花嫁はお前だろ?〜揉めた末、虎王子に食われるライオン皇子の物語〜

虎ノ威きよひ

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お耳弱いよね

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 兎族とリス族の雌が手を上げて二人の間に割って入ってきた。
 計算し尽くされた可愛らしい仕草を前にしても、ディランは苛立ちを隠すことができずに低い声で唸る。

「悪いが本当に取り込んでるから出ててもらって良いか」
「うん、でもね。」
「出て行く前にひとつだけ」
「なんだ」

 ディランはオールバックにしてある前髪を乱雑に撫で上げ、尾で不機嫌に床を叩いた。
 大型種族の雄であっても恐れるその姿を見ても全く怯まずに、兎族の雌は鈴の鳴るような声で会話を続ける。

「影千代様、本当にお話してただけだったよー」
「こいつを庇うのか」
「ホントホント」
「お国のお話とか、ディラン様のお話とかしてただけよ」
「ねー! さっきのおとぎ話、良いとこだったのにー」

 鹿族とリス族の雌も加わって援護してくる。
 嘘を言っている目では無いが、彼女たちはプロだ。演技の可能性は十分にある。
 影千代は微笑んでいるだけで、感情が読み取れなかった。

 判断に困ったディランは、閉めたドアの近くでずっとやりとりを眺めていた豹族の雌を振り返る。

「そうなのか」
「証明のしようはございませんけど、そうです」

 艶美な笑みを浮かべてあっさりと頷いた彼女の言葉に、ディランは頭を悩ませた。

 冷静になって改めて見てみると、この場にいる誰の衣服も乱れていない。
 影千代は部屋着の浴衣ではなく、外に出る時のような翠の着物を身に纏っている。いつも通りきっちりと胸元で合わさり、袴も乱れた様子がない。

 娼婦である彼女たちもそうだ。
 ディランが呼んだ豹族の雌以外は仕事用の布の薄いドレスではなく、昼間に街で見かける時のようなしっかりとした布地の服を着ていた。

 見つかった時のカモフラージュにしては用意が良すぎる。ディランがここまで探しに来たのが予想外だったのは、皆の反応から明らかだ。

 何も言わなくなったディランを見て、豹族の雌は頭を下げる。

「では失礼します。このお部屋は防音がしっかりしておりますので口喧嘩まではよろしいですが、備品の破壊や流血沙汰はご遠慮願います」

 豹族の雌がドアの方を向くのを合図に、他の雌もそちらへ向かう。
 ふと、兎族の雌が振り返って手を合わせた。

「あ、ディラン様ってお耳弱いよねってお話とかしちゃったごめんなさい」
「はぁ!?」

 目を剥くディランに、リス族の雌は同じように手を合わせて小首を傾げる。

「私は足の付け根にキスすると喜ぶよって」
「おい!」
「バイバーイ」

 思わずドアに駆け寄ったディランを尻目に、鹿族の雌がにこやかに片目を瞑って手をヒラヒラと振った。
 ディランの目の前でドアは無機質な音を立てて閉まってしまう。

 部屋に影千代と共に残されたディランは、自分が望んだことにも関わらず逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
 とんでもない爆弾を落として彼女たちは去っていった。

「……なん、何の話をしてたんだお前ら……」

 影千代を振り返ることが出来ないまま、ディランは呆然と呟く。
 彼女達の言葉が本当であれば、とんでもない恥部を初恋相手に聞かれていたことになる。
 酒の力で痴態を曝け出したことがあるとはいえ、自分の預かり知らぬところで聞かれるのは訳が違う。
 あまりにもダメージは大きかった。

「何って……愛しい花嫁殿の話を聞いて、妄想を膨らませていただけだ。彼女たちは詳しいからな」

 慌てふためくディランを見たせいだろう。
 影千代の声から険がなくなり、いつも通りの爽やかな響きになった。
 甘い言葉を耳に入れたディランは、冷静さを取り戻して舌打ちをする。

「お前のそれが口先だけだって、もうバレてんぞ」
「私は常に本気だ」
「遊び人の常套句だな。俺も口説きたい時によく言う」

 言っていて虚しくなったが、それが現実だ。

「今のお前は、何を言っても信じる気がなさそうだな。で、お前は何をしに来たんだ? やはり一国の皇子の伴侶がこんなところに入り浸っていると問題があるか」

 影千代はクックッと笑ってディランの背中に問いかけた。
 ディランは首を緩く左右に振る。

「今は誰も気づいてねぇから問題ない」
「じゃあ、なんだ」

 影千代が問いを重ねると、ディランは言葉に詰まってしまう。
 ただ怒りに任せてここまで来たディランだったが、自分が何をしたいのかまだ分かっていなかった。
 少なくとも、ただ影千代を糾弾しに来たわけではないはずだ。
 そんな権利も資格もない。

 ディランは自分の足元を睨みつけた。

「悪かった……いや」

 謝らねばならないこともあったが、ここに来た理由は別だと思い直す。
 両拳を手のひらに爪痕がつくほど強く握りしめた。

「好きだ」

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