73 / 134
第二章
ふざけるな
しおりを挟む「……帰るのが面倒だな……」
喋り倒してもうすぐ日付を跨ぎそうな時間になってきた。
眠くなってきたのか目を擦っていたバレットが、ボソリと呟きながら後ろに倒れる。そのままゴロンとベッドの上に大の字になった。
掛け布団の金の刺繍の形が崩れる。
それを見て、エラルドも同じように寝転がった。
2人がベッドに並んでも余裕を持って寝られそうなのがこのゴージャスベッドのすごいところだ。
「本当になー。同じ寮だったら良かったのに……このベッド気持ちいい……」
目を閉じて微笑むエラルドを見て、本当に寝てしまいそうだな、と思いながら私はソファから立ち上がった。
「広くていいよな。皇太子特権」
エラルドを見下ろし、ここぞとばかりに頭を撫でる。
気持ちよさそうにこちらを見上げるエラルドの顔がいい。癒しだ。
柔らかい毛質が手に心地いい。これも癒し。
「ここで寝たらダメか」
目を閉じたりはしていないが、完全に寛ぎモードのバレットが天井を見つめながら淡々と言う。
「お前、皇太子殿下のベッドに寝転がっているだけでも信じられないのに!」
開いた口が塞がらない、という表情でネルスが頭を抱えている。
「さすがに3人は無理だろー」
ネルスの声は気にせず、隣のエラルドがゴロゴロと左右に体を傾けてベッド全体を確認して笑う。
本気でそうしたいと思っている口ぶりだし、寝る人数にサラッと自分もカウントしている。
3人で寝たら流石に狭そうだな。
でもその様子を見てみたい気もする。
バレットは全く起き上がる気配を見せない。
「寝転がったら起き上がれなくなった」
すごく分かる。
部屋の主のアレハンドロは溜息をつきながら近づいてくる。腕を組むと呆れたように2人を見下ろした。
「寝たら床に突き落とすぞ」
「はは、ここなら床でも寝られそうだなー」
フカフカの絨毯を見てエラルドが笑う。
確か騎士の訓練の中で石畳や土の地面の上で寝ることもあったと言っていたから、それに比べれば寝やすいだろう。
私は想像した。
皇太子と騎士。
であれば、床で寝るよりは窓の側かドアの側で壁に背中を預けて剣を抱えて座って寝る、というのがしっくりくる気がする。
2人いるなら片方は皇太子の近くで起きてるかな。交代で寝るかもしれない。
通常の護衛ならドアの外に立ってるから、冒険中の宿屋とかのイメージになるけど。
たしかルース王子の冒険中にそんなワンシーンがあった気がする。
魔族が魔術師の結界を突破して寝室に 侵入してくるのだ。
すぐに気づいた盾の騎士が、王子を起こさないように音もなくその魔族を切り捨てた。と、同時にもう1人突入してくる。
そのとき、寝てるように見えた剣の騎士が即座に剣を抜いて応戦するのがカッコいいシーンだった。
騎士2人の見せ場のひとつ。
ところで。
皇太子と騎士2人、魔術師と賢者。
考えないようにしてたけど似てるなぁ構成が。
今、この部屋にいる人間と。
まずいぞ私に魔族フラグが。
外見王子なのに魔王の生まれ変わりフラグが。
もしそうなら死んでしまうかもしれない。
それだけはなんとか避けないと。
あれ、自分が魔王かもしれないなんて心配してるの相当痛いやつだな。誰にも言えやしない。
でもこの世界観ならありそうだ怖い。
今日偶然観た劇に似てる、とかならまだしもこの国に浸透してる誰でも知ってる昔話っていうのが良くない。
例えば「桃山」「犬川」「猿田」「雉野」「鬼島」という登場人物がいる漫画があるとする。
日本で生活していたら何がモチーフの物語なのかだいたいの人が分かるだろう。ルース王子の話はそのくらい浸透している物語だ。
いやしかし、裏切り者は鬼島でしたと思わせといて実は猿田でしたとかいうこともあるあるだし、鬼の血を引くのは主人公の桃山だったのですとかもよくあるから。
魔族は産まれた時から魔族の自覚があるらしいし、大丈夫だと思うけれど。
例外のないことはない。
もしかしたら後天的に覚醒したりなんかのきっかけで乗り移られたりするかもしれない。
出来ればみんなにお願いしたい。急に私の雰囲気が変わったり一人称が変ったり、アレハンドロのことを公の場でもないのに「殿下」って呼んだりしたとか、そういうのが有れば後で必ず教えてくれと。
よくある「……ん……?」と思うだけとかで終わらさないで欲しい絶対。「シン?いや、なんでもない……」とかもやめて欲しい。
はい、しかし言えるわけがない。
頭のおかしい奴すぎる。
念のためにフラグ圧し折る方法考えとかないと。
床で寝る云々の会話を聞いただけで、それとは全然関係ない課題を私が見出しているときに。
床で寝るというのを真面目に受け取ったらしいネルスが、眉を寄せて首を左右に振った。
「いや流石にそれは……ん?待て。バレット本当に寝てないか?」
そう言うと、ネルスはそこに横たわるバレットの顔を覗き込む。
私も横から見てみるが、完全に目が閉じている。規則正しい寝息に合わせて胸部と腹部が上下している。
さっきまで喋っていたのに。幼児みたいなやつだ。
眠そうだなと思ってはいたが、限界を迎えるほどに眠くなってきていたらしい。
それにしても、皇太子のベッドで寝るなんて今更だけどすごい度胸だ。
きっと心臓に毛が生えている。
「あー、今日も結構動いたからなぁ……」
起き上がって1番近くから顔を覗き込んだエラルドが、仕方ないなぁという顔で暗い赤色の頭を撫でた。
子どもがソファで力尽きてた時の親かな。
私はベッドを占領されて目を丸くしている皇太子さまの方を向いた。
「アレハンドロ、諦めて今日はバレットと寝ろ」
「ふざけるな」
即答された。
(起こすのは可哀想だしなぁ)
改めてバレットの寝顔を見てみる。
身長が高いのでいつも見下ろされているし、体格もいいし男らしい骨格の顔つきなので分かりにくかったが、寝ているとまだまだ未完成なあどけない顔に見える。
「なんだか、寝顔は可愛らしいな……」
微笑ましい気持ちになって思わず呟くと、
「そうか?」
と、3人が顔を見合わせてしまった。
しまった。
大人から見たらそう見えても、同い年だとそんなに思わないのか。そりゃそうだ。
アラサーと高校生くらいの男子の感覚が同じなわけがない。
私は内心では慌てながら、ただただ笑顔を3人に向ける。
そして、ベッドからドアの方へと足を踏み出した。
「じゃあそろそろ帰るかー」
「こいつを連れて行け」
すぐにアレハンドロが微動だにしないバレットの方を指差す。
「はは。そのデカいやつをどうやって連れていくんだ。もう寝かせといてやれ」
私は軽く笑うと、呪文を唱えてバレットを浮かせる。
キラキラとした光に包まれた彼を、ベッドの左側に寄せてやった。
2人の寝相にもよるが、右側で余裕を持って寝られるだろう。
私のベッドでアレハンドロと二人で寝られたんだから、どう考えても大丈夫だ。
そのまま改めてドアへ向かう。と、
「貴様なら部屋まで連れて行くのは容易いだろう!」
アレハンドロが私の肩を掴んできた。
先程の魔術を見たら当然抱く感情だろう。
もちろん簡単に出来る。
出来るけど、面白そうだからそのままにしたい。
「はいはい、おやすみー」
どうやら、私と同じ気持ちになったらしいエラルドが悪戯っ子のような表情で目配せしてきた。
ネルスの背中を押しながらこちらにやってくる。
そして、アレハンドロと私の間に割り込んだ。
ネルスは焦った様子でアレハンドロの顔や寝ているバレット、明らかに楽しんでいる私とエラルドを忙しなく見た。
「え、本当に? 本当に殿下の部屋に置いていくのか!?」
戸惑いながらも、ぐいぐいエラルドに押されて為すすべなくドアへと移動していく。
味方が居なくて唖然としているアレハンドロに、私はウィンクを投げて手を振った。
「おやすみー」
そのままバタン、とドアを閉めたものの。
すでにドアの内側が気になる。
アレハンドロがソファに座って寝たり、ましてや床で寝ることはないだろうから絶対隣で寝るだろう。
バレットを床に叩き落とすことも、きっとない。
2人が並んで寝てるの見たいな~!
明日起きた時のバレットの反応も見てみたいが、どうせいつも通りなんだろうなぁ。
11
あなたにおすすめの小説
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界のんびり放浪記
立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。
冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。
よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。
小説家になろうにも投稿しています。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる