子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

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第一章

混ざろう

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 和んでいると、エラルドが動いた。
 ずっとされるがままになり話を聞いていたエラルドが。

 勢いよくネルスの方を向くと、正面から抱きしめたのだ。
 小柄な体はエラルドの腕に完全に覆われてしまった。

「!?ど、どうしたんだエラルド!?大丈夫か!?」
「……ありがとう、ネルス。おかげですごく元気になった!」

 少し震えるその声を聞いて、ネルスは瞬いたあと、静かになる。
 そして、さっきから遠慮なく叩いていた背中を優しく上下に撫でている。
 
 のかと思ったが、

「た、頼む……っ苦しいから少し力を……!」

 もがいていただけだった。
 
(泣けばいいのか笑えばいいのか萌えればいいのか)
 
 当然、私の心は「友人として」「大人として」「腐女子として」さまざまな方面で大忙しだった。
 
 心の底から思ったのは、観てなくて良かった、ということである。
 多分、観てたら、今、泣いていた。
 
 エラルドの目標を知っていて、真剣勝負を観てからのこれは、泣いてたと思う。

 年々、涙腺がゆるっゆるになっているんだ。
 本当に泣くし、普通に今の光景を見泣きそうなんだけど今泣いたら変な奴すぎる。

 なんでお前が泣くんだ、と、心の底からネルスに首を傾げられるに違いない。

 ネルスが幼児みたいで面白い方向か、今日はネルスがやたらBLフラグを立てているという風な方向に思考を無理矢理にでも持っていかないと。
 泣く。
 
(うん、BLだったらこの後なし崩しにキスシーンじゃない? ね?)

 BL漫画でもこのシーンあったら泣いてる気がする。

 これはいけない。
 どうしようか。
 無になろう。
 私は、15歳の男の子です。うん。
 
 混ざろう。
 
 高速脳内会議の末、謎の結論に辿り着いた私。
 腕を広げて左にエラルド、右にネルスの状態で2人まとめて抱き締めた。

「お前までなんなんだシン!」
「楽しそうだから混ぜてもらおうと思ってな」
「あはは、シンって面白いよなー」

 エラルドは右腕を動かして私の背中に回してくれる。
 しかし、私が加わると、逃れようとしてもぞもぞとネルスが動き出した。
 エラルドが良くて私はダメなのなんなんだ。

 そうこうしている内に、3人で抱きつき合っている上にネルスが動き出したことでバランスが崩れた。

「わ」
「お」
「あ」

 思い思いの発声をしながら、ネルスの方へ傾いていった。

 そちらに倒れるのが一番まずい。

 慌てて私は足に力を入れ、自分の方へと体重を移行させようとするが、強い重力に引っ張られて上手くいかない。

 そのまま3人でドサッと倒れた。
 左肩に軽い衝撃を感じる。

 慌てて起き上がると、ネルスはエラルドを下敷きにしていた。

「いててー」

 重力に逆らえなかったのではなく、エラルドに引っ張られていたらしい。

「え、エラルド! 大丈夫か!?」
「す、すまない! 私が要らないことをしたから……!」

 ネルスはエラルドに跨ったままで、私は上半身を起こして仰向けになっている顔を覗き込んだ。

「大丈夫大丈夫!2人とも怪我はないか?」

 手を使わず腹筋を使って起き上がっているところを見ると、元気そうだ。

 ホッとしたら笑えてきた。
 ネルスも力が抜けたのか、口元が緩んでいる。

 なんだか楽しくなってきたので、エラルドをポンっと押してみる。多分、悪戯をする子どものような顔になっている。

「おお?」

 エラルドはそのまま倒れそうになったが、背中がつくギリギリで止まって、またすぐ軽やかに戻ってきた。
 同じように何度も押してみると、その度に速度を落とさず疲れる様子もなく戻ってくる。

「おー! すごいすごい!」

 思わず拍手すると、エラルドが笑った。

「何するんだよシンー」
「な、なんでそんなに何度もちゃんと戻って来られるんだ?」

 心底不思議そうなネルスを見て、私とエラルドは顔を見合わせてまた笑った。

「よし、次はネルスと私2人で体重をかけてみよう。何秒倒れないでいられるかな?」
「待て待て! ネルスが2人ならともかくシンとネルスの2人は流石に」
「僕2人ならってどういう意味だエラルド!」
(言葉通りの意味……)

 エラルドの両手と指を絡めて押し倒そうとするネルスと、笑いながらびくともしないエラルド。
 BL萌っていうより父子の戯れだなこれ。

 私はネルスの後ろに回ると、ペンだこの出来ている手の上から同じように掴んで加勢する。
 しかし、必死そうなネルスが面白くて力が入らない。
 エラルドは流石に後ろに動いたが倒れなかった。

 こんな道の真ん中で馬鹿なことやってるなぁと冷静な自分もいるのだが、まぁ公道じゃないので良しだ。
 
「何をなさっているんですの?」
 
 嘘でしょこんなアホなところ人に見られることある?
 いや、こんなところでアホなことしているんだから見られるのが普通か。
 
 ゆっくり顔を上げると、人影が2つ。

 艶のある金の縦巻きロール、ルビーのように赤い瞳、それを縁取る付け睫毛かエクステしてますかと聞きたくなるようなバサバサの睫毛。
 右の目元には黒子。
 肌は白いけれども血色のいい頬と唇。

 近くで見ても隅から隅まで美しい女の子が首を傾げて立っていた。

「ラナージュ嬢! お恥ずかしいところを……!」

 ネルスが勢いよく立ち上がって制服と姿勢を整える。
 言葉通りのお恥ずかしいところすぎて改めて笑いが込み上げてきたのをなんとか飲み込む。
 
 そして、

「あれ、バレット?」

 座ったままのエラルドは気の抜けた声で美女の一歩後ろにいた無愛想くんの名前を呼んだ。

 よりによってなんでお前がこんなところにいるんだ。
 私は思わずエラルドの顔、特に目元を確認した。

 よし、いつも通りだ。
 いつも通り爽やかな好青年だ大丈夫。
 
 そう、ラナージュとバレットがセットで登場したのである。
 
(あーそういう? そういうこと? お嬢様と騎士的な?)
 
 
 設定、盛ってくるじゃん? 
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