子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

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第二章

気にしないでくれ!

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 私は一息つくとにっこりとバレットに返事をする。

「エラルドは幼児じゃないからな」
「貴様さっきから無礼にもほどがあるが?」

 ボトルをギリギリと握り締めてアレハンドロが眉間に皺を寄せる。
 すぐに怒鳴らなくなって成長成長。

「はいはい」

 私はパタパタと手を振って適当にあしらう。
 
 しばらく雑談している内に、後方集団がゴールしてきた。
 大体の生徒が本気ではないので終わった後も話しながら歩いてくる中で、何人か膝に手を置いて荒い息を繰り返す生徒がいる。

 その内の1人がネルスだった。

 運動が苦手で体力もあまりないネルスはしんどかっただろう。頑張って走り終えたことを褒め称えたい。
 そう思って眺めていると、ネルスの方がこちらに気づいて小走りでやってきた。

「あ、ネルスが来た」
「で、殿下早かったんですね……!流石です!」

 すでに呼吸も落ち落ち着き、汗も引いてきて涼しい顔をしているアレハンドロに明るく話し掛けた。
 笑顔だが脇腹をさすっているし、汗だくだったのでタオルと飲み物を持ってきてあげようとベンチへ足を向けたその時。

「ネルス、体調でも悪いのか?」

 バレットが腰を屈めてネルスを覗き込んだ。
 ネルスはキョトンとそれを見上げた。
 いやいや、顔近っっ!

「……ん?」
「遅すぎだろう。お前は真面目だから他の貴族連中とは違って、授業中に手を抜かない」

 表情からは分からないが、おそらく心から友人を心配している悪意の無い声だ。

 あー!これだから運動能力高いやつはー!
 頑張った子の傷を抉るー!

「あ、いやバレット。ネルスは……」

 本気で走ってこのスピードなんだと言ってしまって良いものが迷う。運動音痴には運動音痴なりのプライドがある。
 でもネルスは運動は苦手だと前にバレットに言っていた気がするから今回も自分で言うだろうか。
 
「え、え……と、その……た、大したことない!ちょっと朝から風邪気味なだけだ!」

 見栄張っちゃったー!!

「医務室に行った方がいい。顔も真っ赤だし汗もすごい」

 それはみんなに置いてかれないように全力で走ってたからなんだよバレット。
 お前には分からないかもしれないけど、ぺちゃくちゃ喋りながら走る集団について行くのがやっとの人種も居るんだよ!

 ネルスは笑って両手を左右に振る。

「気にしないでくれ!君だって走ったらそうなるだろう?」
「あのスピードではそうはならない」

 淡々ととどめを刺すなー!
 誰かこの子を黙らせてくれ。
 
 本当のことをいうべきか迷いながら他の2人に目線をやる。
 アレハンドロは飲み物に口をつけながら目線を逸らし、エラルドは苦笑いしていた。
 2人とも私と同じく、なんと声をかけたものかと困っているのだろう。
 
 ネルスは笑顔のまま俯いてしまう。

「……そうか……とりあえず、みんなが走り終わるまでは休憩する」

 そう言って私たちに背中を向け、人が集まっている日陰の方へと歩き出す。
 
「酷くなったら言えよ」
「ありがとう」

 バレットが後ろから声を掛けたが、振り返らず声だけが帰ってきた。
 
「……やっぱり様子がおかしい……」

 離れて行く華奢な背中を見送りながら、腕を組んでバレットが呟いた。
 体調不良じゃなくてお前のせいで元気が無いだけなんだよ!
 悪気がないことは本人も気をつけにくいから厄介!
 ネルスは可哀想だけどここまでくると笑えてきた。

「バレット、バレット」

 私は筋肉のついた腕を控えめに叩いて声を掛ける。
 この年でこんな筋肉ついてて大丈夫なのかな。
 これもっとちゃんと触ってみたいなー。セクハラになるかなぁなるよなぁ。

「なんだ?」

 目線をこちらによこしたバレットと視線が合う。
 私は一瞬頭をよぎった邪な思考を振り切って、眉を下げながら微笑んだ。

「ごめん、何と言えばいいのか分からなくてタイミングを逃したんだが……やっぱり言っておく。実はな……」
 
 
 私はネルスがおそらくベストコンディションで本気で走って、さっきの速さなのだと説明した。
 アレハンドロとエラルドは、

(そうだろうな)

 という顔をして無言で頷いている。
 が、バレットは普段あまり動かない表情筋を大きく動かし、信じられないという顔をして固まってしまった。

 いやそんなにか。
 ネルスには悪いがやっぱり面白いわ。
 
 しばらく動かなかったバレットだったが、正気を取り戻すと、ネルスの方に駆け寄っていったのだった。
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