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第一章
バレット・アコニツム
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後ろ髪を引かれながら食堂を後にした私は、剣の修練場へ向かっていた。
やめとくとは言ったもののやはり気になる。
万が一どちらかが大怪我をした時に、
「私がいたらすぐ治せたのに!」
となってしまったら後悔どころではない。
(でももう終わってそうだなぁ……)
石畳みに足音を響かせない程度に急ぎながら、怪我がないことだけを祈る。
たどり着いたその場所は、想像していたより静かだった。
皆んなが待ちに待った練習試合、と言っていいのか分からないが、観てみたかったらしいカードなのだ。
もっと歓声とか何かありそうなものだが。
勝負がついているのだから。
石畳みに横たわるエラルド。
その首のすぐ横には練習用の剣が立っている。
それを持っているのはもちろんバレット。
剣を握ったままエラルドに覆い被さっていた。
響くのは2人の荒い息遣いのみ。
「ネルス」
私は体格のいい生徒たちに混ざって1人華奢な背中に声をかける。
びくりと肩が上がり、ネルスが振り返った。
「し、シン……!」
なんというか、変なタイミングで来てしまった。
もう少し後なら、ちょっとは場が和んでいただろうに。
それもこれも急かしたアレハンドロのせいだ。
後でアンネとあの後どうなったか根掘り葉掘り聞いてやる。
「……また明日やるぞ、エラルド」
静かな空間で、剣を支えにして先に立ち上がったバレットが口を開いた。
そして感情の読めない表情で手を差し出す。
「期待に応えられたってことか?」
「そういうことだ」
いつもの柔らかく明るい声と共に手を握り返したエラルドの表情は見えない。
そのまま引き上げるのかと思ったが、エラルドは手を離してから自分で立ち上がった。
「悪い。想像以上に手に力が入らない」
バレットは手を見つめ、握ったり開いたりしながら呟く。
それに対して、膝の砂を払っていたエラルドは、
「俺も」
と笑ってぷらぷらと手を振っていた。
ようやく、見物客たちも呼吸ができる状態になってきた。
なにやら壮絶な戦いが繰り広げられたらしい。
◆
「凄かった!!」
剣の修練場からの帰り道、大興奮中のネルスが林に響き渡りそうな声を出す。
「すごくすごくすごくすごく格好良かったぞ!」
ちなみにこの子、さっきから「すごい」「格好良い」以外の語彙を失っている。
2人の稽古試合が相当楽しかったらしい。
「エラルド!君は凄いな!家を捨てて騎士になりたいと聞いた時は、正直、狂気の沙汰だと思っていたが!」
「思ってたのか。」
「思われてたのかー」
バシバシとネルスに背中を叩かれながら、びくともしないエラルドはいつも通りだった。
「君なら騎士になれる! 普段はヘラヘラしているのに剣を持つと別人のようだな! 本当にすごく格好良かった!」
褒めているのか貶しているのか分からないが、おそらく本人は褒めているつもりなのだろう。
キラキラしたおめめの美少年とは逆に、好青年は困った笑顔でくしゃりと頭を掻いた。
「いやでも、負けたんだけど……」
「それは僕も悔しい!!」
(相当エラルドに肩入れして観戦してたな。当たり前だけど)
戦った本人に対して間髪入れずにうんうんと頷いている。
当然悔しいだろうエラルドは、実はそんなことを一言も言っていないのだが、ネルスは言葉通り悔しそうに眉を寄せる。
「あの男、戦っている最中に『期待外れだ』とかいっていたのが聞こえたぞ……!」
エラルドが期待外れとはまたとんだ化け物だなバレット・アコニツム。
見るからに強そうだったけど。
「でも最後は完全に前言撤回ということになったな!なんだか上から目線だったのが気に入らないが!!さすがだエラルド!」
この子さっきからず――――っと1人で楽しそうにおしゃべりしてる。
しかも何故かドヤ顔。
かわいい。
エラルドに落ち込む隙すら与えない勢いだ。
まるでテンションが上がると手がつけられないオタクのよう。
いや、ヒーロショーを観に行った後の幼児だろうか。
普段は賢い優等生なのに。
普段からやかましい気はするけど。
やめとくとは言ったもののやはり気になる。
万が一どちらかが大怪我をした時に、
「私がいたらすぐ治せたのに!」
となってしまったら後悔どころではない。
(でももう終わってそうだなぁ……)
石畳みに足音を響かせない程度に急ぎながら、怪我がないことだけを祈る。
たどり着いたその場所は、想像していたより静かだった。
皆んなが待ちに待った練習試合、と言っていいのか分からないが、観てみたかったらしいカードなのだ。
もっと歓声とか何かありそうなものだが。
勝負がついているのだから。
石畳みに横たわるエラルド。
その首のすぐ横には練習用の剣が立っている。
それを持っているのはもちろんバレット。
剣を握ったままエラルドに覆い被さっていた。
響くのは2人の荒い息遣いのみ。
「ネルス」
私は体格のいい生徒たちに混ざって1人華奢な背中に声をかける。
びくりと肩が上がり、ネルスが振り返った。
「し、シン……!」
なんというか、変なタイミングで来てしまった。
もう少し後なら、ちょっとは場が和んでいただろうに。
それもこれも急かしたアレハンドロのせいだ。
後でアンネとあの後どうなったか根掘り葉掘り聞いてやる。
「……また明日やるぞ、エラルド」
静かな空間で、剣を支えにして先に立ち上がったバレットが口を開いた。
そして感情の読めない表情で手を差し出す。
「期待に応えられたってことか?」
「そういうことだ」
いつもの柔らかく明るい声と共に手を握り返したエラルドの表情は見えない。
そのまま引き上げるのかと思ったが、エラルドは手を離してから自分で立ち上がった。
「悪い。想像以上に手に力が入らない」
バレットは手を見つめ、握ったり開いたりしながら呟く。
それに対して、膝の砂を払っていたエラルドは、
「俺も」
と笑ってぷらぷらと手を振っていた。
ようやく、見物客たちも呼吸ができる状態になってきた。
なにやら壮絶な戦いが繰り広げられたらしい。
◆
「凄かった!!」
剣の修練場からの帰り道、大興奮中のネルスが林に響き渡りそうな声を出す。
「すごくすごくすごくすごく格好良かったぞ!」
ちなみにこの子、さっきから「すごい」「格好良い」以外の語彙を失っている。
2人の稽古試合が相当楽しかったらしい。
「エラルド!君は凄いな!家を捨てて騎士になりたいと聞いた時は、正直、狂気の沙汰だと思っていたが!」
「思ってたのか。」
「思われてたのかー」
バシバシとネルスに背中を叩かれながら、びくともしないエラルドはいつも通りだった。
「君なら騎士になれる! 普段はヘラヘラしているのに剣を持つと別人のようだな! 本当にすごく格好良かった!」
褒めているのか貶しているのか分からないが、おそらく本人は褒めているつもりなのだろう。
キラキラしたおめめの美少年とは逆に、好青年は困った笑顔でくしゃりと頭を掻いた。
「いやでも、負けたんだけど……」
「それは僕も悔しい!!」
(相当エラルドに肩入れして観戦してたな。当たり前だけど)
戦った本人に対して間髪入れずにうんうんと頷いている。
当然悔しいだろうエラルドは、実はそんなことを一言も言っていないのだが、ネルスは言葉通り悔しそうに眉を寄せる。
「あの男、戦っている最中に『期待外れだ』とかいっていたのが聞こえたぞ……!」
エラルドが期待外れとはまたとんだ化け物だなバレット・アコニツム。
見るからに強そうだったけど。
「でも最後は完全に前言撤回ということになったな!なんだか上から目線だったのが気に入らないが!!さすがだエラルド!」
この子さっきからず――――っと1人で楽しそうにおしゃべりしてる。
しかも何故かドヤ顔。
かわいい。
エラルドに落ち込む隙すら与えない勢いだ。
まるでテンションが上がると手がつけられないオタクのよう。
いや、ヒーロショーを観に行った後の幼児だろうか。
普段は賢い優等生なのに。
普段からやかましい気はするけど。
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