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3話
しおりを挟む「ここの子どもたちは宝の原石だ」
「その価値を最大限に活かそうというのだ。金にもなる。悪い話ではないだろう」
「……子どもたちを他国に……」
あいにく月が雲に隠れている日の深夜。
何人か大人の男が立っていた。
その中で、話しているのはふたりだけ。
眠れなかったためにベッドを抜け出して聞いてしまった話は、おそらく決して聞いてはいけない類の話だった。
少年の心臓は大きく鳴る。気温は低いはずだが、背中に汗が伝った。
今すぐに立ち去れと頭は警告を発している。それにも関わらず動かないのは、続きがどうしても聞きたかったからだ。
話をしている片方は後ろ姿な上、声も全く聞いたことのない人間だった。
しかし、もう片方は。物心ついた時からずっと世話をしてくれていた恩人だ。
その人が、自分たちを他国に、どうしようというのだろう。
少年の思考はどうしても嫌な方向へと進もうとする。
そして、恩人のグレーの瞳が少年を映した。
「……っ!!」
飛び起きた勢いでギシっとベッドが鳴る。
眉より短い赤い前髪から滴るほどに汗をかき、荒い呼吸を繰り返す口は乾いて張り付きそうな感覚がした。寝ていたにも関わらず、全身の筋肉が強張っている。
(ここ、どこだ?)
金と黒の左右で違う色の瞳に映ったのは、少年がいつも寝ている部屋ではなかった。
飾り気のない、木の素材そのものの床に壁。
少年が寝ているベッドの右横には、同じくらいの大きさのベッドが、少し隙間を開けて並んでいる。左横の窓からは明るい光が差し込んでいた。
太陽が高いのが分かる。真昼の時間帯だ。
少年は頭を抱え、自分の状況把握に必死になった。
(院長のとこから逃げて、そしたら誰かが追っかけてきて……街に出て細い道に……そしたらすげぇデカい男が)
「起きたか」
「ひっ!」
突如、部屋のドアが開き声を掛けられる。
そこに立っているドアとほぼ同じ背の高さの男を見て、少年は目を見開き体を硬直させた。
「あ、あんた、は……」
ぼんやりと思い出していた、細い道を塞いだ大男。それが目の前の男が同じことを鮮明に思い出す。黒い肌に黒い長髪と冷たい青い瞳、間違えようもない。
少年は掛け布団を強く握りしめた。
(そうだ、こいつがきて、それで……それで……)
ドアに立ったまま距離を縮めない相手を凝視しながら、すぐに逃げ出せるように布団の中で足を動かす。何度か転けた筈だが痛みはない。疲れもほとんどとれていて、問題なく走れそうだった。
「おー! 起きたか坊主!」
「……っ」
大男の傍からもうひとり、金髪で細身の男が顔を出す。よく通るバリトンボイスが部屋に響いた。
そして紅い瞳を細め朗らかな表情のまま、大股で少年に近づく。
「お前、感謝しろよ! こいつが助けた上に寝床まで…っおお!?」
言葉の途中で掛け布団が男の視界を遮った。少年はすぐにベッドから飛び降り、窓を勢いよく開ける、
しかし、足を掛けたところで動きは止まった。
ここは2階だ。
飛び降りることは出来なくもない高さだが、道を行き交う通行人をみると躊躇われた。うまく避ける自信も技量も少年にはなかった。
(でも、一か八か……!)
迷っている時間はない。ごくりと唾を飲んで飛び降りようともう片方の足も窓の桟にあげる。
「あーぶーねーぇってのクソガキ」
後ろから腹に腕を回して無謀な行為は強制終了させられる。
少年は強い力で部屋に引き戻され、窓は乱雑に閉められた。
「離せー!」
細身の優男と少年が感じた金髪の男は、見た目よりも力が強い。いや、大男と並んでいたから少年には細身に見えていただけだった。
その男は実際には高身長で、身体も鍛え抜かれているのだ。少年が手足をバタつかせて暴れても、その逞しい腕はビクともしなかった。
「落ち着けって。怖いことも痛いこともしねぇから」
その言葉とは裏腹に、軽々とベッドに運ばれ押さえつけられる。不思議と苦しくはなかったが、胸を腕で抑えられ起き上がれない。更には穿いていたズボンを下着がズレるほど勢いよく脱がされた。
少年は恐怖で声も出なくなった。手足が冷えて震えてくる。
男は露わになった発達途上の足を眺め、機嫌良さそうに口角を上げた。
「お、綺麗になったな。さすが俺」
「カズユキ」
「おお、コウ。見てみろよ傷が全く」
いつの間にかベッドの側まで移動していたコウと呼ばれた男は、言葉の途中で首を振る。そして咎めるような低い声と共に下方を指差した。
「怯えてる」
「……あ」
カズユキが見下ろした先には、少年が横たわっていた。見知らぬ男に下衣を剥がれ、本来は極部を覆っている下着がほぼ機能しない位置にズレてしまっている少年が。
そしてその少年は声も出せず真っ青な顔で、丸い目から大粒の涙を溢して震えてしまっていた。
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