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第二章
貴方もですわ
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ラナージュが馬車を手配したということで、アンネには先に帰ってもらうことになった。
変なタイミングだったせいで、不安そうな顔をしていたのが可哀想すぎる。
後でフォローの手紙か何か送ってあげないと。
図書館で2人きりになると、ラナージュは長机の前の椅子に座りながら口を開いた。
「今からするお話は、決して他の人には知られてはならないのです。お願いできますか?」
告白でもされるのかな?
でもそんな雰囲気じゃなさすぎる。
なんて、現実逃避しながら私たちの会話が誰にも聞こえないように呪文を唱えた。
それを確認すると、ラナージュは白い指を組んで真っ直ぐ私を見る。
尋問される容疑者のような気持ちだ。
「貴方、シン・デルフィニウムではありませんわね?」
いや、この世界では、私は産まれた時からシン・デルフィニウムだけど?
と、答えるのは流石に躊躇われた。
どう答えるべきかの判断材料が足りない。
私は椅子に背を預け、腕を組む。
「それは、どういう意味だ?」
ラナージュは真剣な影のある表情を動かさず、ゆったりと話し始めた。
「私が存じ上げるシン・デルフィニウムは、何事にも妥協せず、万事に置いて最優秀の完全無欠。いつも人に囲まれているけれど、誰にも心を許さず、華やかな外面に反して孤独な天才……そういった方ですわ」
いったい、何の話をされているのだろう。
あまりにも違う人物像に大笑いしそうになる。
それをおさえて、イケメン貴族らしく余裕をもって微笑んだ。
「それは、確かに私とは別人だな」
「私の知る」と言われても、ラナージュとは学園に入学してから知り合ったのだ。
お互い貴族界の噂は耳にしているはずだが、私については流石に完全無欠とまでは言われてないと思う。
分からないことは聞くしかない。
「学園以外のどこかで、君に出会ってたか?」
「そうですわね……前世、と申しましょうか」
「前世」
すっごい大真面目に言われてしまったので復唱してしまう。
いや、前世。
まさかの中二病か?
「正確には違うのですけれど」
顎に手を添えるラナージュ自身も、どう説明したら私に伝わるか測り兼ねているということだろうか。
前世だけど、正確には違う。
私の想像力では、辿り着く結論は1つだった。
まさか、私と同じような状態なのか。
同じ世界に、2人も転移者もしくは転生者がいるなんてことがあるんだろうか。
しかし、もしそうならば。
婚約者のアレハンドロと友人のアンネの恋愛に妙に客観的なのにも納得がいく。
応援しているような発言もあった。
間違っていたら私が変な奴になってしまうので、少しずつ探りを入れることにした。
「異世界転生みたいな?」
異世界転移、の方が私の状況は正しいのだが。
ラナージュの表情が突如、別人のようにパッと明るくなった。
「その単語をご存知なんですね! スマートフォンはいかがです?」
「……!」
久々に聞くその名詞。
これは、現代の人間からしか出てこない単語だ。
私は期待で胸の音が早くなりだすのを感じる。
「知ってる」
「……っ! やっぱり!」
ラナージュは勢いよく立ち上がった。
ガタンッと椅子が後ろに倒れる音が、天井の高い図書室に響き渡る。
しかし、そんなことは気にも止めないで机の向こうから身を乗り出してきた。
「ではこの世界がなんという物語の世界かご存知!?」
「ごめん、それは知らない」
勢いが凄すぎて完全に気圧されながら即答する。
なんだろう。同士を見つけたオタク特有の勢いを感じる。
私の返事を聞いたラナージュは少し残念そうな顔をした。
「それでは、無事帰ることが出来たらお調べくださいまし。貴方の名前や殿下の名前くらいで検索したら出てきますわ」
いや、布教するならタイトル教えてくれよ。
元の世界に「帰る」ことを前提に話しているようだし。反応をみるにおそらくラナージュはよくある、
「大好きだった物語の中に異世界転移しちゃった!」
といった感じなんだろう。
羨ましい。
「ということは、これは何かのフィクションの世界なんだな?」
ほぼ確定だと思うが念の為に聞いておく。
ラナージュの方が、この世界や私自身についても詳しそうだ。
ならば、きちんと話し合いをして協力し合いたい。
何かの罠じゃないことを祈ろう。
「ええ。ええ。ああ、良かった! これで希望が見えましたわ! もう帰れないかと思っていましたの! 本当に良かった!」
ラナージュは倒れた椅子を直しながら心底嬉しいことが全身に現れている。ニッコニコだ。
興奮で白い頬に朱が差す。
「ごめん。今、私は大混乱中で……説明してもらっていいか?」
私は彼女が座り直すのを待って質問を重ねる。
だって話の内容によっては、自分の行く末がかかっているかもしれない。
ラナージュはコホン、と咳払いをすると、再び真剣な表情に戻った。
「はい。ではまずご自身の置かれている状況をお伝えします」
「もう嫌な予感がする」
良いことが待ってる声のトーンじゃないもん。
「この物語上、私と貴方は卒業間際に死にます」
あ――――――。
やっっっぱり――――――。
ね――――――――。
まぁラナージュは悪役令嬢っぽいもんなぁ。
「君だけじゃなくて?」
我ながらとても失礼。
「貴方もですわ」
はっきりきっぱり言われてしまった。
変なタイミングだったせいで、不安そうな顔をしていたのが可哀想すぎる。
後でフォローの手紙か何か送ってあげないと。
図書館で2人きりになると、ラナージュは長机の前の椅子に座りながら口を開いた。
「今からするお話は、決して他の人には知られてはならないのです。お願いできますか?」
告白でもされるのかな?
でもそんな雰囲気じゃなさすぎる。
なんて、現実逃避しながら私たちの会話が誰にも聞こえないように呪文を唱えた。
それを確認すると、ラナージュは白い指を組んで真っ直ぐ私を見る。
尋問される容疑者のような気持ちだ。
「貴方、シン・デルフィニウムではありませんわね?」
いや、この世界では、私は産まれた時からシン・デルフィニウムだけど?
と、答えるのは流石に躊躇われた。
どう答えるべきかの判断材料が足りない。
私は椅子に背を預け、腕を組む。
「それは、どういう意味だ?」
ラナージュは真剣な影のある表情を動かさず、ゆったりと話し始めた。
「私が存じ上げるシン・デルフィニウムは、何事にも妥協せず、万事に置いて最優秀の完全無欠。いつも人に囲まれているけれど、誰にも心を許さず、華やかな外面に反して孤独な天才……そういった方ですわ」
いったい、何の話をされているのだろう。
あまりにも違う人物像に大笑いしそうになる。
それをおさえて、イケメン貴族らしく余裕をもって微笑んだ。
「それは、確かに私とは別人だな」
「私の知る」と言われても、ラナージュとは学園に入学してから知り合ったのだ。
お互い貴族界の噂は耳にしているはずだが、私については流石に完全無欠とまでは言われてないと思う。
分からないことは聞くしかない。
「学園以外のどこかで、君に出会ってたか?」
「そうですわね……前世、と申しましょうか」
「前世」
すっごい大真面目に言われてしまったので復唱してしまう。
いや、前世。
まさかの中二病か?
「正確には違うのですけれど」
顎に手を添えるラナージュ自身も、どう説明したら私に伝わるか測り兼ねているということだろうか。
前世だけど、正確には違う。
私の想像力では、辿り着く結論は1つだった。
まさか、私と同じような状態なのか。
同じ世界に、2人も転移者もしくは転生者がいるなんてことがあるんだろうか。
しかし、もしそうならば。
婚約者のアレハンドロと友人のアンネの恋愛に妙に客観的なのにも納得がいく。
応援しているような発言もあった。
間違っていたら私が変な奴になってしまうので、少しずつ探りを入れることにした。
「異世界転生みたいな?」
異世界転移、の方が私の状況は正しいのだが。
ラナージュの表情が突如、別人のようにパッと明るくなった。
「その単語をご存知なんですね! スマートフォンはいかがです?」
「……!」
久々に聞くその名詞。
これは、現代の人間からしか出てこない単語だ。
私は期待で胸の音が早くなりだすのを感じる。
「知ってる」
「……っ! やっぱり!」
ラナージュは勢いよく立ち上がった。
ガタンッと椅子が後ろに倒れる音が、天井の高い図書室に響き渡る。
しかし、そんなことは気にも止めないで机の向こうから身を乗り出してきた。
「ではこの世界がなんという物語の世界かご存知!?」
「ごめん、それは知らない」
勢いが凄すぎて完全に気圧されながら即答する。
なんだろう。同士を見つけたオタク特有の勢いを感じる。
私の返事を聞いたラナージュは少し残念そうな顔をした。
「それでは、無事帰ることが出来たらお調べくださいまし。貴方の名前や殿下の名前くらいで検索したら出てきますわ」
いや、布教するならタイトル教えてくれよ。
元の世界に「帰る」ことを前提に話しているようだし。反応をみるにおそらくラナージュはよくある、
「大好きだった物語の中に異世界転移しちゃった!」
といった感じなんだろう。
羨ましい。
「ということは、これは何かのフィクションの世界なんだな?」
ほぼ確定だと思うが念の為に聞いておく。
ラナージュの方が、この世界や私自身についても詳しそうだ。
ならば、きちんと話し合いをして協力し合いたい。
何かの罠じゃないことを祈ろう。
「ええ。ええ。ああ、良かった! これで希望が見えましたわ! もう帰れないかと思っていましたの! 本当に良かった!」
ラナージュは倒れた椅子を直しながら心底嬉しいことが全身に現れている。ニッコニコだ。
興奮で白い頬に朱が差す。
「ごめん。今、私は大混乱中で……説明してもらっていいか?」
私は彼女が座り直すのを待って質問を重ねる。
だって話の内容によっては、自分の行く末がかかっているかもしれない。
ラナージュはコホン、と咳払いをすると、再び真剣な表情に戻った。
「はい。ではまずご自身の置かれている状況をお伝えします」
「もう嫌な予感がする」
良いことが待ってる声のトーンじゃないもん。
「この物語上、私と貴方は卒業間際に死にます」
あ――――――。
やっっっぱり――――――。
ね――――――――。
まぁラナージュは悪役令嬢っぽいもんなぁ。
「君だけじゃなくて?」
我ながらとても失礼。
「貴方もですわ」
はっきりきっぱり言われてしまった。
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