【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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三章

67話 霧

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「ティーグレ!」

 ようやくピングが我に帰って叫んだ時には、すでにアトヴァルがティーグレの体を瓦礫から救出していた。
 ピングはすぐに地面を蹴り、ティーグレの元に走る。

 その背後では巨大化したままのペンギンが暴れ始め、リョウイチたちが再び臨戦態勢に入っていた。

「大丈夫かティーグレ!」
「……」

 目を閉じたまま、ティーグレは何も返事をしない。額から赤い液体が流れているのが見えた。
 心臓が嫌な音を立てる。血の気が引いていくのに汗も滲む。腹がギュッと握りつぶされているように痛い。

 ピングは震える指先で、アトヴァルに抱かれているティーグレに触れた。

「ティーグレ……」
「気を失っているだけです。すぐに治癒を……皇太子殿下?」

 冷静に振る舞おうとしているアトヴァルも、すぐに治癒の呪文が唱えられないほど呼吸が早い。だが、ピングの異変に気がついて真っ青な顔を覗き込んできた。

「……ティーグレ、が……」

 全く動かない。顔に触れたピングの手に、べったりと赤色が移っていく。対照的にどんどん色を失っていくティーグレの顔。
 ピングは呆然と立ち尽くしていた。
 鉄のような匂いが鼻腔を支配し、喉が気持ち悪い。

「私が」
「皇太子殿下、私を見てください」

 アトヴァルは地面にティーグレを横たわらせ、ピングの赤い手を握ってきた。
 きっと、温かいのだろう。
 だが今のピングにはそれが分からない。

 すぐ近くでリョウイチ達が自分の使い魔のペンギンに対処しているのに、「止めなければならない」とすら思い至らない。

 頭の中が真っ暗に染まっていく。

「私の、使い魔が」
「皇太子、殿下……あなたは」

 手を握っているアトヴァルは、ピングの魔力が変質していることに気がついたようだ。

 ピングは体から滲み出ていく魔力を止めることが出来ないでいた。禍々しくドス黒く、まるで魔獣や魔草などの魔物達のような魔力だ。

 アトヴァルはピングの両頬を掴んでくる。
 焦点を失ったピングの瞳に自分を映そうと声を荒げた。

「兄上!! ティーグレは大丈夫です!」

 しかし、ピングの耳には届かない。
 ピングの頭の中は、別の声が響いていた。

『何があっても自分せいじゃないって図太い気持ちでいてください』

 お守りのような、愛しい言葉だ。
 ピングのことだけを思って言ってくれた、大切な。

「すまないティーグレ」
「ピング!!」

 アトヴァルの声が遠くなっていく。
 体も心も、最早言うことを聞かなくなっていた。

「無理だ」

 声が掠れる。
 視界がぼやけていく。

(だって、私のせいだ)

 果たして。
 治癒できたら、怪我をさせたことはなかったことになるのだろうか。
 運が悪ければあの一撃で命を落としていたかもしれないというのに。

 曇りきった空色の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
 体から感じたことのないほどの魔力を感じる。
 目に見えるほどの魔力が黒い霧のようになってピングから放たれ、ペンギンを包んだ。

 そして、ピングの意識はそこで途切れた。
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