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第一章
はなまる!!
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「まぁまぁ」
私はベッドから立ち上がり、肩をぽんぽんと叩いて皇太子を座らせる。
怒鳴りすぎて肩で息をしていらっしゃる。
頬も赤い。
本当にかわいい子に見えて来た。
「アレハンドロの気持ちはよく伝わった。自分で、感情の爆発を止められないと自覚しているならまだマシだ。頑張ってコントロールしろ。以上」
「勝手に話を終わらせるな」
「まだ何かあるのか?」
感情のコントロールは何歳になっても難しいけど心して頑張ってくれ、と笑顔で部屋から送り出そうとする。
が、見放された子犬のような顔になる。
狼かと思ったら大型犬だったようだ。
「……いや……」
絶対何か言いたいことがある間があった。
察して差し上げるのは難しいし正直面倒だ。
どうして欲しいのか分からなかったので、
「ちゃんとお礼が言えて偉かったな? どういたしましてー」
と言いながら、わしゃわしゃと頭を撫でて褒めてみた。
「だから幼児扱いをするな!!」
当然怒られた。
私はめげずに、今度は乱した髪を整えるように撫でた。
「他にも言いたいことがあるならいつでも来い」
「いつでも……」
「そう。いつでも。私で良ければな」
意外にも大人しく椅子に座って撫でられながら、皇太子が目線を上げてこちらを見た。
今までで一番近くで、深い緑の瞳と目が合う。
形の良い唇がゆっくり動いた。
「……それは……友人、みたい、だな?」
「ん?」
今、何か可愛いこと言った?
撫でる手を止めて固まった私を見て皇太子は慌てて立ち上がった。
頭から手が離れ、背を向けられたので表情が見えなくなった。
そして、皇太子は焦ったように早口で喋り始める。
「あ、いや。なんでもない。私と友人などと恐れ多いと思うだろう。忘れろ」
「とうとい」
私は行き場を失った手を下げることもせずに呟いてしまった。
「尊い? そう、だろうな。皇太子などという尊く高貴な立場で友人など」
(何意味わかんないこと言ってんだこの子かっわい)
早い話が、この子はお友達が欲しかったのだ。
それで、庭に降りるのを断ったのにわざわざ部屋までやってきたのだ。
そういうことだ。
こちらとしても最悪な第一印象から一転、かわいい子枠に入れてしまったので、
「いいよーお友達になろー」
と、いう気持ちだ。
それをイケメンらしく格好良く伝えたい。
「ああ、何か勘違いさせたみたいですまない。友人なんて、改めて口にするものでもないから私も混乱した。好きな時に気ままに訪れて、話が出来るのは、確かに友人だろう」
言葉に反応してすぐに振り返った皇太子の表情は仏頂面だったが、「対等で居よう」と伝えた時のようになんとなく嬉しそうで。
私は胸に手を添えて笑い掛けた。
「私はシン・デルフィニウム。魔術が得意なんだ。必要な時には気軽に声をかけてくれ。例えば……」
机に置いた鞄へと指を向け、短く呪文を唱える。
いつも通り光が鞄を包み、中に入っていた全ての教科書を浮かび上がらせた。
数秒後に光が消えた後、じっと様子を見ていた皇太子の目の前に1冊だけ浮かばせる。
「教科書に名前を書く、という、地味に面倒なことを数秒で終わらせたりな」
私は腕を組んで渾身のドヤ顔を決めた。
教科書の裏表紙を見た皇太子は息を呑んだ。
「……! 本当に見事だな」
そして、今日、初めての笑顔と共に手を差し出される。
「私はアレハンドロ・キナロイデスだ。同じ一年生同士、よろしく頼む」
こんなに穏やかな声を出すことが出来るのか。
私が女の子ならば恋に落ちているだろうに。
いや、女ではある、女ではあるんだが、うん。
眩しすぎる美形から発せられる癒しの低音ボイスにクラクラしながら、そんなことは表面には出さずにしっかりと手を握り返した。
手を離した後、照れ臭いのか結局目線を逸らしてしまった皇太子が、教科書を机に戻しながら口を開いた。
「シン、私の教科書にも魔術で名前を書け」
それが人にものを頼む態度か。
「書いてください」
「……書いてくれ」
言い方を訂正されたとすぐに気が付いた皇太子は、ため息を吐きながら言い直した。
いや、それが人にものを頼む態度か。
だがアレハンドロとしては及第点だ。
初対面だけどそうに違いない。
「今回はそれで許してやる。友人、だからな」
そう伝えた時のアレハンドロの嬉しそうな顔といったら!
はなまる!!
皇太子、アレハンドロとお友達になった。
私はベッドから立ち上がり、肩をぽんぽんと叩いて皇太子を座らせる。
怒鳴りすぎて肩で息をしていらっしゃる。
頬も赤い。
本当にかわいい子に見えて来た。
「アレハンドロの気持ちはよく伝わった。自分で、感情の爆発を止められないと自覚しているならまだマシだ。頑張ってコントロールしろ。以上」
「勝手に話を終わらせるな」
「まだ何かあるのか?」
感情のコントロールは何歳になっても難しいけど心して頑張ってくれ、と笑顔で部屋から送り出そうとする。
が、見放された子犬のような顔になる。
狼かと思ったら大型犬だったようだ。
「……いや……」
絶対何か言いたいことがある間があった。
察して差し上げるのは難しいし正直面倒だ。
どうして欲しいのか分からなかったので、
「ちゃんとお礼が言えて偉かったな? どういたしましてー」
と言いながら、わしゃわしゃと頭を撫でて褒めてみた。
「だから幼児扱いをするな!!」
当然怒られた。
私はめげずに、今度は乱した髪を整えるように撫でた。
「他にも言いたいことがあるならいつでも来い」
「いつでも……」
「そう。いつでも。私で良ければな」
意外にも大人しく椅子に座って撫でられながら、皇太子が目線を上げてこちらを見た。
今までで一番近くで、深い緑の瞳と目が合う。
形の良い唇がゆっくり動いた。
「……それは……友人、みたい、だな?」
「ん?」
今、何か可愛いこと言った?
撫でる手を止めて固まった私を見て皇太子は慌てて立ち上がった。
頭から手が離れ、背を向けられたので表情が見えなくなった。
そして、皇太子は焦ったように早口で喋り始める。
「あ、いや。なんでもない。私と友人などと恐れ多いと思うだろう。忘れろ」
「とうとい」
私は行き場を失った手を下げることもせずに呟いてしまった。
「尊い? そう、だろうな。皇太子などという尊く高貴な立場で友人など」
(何意味わかんないこと言ってんだこの子かっわい)
早い話が、この子はお友達が欲しかったのだ。
それで、庭に降りるのを断ったのにわざわざ部屋までやってきたのだ。
そういうことだ。
こちらとしても最悪な第一印象から一転、かわいい子枠に入れてしまったので、
「いいよーお友達になろー」
と、いう気持ちだ。
それをイケメンらしく格好良く伝えたい。
「ああ、何か勘違いさせたみたいですまない。友人なんて、改めて口にするものでもないから私も混乱した。好きな時に気ままに訪れて、話が出来るのは、確かに友人だろう」
言葉に反応してすぐに振り返った皇太子の表情は仏頂面だったが、「対等で居よう」と伝えた時のようになんとなく嬉しそうで。
私は胸に手を添えて笑い掛けた。
「私はシン・デルフィニウム。魔術が得意なんだ。必要な時には気軽に声をかけてくれ。例えば……」
机に置いた鞄へと指を向け、短く呪文を唱える。
いつも通り光が鞄を包み、中に入っていた全ての教科書を浮かび上がらせた。
数秒後に光が消えた後、じっと様子を見ていた皇太子の目の前に1冊だけ浮かばせる。
「教科書に名前を書く、という、地味に面倒なことを数秒で終わらせたりな」
私は腕を組んで渾身のドヤ顔を決めた。
教科書の裏表紙を見た皇太子は息を呑んだ。
「……! 本当に見事だな」
そして、今日、初めての笑顔と共に手を差し出される。
「私はアレハンドロ・キナロイデスだ。同じ一年生同士、よろしく頼む」
こんなに穏やかな声を出すことが出来るのか。
私が女の子ならば恋に落ちているだろうに。
いや、女ではある、女ではあるんだが、うん。
眩しすぎる美形から発せられる癒しの低音ボイスにクラクラしながら、そんなことは表面には出さずにしっかりと手を握り返した。
手を離した後、照れ臭いのか結局目線を逸らしてしまった皇太子が、教科書を机に戻しながら口を開いた。
「シン、私の教科書にも魔術で名前を書け」
それが人にものを頼む態度か。
「書いてください」
「……書いてくれ」
言い方を訂正されたとすぐに気が付いた皇太子は、ため息を吐きながら言い直した。
いや、それが人にものを頼む態度か。
だがアレハンドロとしては及第点だ。
初対面だけどそうに違いない。
「今回はそれで許してやる。友人、だからな」
そう伝えた時のアレハンドロの嬉しそうな顔といったら!
はなまる!!
皇太子、アレハンドロとお友達になった。
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