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梅木と水坂の場合
二話
しおりを挟む家には一室、本棚の部屋がある。
家族全員がそれぞれ好きな漫画を買ってきて、ちょっとした図書館のようにずらりと並んでいる。
俺、梅木真守はその本棚を見上げた。
だが、目当てのものを見つける前にスマートフォンの音が鳴ってポケットに手を突っ込んだ。
『告白、OKされたどうしよう』
画面に映った文章を見て、眼鏡のレンズが割れるかと思った。
「えっ」
生徒会室での出来事から現実逃避しようとしていたのに、一気に引き戻された。
声を上げながら機械の画面をスライドすると、短い文章が増える。
『え、俺も』
「杏山もかよ!」
ひとりでしゃべりながら、俺も送信ボタンを押した。
『俺もなんだけど! 助けてくれ!』
『全員!? そんなことあるか!?』
最後の砦、光安までもが告白に成功したという。
俺はその場に崩れ落ちた。
いや。
そもそも俺は、告白に成功したと言っていいのかすらよくわからないんだけど。
事の発端は、昼休み。
「そういえばお前たちくらいのころ、告白ゲームとかしてたな。」
今、連絡を取り合っている4人で、屋上に居たときのことだった。
昼ご飯を食べながら、もう3年だから卒業まであっという間なんだろうな、なんて話をしていた。
その時、様子を見に来たのが隣のクラスの担任の肥護先生だ。
「告白ゲーム」なんて聞いても、俺は最初は恋愛シミュレーションゲームかなんかだと思ってしまった。
しかし、意味を理解したときには「うわぁ」としか言えなかった。
「告白ゲーム」とは。
何かの罰ゲームとして同性に告白する、というものだ。
最悪最低だ。
女子にそれやられたら、俺なら3日間は引きずってしまう。
今回のルールでは、告白相手は同性。
条件は「あまり親しくない相手」ということだ。
きちんと相手を見定めないと、残り1年の学校生活に支障がでそうだな。
先生が屋上から出て行った後、桜田が丸い目をキラキラさせていた。
すごく嫌な予感がしたがら別の話を被せてスルーしたかったけど、桜田が口を開く方が早かった。
「やろうぜ! 次の英語の単語テストでビリだったやつが空に告白な!」
それを聞いて杏山は笑ったが、俺は真っ青になった。
「やめとけよ告白なんて嘘でするもんじゃねぇよ!」
俺は桜田が指定した空凪を頭に思い描く。
超のつく美形だけど、金髪でとても怖いと噂の不良だ。
流石にちょっかいをかける相手を間違えすぎている。
そんな奴を目の前にしたら、俺なんかは一言も声が出せない不審者となり果てるに違いない。
だが、ここで俺は勝負の内容を冷静に考えた。
正直、テストならこのメンバーに負けることはまずない。
俺、ちゃんと勉強してきたし。
杏山と光安なんか、そんなのあったっけって顔してるし。
だから、魔が差してしまった。
「大丈夫」という桜田の根拠のない自身と、光安の承諾もあり、勝負することになった。
そして、元凶の桜田が罰ゲームをすることになる。
なんで勝算ないのにテストの点数で競おうとしたんだろう。
万が一があるかもと思っていた俺はホッとした。
だというのに。
桜田は、
「俺だけは嫌だ!」
と、駄々っ子のようなことを言い出した。
自分に正直な性格とそれに似合う童顔や小柄な体も相まって、俺たちはついつい桜田を甘やかしてしまう。
もう一勝負しようか、と。
そんな仏心は捨てるべきだった。
無情にも次の勝負は「体育のマラソン」。
「俺がいっつもビリなの知ってるだろ! 鬼か!!」
抵抗したけど全く意見は通らなかった。酷過ぎる。
そしてやっぱりビリだった。
その後は漢字テストでまさかの0点だった光安と、特に負けてないけど杏山もノリで巻き込んで。
4人でそれぞれ違う人に告白することになってしまった。
相手は空も含め女子に人気のイケメンばかり。
きっと告白なんてされ慣れている。
しかしだからといって嘘告白なんて、いざ自分がやるとなると全然面白くない。
ちゃんと止めれば良かった。
他の皆が本当にやりそうなメンバーだからやるしかないけど。
俺たちは、全員が放課後に告白して、帰ってから結果報告しよう!
と決めて別れた。
俺たちはこの時、当然皆がふられるのだと、そう思っていた。
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