花嫁はお前だろ?〜揉めた末、虎王子に食われるライオン皇子の物語〜

虎ノ威きよひ

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どっちが雄として魅力がある?

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 この国では、結婚相手は一人と建国当初に法で定められている。
 ファルケのような鳥人たちは、法などできる前から生涯にたった一人の番と契りを交わす。
 狼獣人であるヴォルフも似た貞操観念を持っていた。

 だが哺乳類族には、ディランのように幅広い愛を持つものが多いのも事実だった。
 よく言えば博愛、悪く言えば浮気性だ。
 種族ごとの本能がそうさせているともいえるのだが、トラブルの元ではある。

 友人二人が結婚とは相手を大切にするものだと語り始めたのを、ディランは相槌も打たずにグラスを揺らして聞き流す。
 気晴らしに誰か雌をダンスに誘い、あわよくば今夜の相手をさせようと会場内を見渡した。

 豪華絢爛なシャンデリアに金の装飾が施された白い壁、今日のために用意された豪華な食事の数々。
 会場の中央では色とりどりのドレスを着た雌と趣向を凝らした礼装の雄が手を取り合って踊っている。

(主役を放っておいて、楽しそうにしやがって)

 唾でも吐いてやりたい気持ちになりながら、壁の花は居ないかと隅の方に視線をやる。

 そうしている内に、黒い紋付き袴という見慣れない異国の服装をした雄が数人固まっているのが目に止まった。
 中でも一際目立つ凛とした立ち姿の美男子に、ディランは眉を顰める。

 外側が金色で内側が黒いという変わった色の髪は肩甲骨に届くほどの長さで、それを項の上で束ねてある。
 金と黒の縞模様の毛並みの良い長い尾と黒く縁取られた金色の耳、そしてアイスブルーの瞳が特徴的な虎族の雄だ。

 名前は倭虎影千代わこかげちよ
 倭虎大王国の三男で、本日ディランと結婚した二十三歳の雄である。

 第一印象は「妙に爽やかな奴」であったが、王族らしく常に仮面を被っているようで。
 皇族にも拘らず、常に自分に正直に生きていても見逃されるディランとは正反対であった。

 二人は今日一日中、ほぼ隣に立って過ごしていたが、まともに触れ合うこともなく会話も形式的なものしか交わしていない。
 予定外の会話と言えば、「恋愛の自由」をディランが切り出した時くらいである。
 このパーティーでは、一番始めのダンスを共に踊ったら直ぐに分かれてしまった。

(両方が雄のダンスするなんてな。雌の方、踊れなくもねぇけど……なんか癪だし)

 背は影千代の方が高かったため、ディランが合わせる方が踊りやすくはあっただろう。
 しかし、お互いに譲る気も寄り添いあう気もなかった。双方の持ち前の反射神経や機転のおかげでなんとかダンスの形になっていたと言える。
 本人たちにとっては、とにかく早く終わってほしい時間だった。

 なによりバラバラの婚礼衣装が、この結婚が形式的なものであると主張しているようだ。

 黒く広い袖と意外と動きやすいらしい袴が閃く様子を思い出していると、透き通るような青い瞳と視線が合った。
 不思議とその色から目が離せず、そのまま逸らさずにいると。
 涼し気な目元が緩く細められ、口元は弧を描いた。

 今日一日見ていた作られた笑顔とは違う微笑みに、ディランは一瞬だけ心を奪われる。
 柔らかくも雄々しい、どうしようもなく惹きつけられる表情だった。

 しかしなにも反応を返せないうちに、影千代は倭虎大王国から共に来た者たちとの会話に戻ってしまう。

「なぁ……」
「はい? って、ディラン! 零れてます!!」
「あいつと俺、どっちが雄として魅力がある?」
「あいつ? 何のことだ! そんなことより、その婚礼衣装は私物ではないのだぞ!!」

 白い衣装に広がる赤い模様に慌てふためくヴォルフとファルケを他所に、ディランはじっと異国の集団を見つめる。
 いや、目に映るのは中心の一人だけ。

(別になにもされてねぇのに、負けた気がして気分が悪ぃ……)

 騒ぎを聞いて駆け付けて来た者たちに、着替えるための個室に誘導され立ち上がる。

 移動の間も、胸に打撃を与えた謎の敗北感を打ち消そうと、ディランは頭を巡らせた。
 
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