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三章
68話 暗闇
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水面に浮かんでいるようだ。
体の力を全て抜いて、何も考えず漂う気楽さに流される。
静かに。穏やかに。
どのくらいそうしていたのだろう。
朝日が顔に当たって自然と目覚める時のように、すっきりと意識が浮上した。
「……? あれ……私は……」
ピングは真っ暗闇にいた。
地面でもない、床でもない、かと言って空中でもないどこかに立っている。
自分の体が見えないほど暗いのに、恐怖を感じない不思議な空間だった。
妙に頭が澄み切っている。
見えないけれど、体の感覚は確かに感じる。
腕を汲んだピングは目を閉じて頭を捻る。
目を閉じても開いても景色が同じなことを、少し面白く感じながら。
「確か、私はティーグレと魔獣を……いや、ローボたちが来てくれて、アトヴァルとリョウイチも……」
声は問題なく出せる。耳に届いている。
あえて順を追って言葉にしていくと、一気に記憶が蘇ってきた。
巨大化したペンギンが暴れ回って、ピングは体の中の魔力を留め置くことが出来なくなったのだ。
「魔力の塊が使い魔の中で暴走して、私に影響を与えたのか……ということは!」
死んでしまう!
ピングは頭を抱えて蹲る。
『なんとか使い魔は止めたけど、ピングは器以上の魔力に耐えられなくて……』
ティーグレの苦しそうな声を思い出した。
「どうしよう、どうしようティーグレ……アトヴァルが大丈夫って言ってくれたからティーグレは無事なはずなのに私が取り乱したから……っ」
意識があるということはまだ生きているのだろう。生きていて魔力の塊のせいでどこかに、というところまで考えて思い至る。
もしかして、もう死んでいるのでは。
死後、人がどうなるかなど知っているものはいない。
体が終わっても、精神だけはこのように生きたままなのか。
もしくはだんだんとこの意識も薄れていくのか。
ピングは見えない体を震わせた。
「や、やだ私はまだ……まだ……」
声がしぼんでいく。
死にたくない、と以前のように言い切れない。
見えない手のひらを顔の前に掲げる。
全く臭いも感覚もないはずなのに、血液が手から滴る感覚は残っている。
きちんと魔力を制御できていれば、もっとピングが気をつけていればと後悔の波が押し寄せた。
(どうして私は、自分の心配なんか。本来は高確率でもうこの世にいないはずだったんだから……どうでもいいか。いなかったら、ティーグレはあんな怪我をすることはなくて。……痛かっただろうな)
傷が癒えたところで、大怪我をした恐怖はなくならない。
ピングは鼻を啜った。どうか、アトヴァルがあの後すぐにティーグレを治してくれているようにと祈る。
膝を抱え込みながら片手を無意識に首元にやった。
「ん?」
手に硬いものが触れた。指先で形を辿ると、輪っかの形をしているものだ。
すぐにいつもつけている「恋のお守り」の指輪だと分かった。
「……魔獣たちを収めたら聞かせたかったことって、なんだったんだろうな」
興奮していてちゃんと聞かなかった言葉を頭で繰り返す。言い訳したいとか、なんとか必死に訴えていた。
「いつも私の為に一生懸命だな、お前は」
ピングを生き残らせる為に生きてきたと言ってくれたのに、全て台無しにしてしまったと胸が痛む。
「……いや……それはいけない」
人の苦労をぐちゃぐちゃにして、大好きな人を悲しませて終わる人生なんて認めたくない。
真っ暗などこかに手をついて、ゆっくりと立ち上がる。手の中の指輪を、強く握りしめた。
人の期待にも自分の期待にも応えられず、出来損ないの人生を送ってきて。
こんなに強く願ったことはない。
「私はまだ生きる!」
心の叫びが無の空間に響き渡る。
手の中の指輪が熱くなり、指の隙間から優しい紫色の光が溢れ出てきた。
驚いて手を離せば、指輪についている魔石が心を包み込むような光を発している。
周囲が照らされて本当に何もない空間だったと分かるが、ピングは自分の体が見えるようになった。
頭の天辺から足の先まで全体を愛しい色の光が包み込んでくれている。
『気休めですけど』
ティーグレが魔術を施してくれたのを思い出した。
温度も何もない光だ。でも胸が熱い。
足元から波紋が広がるように、何もない空間に彩りが出てくる。
上を見上げれば、流れ星が夜空を輝かせていた。至近距離で星が飛んでいるようにさえ感じる。
「……え?」
ピングは周囲を見渡す。
足の裏には何かを踏んでいる感覚がある。
だが、どう見ても体は空の上にあった。
次に、足元から喧騒が聞こえてきて下を見る。
「あれは……もしかしてペンギンか!!?」
黒翼を闘技場を覆い尽くすように広げ、鋭い三日月のような嘴が上空からも分かる怪鳥がいた。
全体的に黒い体に白い腹、蹴られたら怪我では済まない爪の長い足。
ペンギンと色合いは似ているのに、姿形は全く異なる。ギョロリと血走った大きな目をしており、体型に丸みが少ない。特に黒翼は、空に舞い上がれるほど大きかった。
それでもピングには分かる。
石壁が壊れることなどお構いなしに羽をはばたかせて暴れている怪鳥は、自分の使い魔だ。
ピングは透明な床に這いつくばってもっとよく見ようとする。
すると体が闘技場内へと降りていった。
便利なことに、行きたい場所に行き、見たいものが見られるらしい。
「ティーグレ!」
まず、ピングを抱いて立っているティーグレが目に飛び込んできた。
額を始め、体全体についていた傷は全て消えている。顔色もよく、しっかりとピングの小さな体を支えている様子からティーグレは完全に無事なことが伝わってきた。
ピングは顔も体も、全ての力が抜ける。
体の力を全て抜いて、何も考えず漂う気楽さに流される。
静かに。穏やかに。
どのくらいそうしていたのだろう。
朝日が顔に当たって自然と目覚める時のように、すっきりと意識が浮上した。
「……? あれ……私は……」
ピングは真っ暗闇にいた。
地面でもない、床でもない、かと言って空中でもないどこかに立っている。
自分の体が見えないほど暗いのに、恐怖を感じない不思議な空間だった。
妙に頭が澄み切っている。
見えないけれど、体の感覚は確かに感じる。
腕を汲んだピングは目を閉じて頭を捻る。
目を閉じても開いても景色が同じなことを、少し面白く感じながら。
「確か、私はティーグレと魔獣を……いや、ローボたちが来てくれて、アトヴァルとリョウイチも……」
声は問題なく出せる。耳に届いている。
あえて順を追って言葉にしていくと、一気に記憶が蘇ってきた。
巨大化したペンギンが暴れ回って、ピングは体の中の魔力を留め置くことが出来なくなったのだ。
「魔力の塊が使い魔の中で暴走して、私に影響を与えたのか……ということは!」
死んでしまう!
ピングは頭を抱えて蹲る。
『なんとか使い魔は止めたけど、ピングは器以上の魔力に耐えられなくて……』
ティーグレの苦しそうな声を思い出した。
「どうしよう、どうしようティーグレ……アトヴァルが大丈夫って言ってくれたからティーグレは無事なはずなのに私が取り乱したから……っ」
意識があるということはまだ生きているのだろう。生きていて魔力の塊のせいでどこかに、というところまで考えて思い至る。
もしかして、もう死んでいるのでは。
死後、人がどうなるかなど知っているものはいない。
体が終わっても、精神だけはこのように生きたままなのか。
もしくはだんだんとこの意識も薄れていくのか。
ピングは見えない体を震わせた。
「や、やだ私はまだ……まだ……」
声がしぼんでいく。
死にたくない、と以前のように言い切れない。
見えない手のひらを顔の前に掲げる。
全く臭いも感覚もないはずなのに、血液が手から滴る感覚は残っている。
きちんと魔力を制御できていれば、もっとピングが気をつけていればと後悔の波が押し寄せた。
(どうして私は、自分の心配なんか。本来は高確率でもうこの世にいないはずだったんだから……どうでもいいか。いなかったら、ティーグレはあんな怪我をすることはなくて。……痛かっただろうな)
傷が癒えたところで、大怪我をした恐怖はなくならない。
ピングは鼻を啜った。どうか、アトヴァルがあの後すぐにティーグレを治してくれているようにと祈る。
膝を抱え込みながら片手を無意識に首元にやった。
「ん?」
手に硬いものが触れた。指先で形を辿ると、輪っかの形をしているものだ。
すぐにいつもつけている「恋のお守り」の指輪だと分かった。
「……魔獣たちを収めたら聞かせたかったことって、なんだったんだろうな」
興奮していてちゃんと聞かなかった言葉を頭で繰り返す。言い訳したいとか、なんとか必死に訴えていた。
「いつも私の為に一生懸命だな、お前は」
ピングを生き残らせる為に生きてきたと言ってくれたのに、全て台無しにしてしまったと胸が痛む。
「……いや……それはいけない」
人の苦労をぐちゃぐちゃにして、大好きな人を悲しませて終わる人生なんて認めたくない。
真っ暗などこかに手をついて、ゆっくりと立ち上がる。手の中の指輪を、強く握りしめた。
人の期待にも自分の期待にも応えられず、出来損ないの人生を送ってきて。
こんなに強く願ったことはない。
「私はまだ生きる!」
心の叫びが無の空間に響き渡る。
手の中の指輪が熱くなり、指の隙間から優しい紫色の光が溢れ出てきた。
驚いて手を離せば、指輪についている魔石が心を包み込むような光を発している。
周囲が照らされて本当に何もない空間だったと分かるが、ピングは自分の体が見えるようになった。
頭の天辺から足の先まで全体を愛しい色の光が包み込んでくれている。
『気休めですけど』
ティーグレが魔術を施してくれたのを思い出した。
温度も何もない光だ。でも胸が熱い。
足元から波紋が広がるように、何もない空間に彩りが出てくる。
上を見上げれば、流れ星が夜空を輝かせていた。至近距離で星が飛んでいるようにさえ感じる。
「……え?」
ピングは周囲を見渡す。
足の裏には何かを踏んでいる感覚がある。
だが、どう見ても体は空の上にあった。
次に、足元から喧騒が聞こえてきて下を見る。
「あれは……もしかしてペンギンか!!?」
黒翼を闘技場を覆い尽くすように広げ、鋭い三日月のような嘴が上空からも分かる怪鳥がいた。
全体的に黒い体に白い腹、蹴られたら怪我では済まない爪の長い足。
ペンギンと色合いは似ているのに、姿形は全く異なる。ギョロリと血走った大きな目をしており、体型に丸みが少ない。特に黒翼は、空に舞い上がれるほど大きかった。
それでもピングには分かる。
石壁が壊れることなどお構いなしに羽をはばたかせて暴れている怪鳥は、自分の使い魔だ。
ピングは透明な床に這いつくばってもっとよく見ようとする。
すると体が闘技場内へと降りていった。
便利なことに、行きたい場所に行き、見たいものが見られるらしい。
「ティーグレ!」
まず、ピングを抱いて立っているティーグレが目に飛び込んできた。
額を始め、体全体についていた傷は全て消えている。顔色もよく、しっかりとピングの小さな体を支えている様子からティーグレは完全に無事なことが伝わってきた。
ピングは顔も体も、全ての力が抜ける。
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