に行ったるで」

 学園の裏にある森は薬草や毒草、鉱石や魔石も採れる、魔術のための素材の宝庫だ。
 学園としてはありがたい場所だが、危険もある。
 奥深くには魔力を持った魔草や魔獣などもいるため、上手く対応出来ないと恐ろしい目に遭う可能性があった。ローボはそれを心配してくれているのだ。

 まだ成績が基準に達していなかったピングは今まで一人で赴くことが出来なかったが、ようやく許可が下りた。

 ローボの申し出はありがたかったが、一人で行ってみたいと言う気持ちも強い。
 許可が下りてからも絶対についてきていたティーグレと離れたかった理由のひとつでもある。

「子どもじゃないんだ。ティーグレが居なくてもできるところを見せてやらないとな!」
「偉いやん。ほな頑張ってな」
「ああ、失礼する」

 拳を握りしめてやる気を見せるピングを止めず、ローボはふわふわした金髪を撫でてから背中を押してくれた。

 ピングは背筋を伸ばし、改めて森への足を踏み出した。
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