子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
78 / 134
第二章

今年だけだ

しおりを挟む
「剣術大会?」
「そうなんだ! お前からも止めてくれ!」

 さて、あの後2人の可哀想でとても可愛い必死の説明により、誤解をしていることに気がついた私は話の真相を聞いていた。
 そもそも誤解してないけどな。
 
 白い息を吐きながら早足で寮への道を歩く。
 歩みに合わせて説明するネルスの言葉も早口になっていた。
 
 姿が見えない位置まで聞こえるほどに大きい声で話すことになってしまったのは、アレハンドロが「剣術大会に出てみようと思う」といった旨の事をネルスに言ったからだということだ。

 想像以上に断固として否定されたため、アレハンドロがムキになった。
 そしてお互いヒートアップしていったそうだ。
 結果、先程のように喧嘩みたいになっていったらしい。

 あまりにも自分の言葉に耳を貸さないので、アンネやラナージュに止めて貰えば、アレハンドロも諦めるだろうとネルスは思って例の言葉に繋がったという。

 事情を聞いた私は、私とネルスに挟まれているアレハンドロを見る。
 この子、話の間ずっと黙って不貞腐れていた。
 ネルスのいうことは大体正論だけど、そういうのが受け入れにくい時あるからねぇ。

 ちょっと場を和ませよう。

「やめておけアレハンドロ。また皆んなの前でバレットに吹っ飛ばされるぞ」
「貴様その話を」
「バレットに!? どういうことだシン!!」

 アレハンドロは「話を蒸し返すな」と言いたかったのだろう。
 しかし、ネルスに言葉の途中で阻まれた。
 いつも思うけど、ネルスも中々に不敬だよ。

 しかししまった。
 これは後でバレットを説教しに行くかもしれない。ごめんバレット。
 そう思いながらも、言ってしまったのは仕方がない。
 私はラナージュ嬢に聞いた、初回の剣術の授業で起こったらしい事件を説明した。
 
 ネルスは真っ青な顔になって立ち止まり、頭を抱えた。
 ごめん寒いから立ち止まらないで。

「バレット! なんってことを……! いつも自分基準で考えすぎるんだ怪物のくせに自覚が足りない!」

 酷い言いようだ。
 でもそれは、本当にそう思う。
 ネルス、マラソンの時のこと根に持ってるなもしかして。
 私は相槌を打ちながら背中を押し、歩みを促す。

 全然、場は和まなかったな。

「その話はともかく、危ないからやめておけ。真面目な話、お前がもし怪我をしたら相手が可哀想だ。分かっているだろう?」
「……」

 横から顔を覗き込むと、反対側に顔を逸らされてしまった。
 目を合わせろ目を。
 自分に都合が悪いと絶対に目を合わせないタイプの幼児め。

 私はため息を吐くのを我慢して、出来るだけ優しく諭そうとする。

「何で急に剣術大会に出たいなんて言い出したんだ。お前は賢い。優勝出来ると思っているわけでもないだろう」
「別に。皆が騒いでいるからどんなものかと思っただけだ」

 アレハンドロは目は合わせないままぶっきらぼうに答えた。
 
 今は剣術大会のエントリー時期だ。
 この後期末テスト、冬休みが終わったら予選、本戦と続く。

 名目上は、身分も性別も関係なく出場できる。
 騎士階級の子たちはもちろん、貴族や他の子たちも出場しようかどうかとか、誰が優勝するだろうかだとか話して盛り上がっているのだ。

 皇族貴族騎士商人など大勢が観戦にやってくる、お祭りみたいなイベントだから。

「楽しそうだから混ざりたくなったんだな?」
「……」

 返事はないが、眉間の皺が深くなった。
 唇がギュッと結ばれる。
 図星か。

 ネルスはなるほど、という表情になった。
 そして、頑なにダメだと目を吊り上がらせていたのが変わる。
 困ったような、同情するような顔になった。

「殿下、お気持ちは分かりますが……」
「いいんじゃないか?予選くらいなら出ても」
「!」

 アレハンドロがパッとこちらを向いて目を輝かせた。
 分かりやすい。
 ようやく目があったわ。

 喜んでるのはかわいいけど、私は意見を言っているだけだ。決定権は全く無いことを忘れないでほしい。

 ネルスは当然、再び目くじらを立てた。

「シン!? お前、責任取れないだろう!」
「どうせ三学年合わせても上澄みの実力者16人しか、大勢が観に来る本戦には出られないんだし。その代わり、皇帝陛下の許可と、何かあっても相手に責任を問わないって誓約書みたいなのは書く必要があるだろうけどな」

 いくらアレハンドロが剣術も得意とは言っても、騎士階級の猛者たちに勝つのは難しいだろう。
 出場のエントリーをするくらいなら、記念受験みたいなもんだ。
 あの皇帝ならあっさりオッケー出しそうだし。

 しかしネルスは頷かない。

「もし16人の中に入ったらどうするんだ!! 殿下の剣術の腕前を知らないのか!?」
「出ればいいだろう」
「僕が止めているのは、殿下がお怪我をするかも、という理由だけじゃないんだぞ」

 だろうなぁ。
 多分、アレハンドロが出るって言ったら運営側が悲鳴を上げる。
 でもほら、何で子どもが大人の事情を考慮しないといけないんだよ。好きにさせてやれ。

 私が対処しないといけないわけじゃないから知らん。
 
 私とネルスの声を黙って聞いていたアレハンドロが、顎に手を当てて私を横目で見た。

「シン、お前は私と試合をしたらどちらが強いか分かるか」
「知らん。何だ急に」

 なんだか、嫌な予感がする。

「もし16人の中に残ったら代理でシンが出るのはどうだ?」

 どうだ?じゃないわ。
 どうしてそうなった。
 しかもアレハンドロの問いかけは、私ではなくネルスに向いている。

「はぁ……まぁ、剣術の実技成績はシンの方が上なので。シンの身分的にも文句は出にくいし、殿下が出るよりはマシかな……でもそんなのはありなのかな……」

 突然の提案にネルスは混乱したのか、真面目に返答しながらも、同じように顎に手を当ててぶつぶつ言い出してしまった。

 私の方が成績が上だったらしい。
 しかも身分が高いと誰も何も言えなくなるとか貴族階級の闇。この世の闇。
 出てたまるか剣術大会なんか。
 怖すぎる。
 
 私はポンっと手を打って明るく笑う。

「よし。この話はなかったことにしよう皇太子が出るのは危ないからな。な、ネルス」
「変わり身の早さがすごいなお前!!」

 自分の世界に入っていたかと思ったが、ネルスはツッコミはしっかりしてくれた。

「シン……」

 そんな捨てられそうな犬みたいな目をされても。
 私は。
 負けないぞ。

「いや、だから。本戦に出られるほど実力があれば本戦に出ればいいだろうと言っている」
「私が出ると、警備や待機する医療者の量も質も変わって、大変なことは理解しているんだ」

 理解してるんかい!!
 いいよもうそこ考えなくて!
 優秀な大人がなんとかしてくれるから!

 とは、言えない。

「でも確かにシンの言う通りです。勝っても本戦に参加なさらないなら、出場する意味は一体どこに……」

 ネルス正論!ほんとそれ!!

「少しでいいから空気を味わいたい。シン、ネルス、今年だけだ」

 2回目になりますが。
 私やネルスに決定権があるわけじゃないんですけどね。
 大人たちに打診する前に私の承諾はいるだろうけども。

 そういえばこのくらいの時って、お友達の反応がすごく精神に影響があるんだった気もするなぁ。
 
 それにしても必死だ。
 すごくしおらしい。

 思い返してみれば他の学生らしいイベントの時。
 体育祭とか文化祭とか。
 みんなと一緒に色々するの楽しそうだったもんなぁ。

 剣術大会まで出たくなっちゃったかー。
 剣術大会どうするー?記念に出るー?婚約者に予選だけでも観てもらおうかなーみたいな空気感にあてられて、ワクワクしちゃったんだよねぇ。
 
 気持ちは分かるけど。
 
(うーん。皇太子じゃなきゃ、誰にも止められないで出場出来るんだよな)
 
 まぁどうせ16人に入れるわけないし、思い出だけでも、という気持ちになった。
 なってしまった。
 やりたくてもやれなかったことって引き摺るからな。
 
 私は仕方ない、と小さく息を吐く。
 深緑の瞳を真っ直ぐ見て笑った。

「お願いしますは?」

 私って甘い。
 本当に甘い。

「オネガイシマス」

 酷い棒読みだ。
 相変わらず、人にモノを頼む態度じゃない。
 しかし、ちゃんと言えたなえらいえらい。
 口元が緩むのを一生懸命引き締めている表情もかわいい。

「絶対16人の中に入るなよお前!」

 文武両道とはいえ、皇太子さまに負けるわけないよな小さい時から毎日毎日鍛錬に明け暮れてる人たちが!!
 信じてるぞ騎士階級の皆さん!!
 
 いやだフラグな気がするー! 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...