【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
25 / 46

24話

しおりを挟む
 
 コウは丘の中腹で止まる。
 目を閉じて気配を探った。
(1、2、3…? いや、5匹と、人間は…6人、か。)
 この丘は魔獣の住処からは遠い位置にある。孤児院が建てられる場所の条件の1つだ。
 ここに来るためには魔物は騎士団の駐屯所の近くを通る必要もある。通常なら辿り着くまでに暴れるか見つかるかしているはずだ。
 だが、暴れた後の興奮した様子もなく気配を殺して近づいて来ている。
 つまり、意図的に誰かがここまで連れてきたのだ。
(誰か、じゃない。)
 先程の会話に出てきた人物。
 彼ならば、魔物もそれをコントロールするための道具も人材も思うままだ。
 
 静かに息を吸う。
 
 音もなく駆け降りていくと、まず1匹目を見つけた。馬のような体だが、蹄ではなく鋭い爪がある。口元からは大きな牙が2本見えていた。
 そして、その背には斧を持った筋肉質な男が乗っている。
 
 どちらもまだ、コウに気づいてはいない。
「ん? 何かいるか?」
 走ってくるコウに男が気づいた、その瞬間。
 辺り一体に響き渡る音量で絶叫する魔物から、男は振り落とされた。
 何が起こったか分からないままに、腹に衝撃を受けて声もなく倒れ込む。
 男に膝蹴りをした張本人のコウは舌打ちをした。
「しまった。この魔物の声帯はここじゃなかったのか。」
 厄介なことに魔物は種類によって体の構造が違う。声を出されないように喉元目掛けて手刀を繰り出していたのだが、間違ったせいで周りに異変を知らせてしまった。

「…ああ、でもその方が楽か。」

 一斉に自分に向かって来る気配を感じながら、うっすらと唇が弧を描く。
 両手の指を鳴らした男の、青い瞳が闇夜に光った。
 
 ◇

「おし、とりあえずこれでこの中は大丈夫だな。」

 光を発する魔法陣が白い建物を囲む。
 カズユキは満足気に腰に手を当てた。
 魔獣の声が聞こえてきたのはコウが動き出した証拠だ。周囲に気を配るが、今のところ怪しい気配はなかった。
 コウを援護に行きたいところだが、取り逃した魔獣がこちらに来ないとも限らない。気配探知の魔術を丘の上一帯に敷きながら待つことにした。

(…魔獣が5匹と人間が6人か。魔獣は1匹死んでて人間は半分はもう動けなさそうだな。あんまりデカいやつも魔力が強いやつもいないし、コウだけでなんとかなりそうか?)
 孤児院を襲うだけなら充分な戦力のはずだ。
 魔獣が蹂躙したとなれば、人的な事件も不幸な事故として処理することができる。もし姿を消した子どもがいたとしても、魔獣の腹の中と結論付けられる可能性が高い。
 狡猾に考えられた計画だ。
 ここを狙ってきた者の誤算は、今夜この時間にカズユキたちが居たことであった。
 
 剣から手を離さず神経を研ぎ澄ましているカズユキの鼓膜を、再び轟音が震わせた。
 今度はコウのいる場所ではなく、頭上からだ。
「お、空飛ぶやつがいるのか。」
 カズユキは見上げて声を弾ませた。
 獲物を見つけた2匹の怪鳥が、獰猛な目を向けてきている。
 カズユキは短い呪文を唱え、足に施していた魔法陣を光らせる。そして高く飛び上がると、赤い屋根に足をつけた。
 怪鳥は、そこを目がけて一斉に紫色の火を吹いた。
 カズユキは真正面からそれを受ける。
「この屋根に乗ってるうちは効かねぇんだよ。」
 余裕を持った言葉の通り、火は屋根を避けて散っていく。
 一度では学ばずに、怪鳥は息を吸うような仕草を見せる。その隙にカズユキは、刃を怪鳥に向けたまま屋根を蹴る。
 勢いに乗って剣を振るうと、その首と胴体が離れた。炎と同じ色の体液を撒き散らしながらその魔物は地面に落ちていく。体液が体に掛かる不快さを感じつつ、カズユキはその隣に着地した。
 頭上では、仲間を殺されたもう1匹が先程よりも大きい声で鳴き声を上げた。

「うっせぇな。焼き鳥にするぞ。」

 カズユキが呪文を唱えると、剣が赤い炎を帯びる。それを構えて斬りかかろうとした瞬間、違和感を覚えた。
 怪鳥の目線が逸れたのだ。
 弾かれたようにカズユキもそちらを見る。

「ああ!? なんで出てきてんだ!!」

 そこには5、6歳ほどの女児が、涙を流して腰を抜かしていた。
 よく見ると、彼女が座り込む背後には建物の裏口があるようだ。
 カズユキの魔術は外側からの攻撃に特化した分、中からは簡単に出られるものだった。わざわざ危険な外に出ようとすることがあるなど、想像もしていなかったのだ。

 標的を弱い方へと変えた怪鳥がそちらへ急降下する。

(クソ…! 間に合え!!)

 呪文を唱えている暇はない。
 カズユキは思いっきり剣を投げた。
 怪鳥の嘴が女児を貫くのが早いか、炎を纏った剣が怪鳥を貫くのが早いか。

 その時。

「ハル!!」
 裏口から飛び出してきた誰かが女児を抱くとともに、その勢いのまま嘴を避けた。嘴が地面に突き刺さった直後、飛んできた剣が怪鳥の心臓部を捉える。
 炎に包まれたソレは、断末魔を上げて地に沈む。
 カズユキがその場に辿り着くと、床に転がっていたのはミナトだった。
 ハルと呼ばれた女児をあやすように撫でながら起き上がり、地面に座ったまま眉を下げてカズユキを見上げる。
「ごめん! ハル…この子、魔獣に村を襲われて最近ここにきたんだ…。魔獣の声が聞こえてパニックになっちゃって…止められなくてごめん…!」
 ミナトの腕の中で、しゃくり上げて泣いている子どもをカズユキはみつめる。
 他にも同じような子どもたちを大人たちが懸命に宥めているのが目に浮かぶようだった。

「いや、中から出られないようにしなかった俺のミスだ。お前がこの子を守らなかったら…! すまなか…っ、ガッ…!!」

 怪鳥を仕留めて気を抜いてしまっていたのか。
 気配探知の魔術に頼りすぎていたのか。

 いや、それ以前の問題だ。

 なんの気配もなく忍び寄っていた「ソレ」は、姿さえなかった。
 それにもかかわらず。

 カズユキの腹部を剣が貫いている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

処理中です...