花嫁はお前だろ?〜揉めた末、虎王子に食われるライオン皇子の物語〜

虎ノ威きよひ

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関係ないだろう

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 その中でも、真ん中の部屋を豹獣人は軽快にノックした。
 そしてほとんど間を置かず、兎族の雌がひょっこりと愛らしい顔を見せる。
 ディランにとっては馴染みの娼婦の一人だった。

「なぁに? 今すごくいいところ……ディラン様!」
「よう、うちの花嫁殿が世話になってるって聞いてきた」

 驚きの声を上げた兎族の雌に、ディランは微笑みかける。
 無意識に「自分の花嫁だ」と牽制してしまっていることに、本人は全く気づかないでいた。
 だが兎族の雌はなんの後ろめたさも感じない、むしろ嬉しそうな輝く笑顔になる。
 部屋の中を振り返って、興奮した声を上げた。

「影千代様ー! ディラン様が来たよ! 本物!」
「えっディラン様!?」
「わざわざディラン様がこの店まで来たの!?」

 鹿族とリス族の雌の声まで聞こえてくる。

 豹族と兎族の雌が金の扉を全開にすると、王宮のような広く贅を尽くした部屋が目に入ってきた。

 扉から一番離れた壁に沿って置かれた四人は寝られそうな薄紫色のベッドに、深いブラウンの丸テーブルと横長の座り心地良さそうなソファ。
 クローゼットや背の低い本棚まで置いてあり、浴室に繋がるドアもある。
 ここで暮らせと言われても、なんの支障もないだろう。
 窓が無いことだけが、ここは一般的な部屋ではないことを教えていた。

 ソファの中央に座っている影千代とその両側にいる鹿族とリス族の雌を見て、ディランは眉を顰めた。
 ここに居るのは皆、ディランのお気に入りで、初夜に呼んだ娼婦たちだ。

 (「部屋に呼ぶのは一人にしろ」とか言ってたくせに……! 自分も三人侍らせてんじゃねぇか!)

 抑えていた苛立ちが、ディランの腹の中で渦巻く。
 影千代を睨みつけながら部屋の中に足を踏み入れると、透き通るような青い瞳が想像以上に落ち着いた視線を向けてくる。

「……ディラン……」
「影千代お前……何の嫌がらせだ俺の、いや俺のじゃねぇけど」
「私が何をしようと、ディランには関係ないだろう」

 罪悪感など皆無だと言わんばかりに、腕を組んで背を預ける堂々とした態度にディランの中で何かが切れた。
 最も見栄を張りたい対象である雌たちの前であることも忘れ、尻尾の毛を逆立てて牙を剥き出しにする。

「無い、わけねぇだろ! お前、人のことを好きとか言っといて!」
「だが、顔も見たくないと言っただろう」
「それは、その……」

 痛いところを突かれる。
 絨毯が敷かれていても音が鳴るほど強く床を踏み、大股でソファの目の前まできたディランは勢いを削がれた。
 影千代はディランを見上げ、寂しげな笑みを浮かべた。

「お前が不快になるくらいなら、あの部屋にいない方がいい」

 何もかも諦めているかのような声を聞き、怒りよりも申し訳なさが募ってきた。
 だがこの場所がどういう場所なのかと、海里と稲里の話を思い出して気持ちを切り替える。

 これはおそらく、駆け引きだ。
 強気で行かねば負けてしまう。

 ディランは気づかれないように深く息を吸い、嘲笑するような表情をなんとか作り出す。

「だからって、来る場所がここかよ。さぞかし楽しんだんだろうな」
「彼女たちは話題が豊富な上に聞き上手だからな。話していてそれはそれは楽しませてもらっている」
「まるで話しかしてねぇみたいな言い方しやがって。お付きの二人にお国では大層遊んでたって聞いたぞこの放蕩花嫁」
「人のことは言えないだろう。彼女たちから色々聞いたぞ色好みの花嫁殿」

 鼻で笑うディランに対し、影千代は歌を返すかのように流暢に返答してくる。
 やはり殴ってやろうかと、ディランの額に血管が浮き始めた頃。

「あのー」
「お取り込み中失礼しまーす」
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