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三章
53話 お守り
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ピングは一つ息を吐くと、仲睦まじい二人に向かって口を開いた。
「リョウイチ、アトヴァルを連れて行っていいぞ」
「いいの?」
「こ、皇太子殿下」
喜びを隠さずに声を弾ませるリョウイチと、雑用に文句は言っても真面目にこなそうとするアトヴァルが対照的な反応を見せた。
ついついピングは、クスリと笑みを溢してしまう。
「街に行く約束でもしてたんだろう? 行ってこい。お前の分は優秀なローボ先輩とオルソがやってくれるさ」
自分が全てやると言えないのが情けないが、仕方がない。出来ないことを出来ないと分かっているのはピングの長所だ。
ピングが並んで立っているローボとオルソの黒い袖を引くと、
「えー」
「かしこまりました」
と、これまた正反対の返事がきた。
リョウイチは唇を尖らせているローボを華麗にスルーして、アトヴァルを抱きしめ直す。滑らかな金の髪に頬を擦り寄せた。
「じゃあお言葉に甘えようアトヴァル」
「……借りを作ってはいけない人間が、1番納得していないようなんだが」
「じゃあ借りごと私が受け持つから行ってこい」
抱きしめ合っている恋人同士の体を強めに押した。
さっさと行けと手で示してやると、リョウイチは一点の曇りもない笑顔で手を振って見せてきた。アトヴァルも、照れくさそうに頬を染めて頭を下げている。
にこやかに見送っていると、ローボがじっと覗き込んできた。
「な、なんだ」
「優しー。元恋敵やのに。無理してへん?」
「私は兄だからな」
心の底から、晴れやかな気持ちで言うことができた。
もう未練は全くない。
胸を張るピングの頭を、ローボが両手で撫で回してきた。
「かわええな~!」
「うわわわわっ!」
明るい声と共にわしゃわしゃと髪を乱され、ピングは軽く目が回る。だが、不意にローボの手が止まった。
「あれ。結局つけとるんやん、お守り」
視線の先には首飾りにした、白い石のついている指輪。戯れあっているうちにローブから出てきてしまったのだ。
これは以前ローボにもらった恋のお守りの指輪だった。
「え、あ……まぁその……いい出会いがあればと思って」
見つかったのが恥ずかしくて視線が泳いでしまう。
机の引き出しの奥にしまい込んでたのだが、引っ張り出してきたのだ。
もちろん「良い出会い」を求めているのではない。
本当に恋を叶えられるならと期待してのことだった。
そそくさとローブの中に指輪を隠すピングを見て、ローボは意味ありげに口角を上げた。
「へぇ……ところでティーグレ様は脈ありなん?」
「なっ! ……なんでティーグレが出てきたんだ」
「俺を誤魔化そうなんて100年早いで。何を躊躇しとん? 仲ええんやしひと押しすれば一発やん」
明らかに不自然な反応をしてしまって後悔しながらも、ピングは勘違いだと首を振る。
ローボは至極当然のように言うが、仲がいいのと恋愛関係になれるのは別だ。
ティーグレはピングを友人として、もっと言うなら家族のように大事にしてくれていると思う。だがそれは、ピングが求めている愛情とは違った。
その証拠に、口説くような甘い言葉も熱い目も、向けてくれたのは一瞬のことだった。
ペンギンが魔力の塊を飲んでしまってから、ティーグレはまた忙しそうに動き回っている。
もちろんピングのためだと分かっているし、ピングも一緒に魔力の塊について調べているが。
残念な気持ちはどうしても湧いてきてしまっていた。
「てぃ、ティーグレは気まぐれにからかってくるだけで……私は女性じゃないし……」
「ティーグレ様が『女専門』って言ったん気にしとんや! ほんまかわええなぁ」
ピングがもにょもにょと呟きながら眉を下げると、ローボは手を口に当てて大袈裟に驚いてくる。すでに檻の魔術の確認を始めていたオルソに赤い瞳を向けた。
「その方が燃えると思わん? オルソも黙っとらんとなんか言いや」
話を振られたオルソの濃紺の瞳は、真っ直ぐにピングを射抜いた。思わずピングの方が背筋を伸ばしてしまう。
「男は無理だと言う人間ほどいい声で鳴きます。このオルソ、皇太子殿下がお求めになるならいつでもティーグレ様を堕とします」
「待て待て待て! なんか違う!」
真剣この上ない表情でなんてことを言うんだろう。
前言撤回だ。オルソは真面目には違いないだろうが、この言動は色々と慣れていそうだと感じる。知らない世界を垣間見た気持ちだ。
ローボもオルソの言葉には首を左右に振った。
「お前がティーグレ様の体を堕としてどないすんねん。ピング殿下が抱いてもらわな意味ないやん」
「そうか」
「違う。違わないけどちょっと違う」
それではまるで、身体だけが目当てのようになってしまっている。
抱いて欲しいか欲しくないかで言えば、最終的にはティーグレとソウイウ関係になれれば良いと思う。
しかしその前に心を通わせなければ意味がない。
なんとか上手く伝えようと言葉を頭で練っていると、ローボが両肩を勢いよく掴んできた。
目が輝いているのは気のせいではないだろう。
「まさかの抱きたい方なん!? 初めては不安やろし俺で練習するか?」
「なんで嬉しそうなんだ! 恋心を下半身に直結させるな!」
「抱かれる準備であれば、自分がいつでも馳せ参じます」
「要らない!!」
ピングは力強く言い切る。
曇りなきまなこが恐ろしい。
いつもふざけているローボはともかくだ。
オルソはもしもピングが「抱かれ方が分からないから教えてほしい」と口にしたら、会話の前後から冗談だと分かるような場合でもベッドに直行するだろう。
必死なピングを横目に、ローボは急に冷静な表情と声になる。
「そら要らんわな。体格差見てみぃ。皇太子殿下、足腰立たんようになるで。お前結構激しいし」
「準備をお手伝いしようというだけだ」
「気持ちだけで!」
ピングはずっと叫んでいて喉が痛くなってきた。肩で息をしていると、ローボがポケットから小さな正方形の魔石を出して差し出してくる。
「ほなとりあえず、防音魔道具だけやるわ。いざという時のために」
「必要ない!!」
二人の会話はピングにとってまだ習っていない魔術以上に難しい。
ローボもオルソも、シュエットに頼まれた雑用はきっちりこなしてくれたが。
ピングはもうこの二人には恋愛相談をしないと誓うのだった。
「リョウイチ、アトヴァルを連れて行っていいぞ」
「いいの?」
「こ、皇太子殿下」
喜びを隠さずに声を弾ませるリョウイチと、雑用に文句は言っても真面目にこなそうとするアトヴァルが対照的な反応を見せた。
ついついピングは、クスリと笑みを溢してしまう。
「街に行く約束でもしてたんだろう? 行ってこい。お前の分は優秀なローボ先輩とオルソがやってくれるさ」
自分が全てやると言えないのが情けないが、仕方がない。出来ないことを出来ないと分かっているのはピングの長所だ。
ピングが並んで立っているローボとオルソの黒い袖を引くと、
「えー」
「かしこまりました」
と、これまた正反対の返事がきた。
リョウイチは唇を尖らせているローボを華麗にスルーして、アトヴァルを抱きしめ直す。滑らかな金の髪に頬を擦り寄せた。
「じゃあお言葉に甘えようアトヴァル」
「……借りを作ってはいけない人間が、1番納得していないようなんだが」
「じゃあ借りごと私が受け持つから行ってこい」
抱きしめ合っている恋人同士の体を強めに押した。
さっさと行けと手で示してやると、リョウイチは一点の曇りもない笑顔で手を振って見せてきた。アトヴァルも、照れくさそうに頬を染めて頭を下げている。
にこやかに見送っていると、ローボがじっと覗き込んできた。
「な、なんだ」
「優しー。元恋敵やのに。無理してへん?」
「私は兄だからな」
心の底から、晴れやかな気持ちで言うことができた。
もう未練は全くない。
胸を張るピングの頭を、ローボが両手で撫で回してきた。
「かわええな~!」
「うわわわわっ!」
明るい声と共にわしゃわしゃと髪を乱され、ピングは軽く目が回る。だが、不意にローボの手が止まった。
「あれ。結局つけとるんやん、お守り」
視線の先には首飾りにした、白い石のついている指輪。戯れあっているうちにローブから出てきてしまったのだ。
これは以前ローボにもらった恋のお守りの指輪だった。
「え、あ……まぁその……いい出会いがあればと思って」
見つかったのが恥ずかしくて視線が泳いでしまう。
机の引き出しの奥にしまい込んでたのだが、引っ張り出してきたのだ。
もちろん「良い出会い」を求めているのではない。
本当に恋を叶えられるならと期待してのことだった。
そそくさとローブの中に指輪を隠すピングを見て、ローボは意味ありげに口角を上げた。
「へぇ……ところでティーグレ様は脈ありなん?」
「なっ! ……なんでティーグレが出てきたんだ」
「俺を誤魔化そうなんて100年早いで。何を躊躇しとん? 仲ええんやしひと押しすれば一発やん」
明らかに不自然な反応をしてしまって後悔しながらも、ピングは勘違いだと首を振る。
ローボは至極当然のように言うが、仲がいいのと恋愛関係になれるのは別だ。
ティーグレはピングを友人として、もっと言うなら家族のように大事にしてくれていると思う。だがそれは、ピングが求めている愛情とは違った。
その証拠に、口説くような甘い言葉も熱い目も、向けてくれたのは一瞬のことだった。
ペンギンが魔力の塊を飲んでしまってから、ティーグレはまた忙しそうに動き回っている。
もちろんピングのためだと分かっているし、ピングも一緒に魔力の塊について調べているが。
残念な気持ちはどうしても湧いてきてしまっていた。
「てぃ、ティーグレは気まぐれにからかってくるだけで……私は女性じゃないし……」
「ティーグレ様が『女専門』って言ったん気にしとんや! ほんまかわええなぁ」
ピングがもにょもにょと呟きながら眉を下げると、ローボは手を口に当てて大袈裟に驚いてくる。すでに檻の魔術の確認を始めていたオルソに赤い瞳を向けた。
「その方が燃えると思わん? オルソも黙っとらんとなんか言いや」
話を振られたオルソの濃紺の瞳は、真っ直ぐにピングを射抜いた。思わずピングの方が背筋を伸ばしてしまう。
「男は無理だと言う人間ほどいい声で鳴きます。このオルソ、皇太子殿下がお求めになるならいつでもティーグレ様を堕とします」
「待て待て待て! なんか違う!」
真剣この上ない表情でなんてことを言うんだろう。
前言撤回だ。オルソは真面目には違いないだろうが、この言動は色々と慣れていそうだと感じる。知らない世界を垣間見た気持ちだ。
ローボもオルソの言葉には首を左右に振った。
「お前がティーグレ様の体を堕としてどないすんねん。ピング殿下が抱いてもらわな意味ないやん」
「そうか」
「違う。違わないけどちょっと違う」
それではまるで、身体だけが目当てのようになってしまっている。
抱いて欲しいか欲しくないかで言えば、最終的にはティーグレとソウイウ関係になれれば良いと思う。
しかしその前に心を通わせなければ意味がない。
なんとか上手く伝えようと言葉を頭で練っていると、ローボが両肩を勢いよく掴んできた。
目が輝いているのは気のせいではないだろう。
「まさかの抱きたい方なん!? 初めては不安やろし俺で練習するか?」
「なんで嬉しそうなんだ! 恋心を下半身に直結させるな!」
「抱かれる準備であれば、自分がいつでも馳せ参じます」
「要らない!!」
ピングは力強く言い切る。
曇りなきまなこが恐ろしい。
いつもふざけているローボはともかくだ。
オルソはもしもピングが「抱かれ方が分からないから教えてほしい」と口にしたら、会話の前後から冗談だと分かるような場合でもベッドに直行するだろう。
必死なピングを横目に、ローボは急に冷静な表情と声になる。
「そら要らんわな。体格差見てみぃ。皇太子殿下、足腰立たんようになるで。お前結構激しいし」
「準備をお手伝いしようというだけだ」
「気持ちだけで!」
ピングはずっと叫んでいて喉が痛くなってきた。肩で息をしていると、ローボがポケットから小さな正方形の魔石を出して差し出してくる。
「ほなとりあえず、防音魔道具だけやるわ。いざという時のために」
「必要ない!!」
二人の会話はピングにとってまだ習っていない魔術以上に難しい。
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