子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

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第二章

恋人同士だったらどうする?

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 春休みの前日、もとい終業式の日に私はアンネと2人で話をしていた。

 私を迎えに来るはずの馬車にトラブルが発生したらしく、待ちぼうけを食らってしまっている。優しいアンネが付き合ってくれているのだ。

 アンネには家の馬車などはもちろんないので、大きい相乗りの貸し馬車に乗るらしい。
 予約などはなく、決まった時間に規定の場所に行けば良いということだ。
 もうそれなら待ってくれたお礼に私の馬車で送ってあげてもいいなぁと思うのだが、アレハンドロにバレたら嫌な顔をされるだろうなと想像する。
 
 もう誰も居ないガランとした図書館で、本を眺めたり手に取ったりして感想を言い合っていた。

「このシリーズに出てくる登場人物は、ルース王子以外は女性なの! みんな王子に恋心を抱いているけれど、王子の心は姫だけのもので……」

 主人公以外が女体化のハーレム物がこの世界にもあったのか。

「魔術師と盾の騎士はその恋心に付け入られて、魔王に乗っ取られたり操られたりするのかな?」
「読んでないのに分かるの!?」
「お、思いつきだったけど当たったのかー」

 口元に手を当てて、ものすごくびっくりされてしまった。
 王道中の王道すぎて、返事が棒読みになってしまう。
 アンネにはとても斬新だったんだろうね。

「魔術師さまと盾の騎士さまは死の間際に気持ちを伝えられる。でも、賢者さまと剣の騎士さまは気持ちに蓋をして、ずっと王子のおそばにいるの」
「素敵だな?」

 感想、これであってるかなー。
 個人的感想ですが、あんまりキュンとしないなぁ。
 他の恋見つけな?素敵な人は王子だけじゃないよ?そういう問題でもないんだろうけど。

 ルース王子ってイメージ的にはそういうのにも聡くて2人の気持ちも上手く受け流してあげられそうだけど。
 全く気付いてない天然パターンの可能性もあるし、賢者も剣の騎士もメインヒロインの姫も大変だなぁ。
 
 本を元の場所に戻しながら、アンネが視線を落とした。

「か、関係ない話なんだけど……」
「うん?」

 私は、何か真面目に話したい雰囲気を感じ取り、話しやすいように柔らかく微笑む。
 アンネは言葉を探すように目線をあちこちに彷徨わせ、分かりやすく深呼吸した。

「シンは、アレハンドロ殿下のこと、好き?」

 考えた割に直球で聞くじゃないか。
 ていうか、なんだそれ。

「今の話の流れでそれを聞くのか?」

 私は想定外すぎる質問にあんぐりと口を開けてしまった。

 今、王子に恋してる側近たちのお話してましたね?
 一応、関係ないとは前置きしていたけども。
 好きってどっちの? 流れ的には恋愛感情の好きっぽいけど?
 そんな腐女子みたいな発想をアンネがしているのはちょっと信じられませんね。

 私は相当に信じられないものを見る顔をしていたのか、アンネが慌てて口を開いた。
 手元はモジモジと動いている。

「え、えと、その! シンはあの……殿下やエラルドさま、バレットさまと、色々とロマンティックな噂が女の子の間で……」

 なんでだよ。
 お嬢様方がそんな噂話してんの面白いんだけど。絶対腐女子が混ざっててわざと噂流してるでしょ。
 その噂してる方に混ざりたいな。
 
 そして私は知っている。
 事実確認や恋話がしたいだけの例外ももちろんあるが、大体「◯◯のこと好き?」と質問が来た時は質問した側が◯◯のことが好きなのだ。

 今の話なら、話題にするのはエラルドやバレットでもいいのだから。
 わざわざアレハンドロについて聞いてきたというのはそういうことだろう。
 私は口元に指を添えてニヤけるのを堪える。

「もし噂通り、私がアレハンドロと恋人同士だったらどうする?」

 あ、恋人同士って噂されてるなんて一言も言われてないわ。墓穴掘ったかも。

「び、びっくりする……」

 ツッコまれなかった。ということはそういう噂なのか。遺憾の意。
 
 アンネはずっと落ち着かなげに手を動かし、目線もそこに落としている。

「でも二人が仲が良いのは良いことだから! えーと、ラナージュさまには内緒に……出来るかな……」

 きっと君は態度に出てラナージュには速攻バレる。
 努めて明るい声で話そうとしている様子に小さく笑ってしまう。
 肩をすくめて片目を瞑って見せた。

「まぁ、違うから安心してくれ」

 頬を染め、あからさまにホッとした表情でこちらを見る様子が可愛らしすぎた。
 そういうのもっと頂戴。

「じゃあ逆に聞こうか。アレハンドロのことをどう思ってる?」

 照れて更に可愛い様子が見られるかなと思ったのだが。
 アンネは眉を下げた切ない目でこちらを見た。

「殿下は、この世界で一番尊くて、一番大切な人だよ」

 当たり障りのない返答だった。
 不躾かなとは思いつつ、話題を振ったからには誰かに吐き出したい可能性も高い。
 優しい声と表情になるように努め、踏み込んだ。

「皇太子だから?」
「ううん。私は、あの方が」

 そこで言葉は切られた。
 が、続くはずだった言葉は言わずもがなだろう。

「でも、シン言ってたよね? 手の届かない人に恋をしたら諦めるって。覚えてる?」

 覚えてる。
 あの時は本当に何も考えず、正直に答えてしまったことを反省しています。
 まさか、手の届かない人というのが私のことだなんて全く思わなかった。
 今思えば、何で気づかなかったのか分からないくらい分かりやすかった気がするのに。

「私……さっきのお話みたいに、蓋をすることにしたの」

 だからあのお話の賢者さまや剣の騎士さまについつい感情移入しちゃって、と悲しそうに笑った。
 そんなこと言わないで欲しい。
 両思いならさっさとくっつけばいいのに。

 私はどんな表情をしたものか迷いつつ、微笑みを貼り付ける。アンネの頭を自然と撫でてしまった。

「叶うかもしれないじゃないか」

 本当は抱きしめてあげたいけど流石にダメだろうな。それじゃ完全に下心あるやつの行動。
 ノリで「私にしとけよ」とか言いたくなりそう。

「皇后にふさわしいのは誰がみてもラナージュさまだよ。私は、殿下のお力になれたらそれでいいの。そのために、頑張ってるの」

 うっすらと丸いおめめに涙が溜まってきているのが分かる。
 そんな顔するなら諦めなくて良いのに。
 確かにラナージュはザ・皇后様! て感じだけど。

 なんでアレハンドロはもう帰っちゃったんだろう。

 この流れなら、なんでか知らないけどこの話を聞いていて、今、飛び出してくるタイミングじゃないの?
 肝心な時に居ないんだから! 舞踏会の時は居たくせに!!

 ここで完全にアレハンドロをアンネが諦めてしまうと、この後本気で口説くつもりでいるのに差し障るかもしれない。
 私はなんとか言葉を繋ごうとした。

「アンネ、でも」
「デルフィニウムさま」

 後ろから突如声が掛かる。
 この美しい声色は。

 振り返るとラナージュが完璧な笑顔で微笑んでいた。

 私もアンネも完全に固まった。
 いつから居たの!?
 ていうか今声かけちゃう!?

 いやでもラナージュの立場からしたらそりゃ会話止めるか。

「デルフィニウムさま、お話があるのですが」

 そういやなんで私!?
 アンネじゃないの!?

「ラナージュさま!」

 私も相当驚いているけど、アンネは顔が真っ青だ。婚約者に聞かれて良い話ではなかったし当然だ。
 油断していた。
 誰にも聞かれないよう魔術をかけておくべきだった。

 しかし、ラナージュはこちらの状況は丸で気にしていないようだった。
 いつも通り、女神のような笑顔をアンネに向けている。
 逆に怖いんだよなんなんだこの子。

「お話中にごめんなさい、アンネ。デルフィニウムさま、お帰りになる前にに早急に確認したいことがございますわ」
「はい。なんでしょう」
 
 私には真面目な表情で、有無を言わさない声の調子だ。

 何かしてしまったんだろうか。

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