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三章
54話 攻略対象
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軽快な笑い声がピングの自室に響く。
勉強机の椅子に座ったティーグレが、涙の滲んだ目元を親指で拭っている。
「おっかし……そりゃ災難でしたね」
「笑うな! もう……本当に、二人の会話はレベルが高すぎた!」
ピングはいつものようにベッドに横たわり枕を投げつけるが、やはりいつものようにホワイトタイガーが大喜びで咥えていった。その白い背にはペンギンがピッタリと張り付いて喜んでいる。
闘技場での出来事を話したのだ。
もちろん、ティーグレのことは伏せて「もし好きな人ができたら」と言う風に話を変えて。
するとティーグレは「俺もその場に居たかった」と笑いだして止まらなくなってしまった。
ティーグレがいたらあそこまでの話にはなっていないはずなのだが、ローボとオルソなら分からない。
大きく息を吐いて呼吸の落ち着きを取り戻したティーグレは、とにかく楽しそうに口を動かす。
「ローボとオルソも、リョウイチの恋人候補なんですよ。攻略対象っていうんですけど」
「な、なんだって!?」
ティーグレといいアトヴァルといい、揃いも揃って美形揃いの恋人候補だ。リョウイチは優秀で男らしいタイプが好きなのだろうか。
悪役だというピングは相当無謀な戦いを挑んでいたようだ。
ピングは「攻略対象」の姿を頭の中で並べてみる。もし魔力が暴走して全員がピングに向かってきたら、ピングはひとたまりもないと身震いした。
「ろ、ローボはともかく……リョウイチとオルソなんて、私からしたら巨人族の恋だな……」
「意外と良い声で鳴くんですよオルソ。タチ専なんて、BLじゃあ受けって言ってるようなもんですしね」
ティーグレがイキイキと喋っている。
何を言っているか分からないし理解しない方が良いとピングの本能が告げているが、オルソがティーグレについて言っていたのと似たような内容であることは分かってしまう。
ピングは呆れ返り、寝そべったままベッドに頬杖をついた。
「お前たちは一回ベッドで勝負してきたらどうだ」
「俺が勝つに決まってるじゃないですか。弱点知ってますもん」
恐ろしく自信満々な言葉が形の良い唇から流れるように出てくる。ピングは訝しげに眉を顰めた。
「弱点?」
「登場人物には一人一人、触られたら猫ちゃんになっちゃう弱点があるんですよ。アトヴァル殿下は口、ローボは胸、オルソは首、シュエット先生は足の指」
「シュエット先生!?」
誰がどこが弱いなどと言う話は最後に突然出てきた登場人物の名によって吹っ飛んでいった。
中性的で透明感のある、しかし眼鏡の奥にある瞳の圧が強い担任を頭に思い浮かべる。
リョウイチとシュエット、2人が恋愛関係になるなんて想像ができない。
「先生も攻略対象なんですよねー実は」
「恋愛に興味なさそうなのに」
「そこがいいですよね」
ティーグレは鼻の下を伸ばしているが、ピングにはよく分からない。
どんなにピングが上手く魔術が使えなくとも見捨てずに教えてくれる、とても良い人だとは思う。
彼は王宮の家庭教師たちと違って、ピングを誰かと比べたりしなかった。
物語の中のリョウイチは、そういうところに惹かれたのかもしれない。
話しながら、ピングはあることに気がついて体を起こす。
「ティーグレもその……コウリャクタイショウだったな?」
「そうですよ」
「弱点はどこなんだ?」
ピングはドキドキしながら聞いてみる。
ティーグレとリョウイチが恋愛する可能性があるならば当然、「猫ちゃんになる」弱点があるに違いない。
ピングの問いかけに対し、ティーグレは一旦目を閉じた後、にっこりと笑う。
「……ちなみにピング殿下は耳です」
「私はコウリャクタイショウじゃないんじゃ」
「違うんですけど、設定資料集に書いてました」
「そ、そうか……そうなのか……」
紫の瞳がねっとりとまとわりつくように見てくるので、思わず両手で耳を覆ってしまった。指摘されると恥ずかしい。視線だけで犯されそうだ。
『耳、弱いですよね』
魔術薬準備室で言われたことを思い出す。なんでピング本人が知らないことまで知っていたのか不思議だったのだ。
ピングは唇を尖らせてティーグレを睨みつけた。
「ずるくないか?」
「こればっかはしょうがないですよねぇ」
「く……! ところで誤魔化されないぞ」
「はい?」
ベッドを降りて、ピングはティーグレが座る椅子の前まで荒い足取りで歩いていく。腕を組んで端正な顔を見下ろした。
「お前の弱点はどこだ」
「ベッドの中でなら教えてあげますよ」
「……」
何を考えているのか読めない表情で、ティーグレが頬に触れてくる。熱い指先に胸が小さく跳ね、ピングは少し迷ってしまった。
勉強机の椅子に座ったティーグレが、涙の滲んだ目元を親指で拭っている。
「おっかし……そりゃ災難でしたね」
「笑うな! もう……本当に、二人の会話はレベルが高すぎた!」
ピングはいつものようにベッドに横たわり枕を投げつけるが、やはりいつものようにホワイトタイガーが大喜びで咥えていった。その白い背にはペンギンがピッタリと張り付いて喜んでいる。
闘技場での出来事を話したのだ。
もちろん、ティーグレのことは伏せて「もし好きな人ができたら」と言う風に話を変えて。
するとティーグレは「俺もその場に居たかった」と笑いだして止まらなくなってしまった。
ティーグレがいたらあそこまでの話にはなっていないはずなのだが、ローボとオルソなら分からない。
大きく息を吐いて呼吸の落ち着きを取り戻したティーグレは、とにかく楽しそうに口を動かす。
「ローボとオルソも、リョウイチの恋人候補なんですよ。攻略対象っていうんですけど」
「な、なんだって!?」
ティーグレといいアトヴァルといい、揃いも揃って美形揃いの恋人候補だ。リョウイチは優秀で男らしいタイプが好きなのだろうか。
悪役だというピングは相当無謀な戦いを挑んでいたようだ。
ピングは「攻略対象」の姿を頭の中で並べてみる。もし魔力が暴走して全員がピングに向かってきたら、ピングはひとたまりもないと身震いした。
「ろ、ローボはともかく……リョウイチとオルソなんて、私からしたら巨人族の恋だな……」
「意外と良い声で鳴くんですよオルソ。タチ専なんて、BLじゃあ受けって言ってるようなもんですしね」
ティーグレがイキイキと喋っている。
何を言っているか分からないし理解しない方が良いとピングの本能が告げているが、オルソがティーグレについて言っていたのと似たような内容であることは分かってしまう。
ピングは呆れ返り、寝そべったままベッドに頬杖をついた。
「お前たちは一回ベッドで勝負してきたらどうだ」
「俺が勝つに決まってるじゃないですか。弱点知ってますもん」
恐ろしく自信満々な言葉が形の良い唇から流れるように出てくる。ピングは訝しげに眉を顰めた。
「弱点?」
「登場人物には一人一人、触られたら猫ちゃんになっちゃう弱点があるんですよ。アトヴァル殿下は口、ローボは胸、オルソは首、シュエット先生は足の指」
「シュエット先生!?」
誰がどこが弱いなどと言う話は最後に突然出てきた登場人物の名によって吹っ飛んでいった。
中性的で透明感のある、しかし眼鏡の奥にある瞳の圧が強い担任を頭に思い浮かべる。
リョウイチとシュエット、2人が恋愛関係になるなんて想像ができない。
「先生も攻略対象なんですよねー実は」
「恋愛に興味なさそうなのに」
「そこがいいですよね」
ティーグレは鼻の下を伸ばしているが、ピングにはよく分からない。
どんなにピングが上手く魔術が使えなくとも見捨てずに教えてくれる、とても良い人だとは思う。
彼は王宮の家庭教師たちと違って、ピングを誰かと比べたりしなかった。
物語の中のリョウイチは、そういうところに惹かれたのかもしれない。
話しながら、ピングはあることに気がついて体を起こす。
「ティーグレもその……コウリャクタイショウだったな?」
「そうですよ」
「弱点はどこなんだ?」
ピングはドキドキしながら聞いてみる。
ティーグレとリョウイチが恋愛する可能性があるならば当然、「猫ちゃんになる」弱点があるに違いない。
ピングの問いかけに対し、ティーグレは一旦目を閉じた後、にっこりと笑う。
「……ちなみにピング殿下は耳です」
「私はコウリャクタイショウじゃないんじゃ」
「違うんですけど、設定資料集に書いてました」
「そ、そうか……そうなのか……」
紫の瞳がねっとりとまとわりつくように見てくるので、思わず両手で耳を覆ってしまった。指摘されると恥ずかしい。視線だけで犯されそうだ。
『耳、弱いですよね』
魔術薬準備室で言われたことを思い出す。なんでピング本人が知らないことまで知っていたのか不思議だったのだ。
ピングは唇を尖らせてティーグレを睨みつけた。
「ずるくないか?」
「こればっかはしょうがないですよねぇ」
「く……! ところで誤魔化されないぞ」
「はい?」
ベッドを降りて、ピングはティーグレが座る椅子の前まで荒い足取りで歩いていく。腕を組んで端正な顔を見下ろした。
「お前の弱点はどこだ」
「ベッドの中でなら教えてあげますよ」
「……」
何を考えているのか読めない表情で、ティーグレが頬に触れてくる。熱い指先に胸が小さく跳ね、ピングは少し迷ってしまった。
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