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なんだって結婚相手が雄なんだよ
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「この結婚は、どうせ形式的なものだ。恋愛はお互い自由にってことにしようぜ花嫁殿」
「なるほど、それは好都合だ。ところで、花嫁はそちらでは?」
神聖なる結婚の儀に似つかわしくない不穏な空気が流れる。
西の大国、ライオン族が治めるリーオ帝国。
東の大国、虎族が治める倭虎大王国。
あまりにも拮抗しすぎたために、一度も戦争に至らなかった両国。
その睨み合いは、不可侵条約を結ぶことをひとまずの着地点とした。
その証として、王族同士の婚姻を結ぶこととなる。
特段珍しいことでもないはずだった。
まさかリーオ皇帝と倭虎大王どちらもが、息子を結婚させると譲らなかったとは。
結婚する本人たちですら当日知ったのだ。
◆
「ディラン様が結婚とはなー!」
「相手は倭虎大王国の王子? 姫じゃなくて?」
「なんか変わった服着てたなー」
現皇帝の第六皇子の結婚式当日。
リーオ帝国内は驚きと祝福の空気に溢れていた。
華やかな結婚パレードの馬車に乗っていた「花嫁」について、大人はしきりに囁き合う。
さまざまな耳や尾を持つ彼らが立つ石畳みを、新たに夫婦となった二人が撒いた沢山の花が彩っている。
「あの逞しいディラン様より、大きく見えたわね!」
「とても精悍なお顔立ち!」
「お似合い!」
城下町の娘たちは花を拾い集めながら、黄色い声で噂話を楽しんだ。
街の様子に負けず劣らず、城門の内側も大変賑やかだった。
兵士たちには酒や料理が振る舞われている。
大広間では貴族たち向けのパーティが催されていた。
華やかな音楽が流れ、ある人々はそれに合わせて踊り、またある人々は優雅に耳を傾ける。
誰もが、この条約を喜び結婚を祝った。
リーオ帝国では、同性婚が認められている。
そのため、皇子の結婚相手が王子だった驚きは、もうすでに消え失せていた。
そんな中、壁際の目立たない位置にあるテーブルに突っ伏している雄が一人いる。
椅子の隙間から垂れる、先端のみふさふさとしている細長い尾が、不機嫌そうに床を叩く。
「あ―意味わかんねぇぜ。なんだって結婚相手が雄なんだよ」
アルコールの入ったグラスが、血管の浮く雄らしい手の中でバリンと砕け散った。
彼の名はディラン・リーオ。
リーオ帝国第六皇子、つまり、本日の結婚式の主役である。
今年二十歳になったばかりの若者で、国内一の美丈夫だと誉めそやされる容姿をしたライオン獣人だ。
ダークブロンドの艶やかな髪は腰まで流され、前髪をオールバックにして華やかな顔を隠さない。
身にまとう白い軍服は、武力で国を広げたライオン族の伝統的な婚礼衣装。
銀の肩章から胸の中心にかけて同じ色の飾り紐がついており、見る人に上品な印象を与えている。
まるでディランのために誂えられたかのようにその体を彩っていた。
だが今は、その端正な顔を歪めて歯軋りしていた。
「主役がなんという顔をしているんだ。シャキッとせんか」
「同性同士なんて、今どき珍しい話でもありませんよ。貴方が悪酔いしてグラスを割るくらいね」
同じテーブルについていた鷹族のファルケと狼族のヴォルフは慣れた風に肩をすくめる。
慰めの言葉を一つも寄越さない友人たちの態度は、ディランの機嫌を更に悪くさせた。
「それにしたって先に言っとけっつーの。どうせ拒否権ねぇんだから」
割れたグラスと濡れた白いテーブルクロスを片付けるために飛んできた給仕を金茶色の瞳で軽く見やり、横髪を乱雑に搔き上げて舌打ちをする。
背中を覆う長い髪全体が波打った。
「しかし、貴方も年貢の納め時ですね」
拷問官のヴォルフはメガネを指で上げて優美に笑う。
ファルケも、大国の将軍らしく逞しい腕を組んで頷いた。
「遊び歩いていたからな。これからは伴侶と手を取り合って」
「その点は安心しろよ。お互いに愛人は好きにしようってことで話はついてるからな」
給仕から新しいグラスを受け取りながら、何でもないことのように言うディランに、友人二人は目を剥いた。
ディランは皇族であるにも関わらず、気に入った雌であれば誰とでも関係を持つ雄だった。
貴族も商人も平民も娼婦に至るまで、相手の身分を問わない。
流石に同盟のための結婚をしたとなれば、それが落ち着くだろうと期待していたのだ。
「それを向こうは了承したというのか」
「二つ返事だったぜ」
口の片端を上げて赤い果実酒の甘い香りを楽しむディランに、ファルケは溜息を吐いて首を左右に振る。
「信じられんな。これだから哺乳類族は」
「すみませんが、一括りにしないでいただけますか」
ヴォルフは心外だと横やりを入れた。
「なるほど、それは好都合だ。ところで、花嫁はそちらでは?」
神聖なる結婚の儀に似つかわしくない不穏な空気が流れる。
西の大国、ライオン族が治めるリーオ帝国。
東の大国、虎族が治める倭虎大王国。
あまりにも拮抗しすぎたために、一度も戦争に至らなかった両国。
その睨み合いは、不可侵条約を結ぶことをひとまずの着地点とした。
その証として、王族同士の婚姻を結ぶこととなる。
特段珍しいことでもないはずだった。
まさかリーオ皇帝と倭虎大王どちらもが、息子を結婚させると譲らなかったとは。
結婚する本人たちですら当日知ったのだ。
◆
「ディラン様が結婚とはなー!」
「相手は倭虎大王国の王子? 姫じゃなくて?」
「なんか変わった服着てたなー」
現皇帝の第六皇子の結婚式当日。
リーオ帝国内は驚きと祝福の空気に溢れていた。
華やかな結婚パレードの馬車に乗っていた「花嫁」について、大人はしきりに囁き合う。
さまざまな耳や尾を持つ彼らが立つ石畳みを、新たに夫婦となった二人が撒いた沢山の花が彩っている。
「あの逞しいディラン様より、大きく見えたわね!」
「とても精悍なお顔立ち!」
「お似合い!」
城下町の娘たちは花を拾い集めながら、黄色い声で噂話を楽しんだ。
街の様子に負けず劣らず、城門の内側も大変賑やかだった。
兵士たちには酒や料理が振る舞われている。
大広間では貴族たち向けのパーティが催されていた。
華やかな音楽が流れ、ある人々はそれに合わせて踊り、またある人々は優雅に耳を傾ける。
誰もが、この条約を喜び結婚を祝った。
リーオ帝国では、同性婚が認められている。
そのため、皇子の結婚相手が王子だった驚きは、もうすでに消え失せていた。
そんな中、壁際の目立たない位置にあるテーブルに突っ伏している雄が一人いる。
椅子の隙間から垂れる、先端のみふさふさとしている細長い尾が、不機嫌そうに床を叩く。
「あ―意味わかんねぇぜ。なんだって結婚相手が雄なんだよ」
アルコールの入ったグラスが、血管の浮く雄らしい手の中でバリンと砕け散った。
彼の名はディラン・リーオ。
リーオ帝国第六皇子、つまり、本日の結婚式の主役である。
今年二十歳になったばかりの若者で、国内一の美丈夫だと誉めそやされる容姿をしたライオン獣人だ。
ダークブロンドの艶やかな髪は腰まで流され、前髪をオールバックにして華やかな顔を隠さない。
身にまとう白い軍服は、武力で国を広げたライオン族の伝統的な婚礼衣装。
銀の肩章から胸の中心にかけて同じ色の飾り紐がついており、見る人に上品な印象を与えている。
まるでディランのために誂えられたかのようにその体を彩っていた。
だが今は、その端正な顔を歪めて歯軋りしていた。
「主役がなんという顔をしているんだ。シャキッとせんか」
「同性同士なんて、今どき珍しい話でもありませんよ。貴方が悪酔いしてグラスを割るくらいね」
同じテーブルについていた鷹族のファルケと狼族のヴォルフは慣れた風に肩をすくめる。
慰めの言葉を一つも寄越さない友人たちの態度は、ディランの機嫌を更に悪くさせた。
「それにしたって先に言っとけっつーの。どうせ拒否権ねぇんだから」
割れたグラスと濡れた白いテーブルクロスを片付けるために飛んできた給仕を金茶色の瞳で軽く見やり、横髪を乱雑に搔き上げて舌打ちをする。
背中を覆う長い髪全体が波打った。
「しかし、貴方も年貢の納め時ですね」
拷問官のヴォルフはメガネを指で上げて優美に笑う。
ファルケも、大国の将軍らしく逞しい腕を組んで頷いた。
「遊び歩いていたからな。これからは伴侶と手を取り合って」
「その点は安心しろよ。お互いに愛人は好きにしようってことで話はついてるからな」
給仕から新しいグラスを受け取りながら、何でもないことのように言うディランに、友人二人は目を剥いた。
ディランは皇族であるにも関わらず、気に入った雌であれば誰とでも関係を持つ雄だった。
貴族も商人も平民も娼婦に至るまで、相手の身分を問わない。
流石に同盟のための結婚をしたとなれば、それが落ち着くだろうと期待していたのだ。
「それを向こうは了承したというのか」
「二つ返事だったぜ」
口の片端を上げて赤い果実酒の甘い香りを楽しむディランに、ファルケは溜息を吐いて首を左右に振る。
「信じられんな。これだから哺乳類族は」
「すみませんが、一括りにしないでいただけますか」
ヴォルフは心外だと横やりを入れた。
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