子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

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第一章

助けた覚えがないんだが?

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「さっきの子は? 放ってきてしまって良かったのか?」
「私に挨拶に来ていただけだ。大した用ではない。もう自分の寮へ帰った」

 私は柔らかいベッドに腰掛ける。
 まだ一度も持ち主の私が座っていない椅子の背もたれに身体を預けている男と向かい合った。

 思わず溜息を吐いてしまう。
 なんとも薄情な言葉だ。
 
 不本意にも目が合ってしまった後、皇太子は降りてこいという動きをした。
 丁重にお断りして部屋に引っ込んだ。
 関わり合いになって良いことは絶対にない。

 そうしたらなんと、向こうがわざわざ私の部屋をノックしてきたのだ。

 のんびりと部屋着に着替えようとしていた私は慌てて服をクローゼットに押し込み、制服のボタンを止め直す羽目になった。

「分かった。それはいい。何の用で来たんだ?」

 皇太子は目線を合わせないまま手の指を組み、俯いた。

 なんというか、悪戯を白状する前の子どものようだ。
 ソワソワと、落ち着かない様子で言葉を探している。
 ついつい、助け舟を出したくなった。

「……何かやらかしたなら、まずは『ごめんなさい』だぞ?」
「何の話だ。……いや、そうだな、すまな……違う、その……」

 言い淀む様子に首を傾げる。
 本当に何かやらかしてしまったのだろうか。
 だとしても私を頼られても困るのだが。
 魔術か、魔術が必要なのか。

 大したことではありませんようにと祈りながら言葉が出てくるのを待っていると、バッと顔を上げてこちらを見た。

「シン・デルフィニウム!」
「は、はい」

 ようやく発せられた声がやけに大きく聞こえ、思わず背筋を伸ばしてしまう。
 しかし、声がはっきりしていたのは名前を呼んだ時だけだった。

 再び目線を逸らしてモゴモゴと話し出す。

「……礼を、言う……。2度、助けられた……っ」

 たったそれだけ言うと、また黙ってしまったので、拍子抜けする。

 今まで聞いていた怒鳴り声や尊大な態度とはまるで違う。
 本当に、どう話して良いのか分からないので言葉が出てこない、という状態なのだろう。

(この子、こうしてみると顔が綺麗なだけの普通の男の子なんだな)

 落ち着きなく動きそうになる指を組んで抑え、目線を窓の外へと向けている姿がかわいらしく見えてきた。
 そのままベッドに着いた手に体重を掛けながら眺めていると、

「……何か言うことはないのか」

 と、いつもの不機嫌顔で睨みつけられる。
 不機嫌、というよりすぐに返事が来なくて不安になっているのかこれは。

 礼を言われたなら、どういたしましてというべきなのだろうが、確認したいことがあった。
 私は足を組みながら疑問を口にした。

「ああ。なんで私の姓を知っているんだ?」
「それは本当に今言うべきことか?」

 間髪入れず返された言葉は、全くもってその通りだった。
 だが、言いたいことが上手く伝えられないのであれば、一旦は他の話をして緊張をほぐすのも良いのではないかと思ったのだ。

 組んだ足に肘をつき、顎に手を当ててにっこりと笑う。

「仕方ないだろう。気になったんだから」

 対照的に、皇太子は大きく息を吐きながら前髪をかきあげた。

「おと……皇帝陛下に以前、信頼できる人物としてデルフィニウム公爵を紹介されたのを思い出した。その時に一緒に居ただろう」

 確かに父と共に皇太子に挨拶したことがある。
 しかしそんな紹介のされ方だったとは知らなかった。
 では、まさか「信頼できる人物」の息子に喧嘩を売られるとは思ってもみなかっただろう。
 決して喧嘩がしたかったわけではないが。

 それにしても、聞き逃せない言葉があった。

「お父様って言ってもいいと思うぞ?」
「貴様は話を逸らしすぎだろう!!」

 皇太子は腰を浮かせる勢いで大声を出した。
 というよりツッコミを入れたような形だ。
 
 いやだって。「おと」と言い掛けて言い直されたら気になるだろう。可愛くて。

 そう伝えたら更に声のボリュームが上がりそうなので、そこには触れず手をひらひらと振った。

「ははは、すまない。冗談だ」

 私は皇太子が初めにしていたように手の指を組み、膝の上に置いた。
 そして真っ直ぐ皇太子を見て、出来るだけ軽く柔らかい声で話しかける。

「じゃあ本題だ。私には、お前を助けた覚えがないんだが?」

 浮かせていた腰を下ろし、肘掛けにその名の通りの役割を与えた皇太子は、最初よりもリラックスした様子で言葉を返してくる。

「入学式の後のアンネ・アルメリアとの件と食堂での件だ」
「そのことだろうことは分かる。だが、アンネとの時は喧嘩を売りはしたが助けていない。食堂の件も、私よりネルスやエラルドの方が上手くお前を説得していただろう」

 私が助けたのは、アンネと料理長風の人である。

 皇太子は、伸ばしてあげたくなるほど眉間の皺を深くし、肘掛けの先端を握り締める。
 それからへの字に曲げていた口を重々しく開いた。

「……私は、感情が昂ると自分では上手く止められない」
(うん、それは知ってる)

 誰がどう見てもそうなのだが、本人は気づかれていないと思っているのだろうか。
 私は口は閉ざしていたが大きく頷いた。

 それを見て皇太子は、拗ねたように一瞬唇を動かしたが、すぐに話を続けた。

「貴様はそれを、強制的に止めてくれただろう。食堂の時は、最後に上手く取り繕ってくれていた」
(つ、伝わってたんだー! すごーい!!)

 本気で驚いて目を見開いてしまう。

 あの時は、しれっと私の話に乗っかっていたので、もしかしたら皇太子は、

「忠臣を探すための演技を皇太子がしている」

 と、私が本気で思っていると勘違いしているかもしれないと考えていた。

「だから、礼をって貴様何を笑っているんだ!!」

 自分でも気が付かない内に口角が上がってしまっていたらしい。
 見られたのならば隠しようがないので、開き直って明るく言う。

「いや、食堂での私の気遣いに気づいてくれていたことに感動した」
「分からない奴がどこにいるんだ!! お前まで私を幼児扱いするのか!!」

 皇太子はついに立ち上がった。

 一般的な15歳は、嫌いなものが入っていたくらいでスープ皿をひっくり返したりしないと思うんだよどう考えても幼児の行動だ。
 と、言うわけにはいかず。

 ただ、思っていないと否定するのは躊躇われた。
 なぜなら、

「……」
「黙るな!!」

 反応が予想通りすぎて面白すぎるのだ。
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