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第三章
良い子
しおりを挟む魔術で店や商品を元通りにした私は、流石に疲労していた。
あの状況を目の当たりにしただけで疲れるのに、6店舗くらいに被害が及んでいたのだ。
飲食物の販売店が近くに無かったことが不幸中の幸いだった。
流石に食べ物は下に落ちたらどんなに修復しても食欲が湧かないだろうし。
出来るだけ早く立ち去りたくて修復のスピードを上げたから通常より魔力を消費した。
改めて休憩を所望した私に、
「そろそろお昼の時間だし店に入ろう」
と、エラルドが提案してくれた。
前回剣を選びに来た時に、バレットと来たのだというレストランに案内される。
外壁は緑のレンガで出来ていて、中は明るい木目のテーブルと椅子が並んでいる。
2人でデートしたところに連れてきてくれるとは、気が効くなぁ。妄想の材料をありがとう。
リーズナブルで小洒落たカフェレストランといった雰囲気だ。
2人だったらハンバーガーとか食べてそうだと勝手に想像していたのだが。
もしかしてこの世界、ファーストフード店みたいなのは無いのだろうか。
貴族やってると分からないことも多いな。
「俺だったら、露店に迷惑をかけないで5人を取り押さえたけどなー」
大通りに面したテラス席に落ち着くと、木のテーブルに頬杖をついたエラルドが笑顔でチクリと言った。
煽るじゃないか。もっと言え。
アレハンドロとバレットが「まだその話をするのか」とでも言わんばかりに眉を寄せる。
ネルスは気まずそうに項垂れた。
「え、エラルド怒ってるか?」
「怒ってないよ? ただ、あれだけ力の差があれば出来たのにって思っただけだ」
「ごめんなさい」
「んー……反省してるの、ネルスだけなんだよなー。暴れたのネルスじゃないのになー」
アレハンドロとバレットをチラ見しながら、すっかり眉を下げて肩を落としているネルスの頭を優しく撫でる。
同い年なんだけど、兄弟みたいで可愛いなぁ。
おそらくエラルドは気づいている。バレットは本気で「解決したんだから良いだろ」って思ってそうだが、目を逸らしたアレハンドロは罰が悪くて謝ることもできないでいるだけだと。
叱られてる時の性格、出ますね。
良い悪いはともかく、ネルスみたいな叱られ方が一番大人が説教を終えやすい。
大人だって叱りたくて叱ってないからとても助かる。
アレハンドロのタイプは「もー、分かった? いいね?」とまぁなんとか終れる。
バレットは「一体どう言ったら伝わるんだ」と親が本気で頭を抱えるタイプ。
いやほんと、うちの子サイコパスかもしれないってなったりとかね。
エラルドは叱られることをそもそもしないから分からない。小さいころを覗いてみたいな。
私? 私はとりあえず反省してるふりが上手いタイプでしたね。
めちゃくちゃしょんぼりしながら「ダメなのは分かってるけどやっちまったもんはしょうがないじゃん早く終わらんかな」と思ってたね。
今でもそうかも。
食事をのんびり待ちながら水を飲んでいると、女性の叫び声が聞こえた。聞こえる範囲の人が一斉にそちらに注目する。
地面に倒れた、おそらく40代半ばの女性が「私のバッグ!!」と手を伸ばして必死の形相で叫んでいる。
状況把握すると同時に、私たちが座る席の横をひとりの男が走り抜ける。手提げバッグらしきものを右腕に抱えているのが見えた。
私を含め5人全員が立ち上がる。
しかしエラルドが手で私たちを制し、
「俺が行く」
とウインクした。かっこよ。
じゃあ女の人に怪我が無いか見に行くかと思ったが、そちらにはネルスが先に走っていった。切り替えが早い。
男を追いかけていったエラルドは一瞬で追いつき、後ろから左手で右腕を掴む。落としそうになったバッグを右手で受け止めながら足を振り払って男をうつ伏せに倒した。
片足を上げて背中を踏みつけるとカエルが潰れたような声が聞こえる。
最後、想像以上にワイルドな制裁。
そして、近くの靴屋の方を向いて、
「すみません、靴屋さん! 兵士を呼んできてください!」
と、張りのある声で伝えた。
名指しの指示を受けて飛び上がっていた男性の店員は慌てた様子で駆け出していき、周囲からは一斉に拍手喝采が起こる。
全く、やたらとトラブルが近くで発生する日だ。
私はやれやれ、と椅子に座り直して捕縛の呪文を唱えた。
「あれだよあれ。ちゃんと周りを頼ってるし、痛い目みてるのはひったくり犯だけだろ」
私は指差ししながらアレハンドロとバレットに目線をやる。
指の先では、突如現れた金の輪によって全身を地面に縫い付けられたひったくり犯が、目を白黒させている。
「私たちも別に人に被害は」
「店や商品も一緒だ。その人にとっては、壊されたら悲しい大切なものだぞ」
反論しかけた口を閉ざして深緑の目が下を向く。
小さな声で「すまなかった」と呟いた。
不貞腐れながらも反省しているのが分かる。
て、え、謝った? アレハンドロ謝った!? すごい! エラルドのお手本すごい!
やっぱり出来るところを実際に見せつけられると違うな。
バレットはバッグも傷つけず相手を取り押さえる様子をジッと観察して、「なるほど」と呟いていた。
そういえばこの子、力加減を間違ってやたら人を吹っ飛ばしがちだからな。いいお手本を見ましたね。
頼むからちょっと技術的な面以外も反省もしてくれるかな。実はしてるのかな。
私はネルスが手を貸して起こした女の人の方へ、エラルドが近づいていくのを見ながら頬杖をついた。
「まぁ、お前たちが良い子だからあの結果になったのも分かってるから。もし次があったら気をつけろ」
アレハンドロとバレットの2人は顔を見合わせる。それから揃って頷いた。
2人とも表情からは分かりにくいが、照れ臭そうな嬉しそうな空気が出ている。
「良い子」という言葉が嬉しかったのか?もう16でも嬉しいのか。「優秀」とは言われても「良い子」は言われ慣れてなさそうだからそれでかな?
こういう意外性というか、素直な可愛らしさが、ずるいよなぁ。
2人とも可愛らしいからは対局の外見してるのが面白いけど。
そして、「次」なんてあるなよ頼むから。
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