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私は婿に来た
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にらみ合いを数秒続けたあと、影千代は小さく息を吐いて歩き出す。
「大王に確認をとった。倭虎大王国とリーオ帝国はどちらが上か、というのをはっきりさせないため敢えて雄同士を結婚させたらしい」
「迷惑な話だな」
少し距離を開けて隣を歩くディランは鼻を鳴らした。
「我が倭虎大王国は、まだ同性での結婚のための法律が整っていない。国民が受け入れられるようになるのも時間が掛かるだろう。そのため、形式的には私が『婿入り』することになったらしい」
「へぇ。遅れてんだな、そちらのお国は」
「この国が雄を皇子の結婚相手とすんなり受け入れてくれているのをみて、私もそう感じるよ」
率直な感想だったが、気分を悪くするだろうと承知の上で放った言葉に頷かれて、ディランは困惑した。
自嘲気味な影千代の横顔からは怒りを感じず、言葉通りに感じているのだということが伝わってくる。
素直に肯定されると気まずくなったディランは、雰囲気を壊そうと口を開いた。
「で、結局お前が嫁に来たって話だろ」
「私は婿に来たのだから嫁はお前だ、という話だ」
反論してくる声は、初めよりもトーンが明るく、言葉の投げ合いを楽しんでいる風であった。
身構えていた割には問題なく会話が弾む。
街の区画や家の構造、服屋、鍛冶屋の場所など影千代が興味を示したものを説明して歩いているうちに、いつの間にか色とりどりの花が咲く街のはずれに出た。
太陽の光が反射する大きな川には木の橋が掛かっており、そこで雀族の子どもたちが数人で遊んでいた。
ずっと歩き続けていたため、一度休憩しようと言ってディランは花の咲いていない場所に座る。足を投げ出すと、そのまま寝ころんでしまいたいほどの心地いい気候だった。
同じく隣に腰を下ろし、影千代は美しい景色を眺めて大きく息を吸った。
「良い国だな」
耳を寝かせて目を細める姿は無防備で、ディランは初めて影千代の本来の姿を見た気持ちになる。
ディランは尻尾を草むらに寝かせてくつろぎつつ、川の流れに目を向けた。
全然雰囲気が違うという倭虎大王国について、少し興味が沸いた。
「じゃあお前の国は……っなんだ!?」
「……!」
何か重いものがいくつか水に落ちる音と共に、子どもの悲鳴が辺りに響き渡った。
二人は耳をピンと立てて、同じ方向へ顔を向ける。
その先では先ほどまで橋の上で遊んでいたはずの雀族の子どもの内、三人が川の中にいた。
必死に藻掻いているようだが、足がつく様子も泳げる様子もない。
橋の上にも子供が二人居たが、おそらく助けることは出来ないだろう。
状況を把握したディランと影千代は、言葉を交わすこともなくどちらもが即座に服を脱ぎ捨てた。出来るだけ近くまで全力で走り、勢いよく川に飛び込む。
まだ水遊びをするほど気温は高くない季節だ。幸い流れは早くなかったが、素肌に纏わりつく水は想像よりも冷たい。
しかし、そんなことに構っている場合ではない。
ディランは頭が沈みかかっている子どもの元へ進む。
「こっちの二人は任せろ!」
影千代はディランの動きを見て、流されかかっているものの、なんとか橋の柱にしがみついている二人の方へと急いだ。
「もう大丈夫だ」
真っ青な顔をしている子どもたちに微笑みかけると、影千代にしがみ付く二つの小さな体を抱えて力強く川辺まで運ぶ。
緑の地面に辿り着いた安堵から泣いて咳き込む二人の背を撫で、影千代は大きく息を吐いた。
心配はしていなかったが様子を伺おうと、ディランの行った先へと目線をやる。
そして、影千代は信じられない光景を目の当たりにした。
「泳げないのか!」
ディランに持ち上げられた子どもの顔は水面よりも上にあった。
しかし、ディラン本人は口元が出たり沈んだりするだけで一向に川岸に戻ってくる気配がない。
完全に溺れている。
影千代は再び川の飛沫を上げることとなった。
「大王に確認をとった。倭虎大王国とリーオ帝国はどちらが上か、というのをはっきりさせないため敢えて雄同士を結婚させたらしい」
「迷惑な話だな」
少し距離を開けて隣を歩くディランは鼻を鳴らした。
「我が倭虎大王国は、まだ同性での結婚のための法律が整っていない。国民が受け入れられるようになるのも時間が掛かるだろう。そのため、形式的には私が『婿入り』することになったらしい」
「へぇ。遅れてんだな、そちらのお国は」
「この国が雄を皇子の結婚相手とすんなり受け入れてくれているのをみて、私もそう感じるよ」
率直な感想だったが、気分を悪くするだろうと承知の上で放った言葉に頷かれて、ディランは困惑した。
自嘲気味な影千代の横顔からは怒りを感じず、言葉通りに感じているのだということが伝わってくる。
素直に肯定されると気まずくなったディランは、雰囲気を壊そうと口を開いた。
「で、結局お前が嫁に来たって話だろ」
「私は婿に来たのだから嫁はお前だ、という話だ」
反論してくる声は、初めよりもトーンが明るく、言葉の投げ合いを楽しんでいる風であった。
身構えていた割には問題なく会話が弾む。
街の区画や家の構造、服屋、鍛冶屋の場所など影千代が興味を示したものを説明して歩いているうちに、いつの間にか色とりどりの花が咲く街のはずれに出た。
太陽の光が反射する大きな川には木の橋が掛かっており、そこで雀族の子どもたちが数人で遊んでいた。
ずっと歩き続けていたため、一度休憩しようと言ってディランは花の咲いていない場所に座る。足を投げ出すと、そのまま寝ころんでしまいたいほどの心地いい気候だった。
同じく隣に腰を下ろし、影千代は美しい景色を眺めて大きく息を吸った。
「良い国だな」
耳を寝かせて目を細める姿は無防備で、ディランは初めて影千代の本来の姿を見た気持ちになる。
ディランは尻尾を草むらに寝かせてくつろぎつつ、川の流れに目を向けた。
全然雰囲気が違うという倭虎大王国について、少し興味が沸いた。
「じゃあお前の国は……っなんだ!?」
「……!」
何か重いものがいくつか水に落ちる音と共に、子どもの悲鳴が辺りに響き渡った。
二人は耳をピンと立てて、同じ方向へ顔を向ける。
その先では先ほどまで橋の上で遊んでいたはずの雀族の子どもの内、三人が川の中にいた。
必死に藻掻いているようだが、足がつく様子も泳げる様子もない。
橋の上にも子供が二人居たが、おそらく助けることは出来ないだろう。
状況を把握したディランと影千代は、言葉を交わすこともなくどちらもが即座に服を脱ぎ捨てた。出来るだけ近くまで全力で走り、勢いよく川に飛び込む。
まだ水遊びをするほど気温は高くない季節だ。幸い流れは早くなかったが、素肌に纏わりつく水は想像よりも冷たい。
しかし、そんなことに構っている場合ではない。
ディランは頭が沈みかかっている子どもの元へ進む。
「こっちの二人は任せろ!」
影千代はディランの動きを見て、流されかかっているものの、なんとか橋の柱にしがみついている二人の方へと急いだ。
「もう大丈夫だ」
真っ青な顔をしている子どもたちに微笑みかけると、影千代にしがみ付く二つの小さな体を抱えて力強く川辺まで運ぶ。
緑の地面に辿り着いた安堵から泣いて咳き込む二人の背を撫で、影千代は大きく息を吐いた。
心配はしていなかったが様子を伺おうと、ディランの行った先へと目線をやる。
そして、影千代は信じられない光景を目の当たりにした。
「泳げないのか!」
ディランに持ち上げられた子どもの顔は水面よりも上にあった。
しかし、ディラン本人は口元が出たり沈んだりするだけで一向に川岸に戻ってくる気配がない。
完全に溺れている。
影千代は再び川の飛沫を上げることとなった。
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