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第二章

いいんだ

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 真面目な目線に少し身構える。

「苺のパフェも美味しそうですわね……」
「……最高に美味しいです」

 思わず敬語になってしまった。
 ひと口いる?と聞きたいところだがそれすら言っていいのか分からない。
 いやしかし完全に、キラキラおめめが苺欲しいって言っている。

 周りの目が気にならないこともないが今更か、と開き直ってラナージュの方へとパフェグラスを動かす。

「良かったらひと口どうぞ。」
「まぁ……!」

 パァッと分かりやすく表情が明るくなった。
 大人びた子だと思っていたが、可愛らしいところもあるんだな。

「よろしいんですの?」

 手を合わせてこちらを上目遣いで見上げてきているのは故意なのか天然なのか。なんでもいいかわいい。
 どうぞ、と促すと、苺と生クリームを掬って口に運んだ。

「美味しいですわ!」

 嬉しそうに食べる姿に思わず口元が緩んだので手で覆う。鼻の下が伸びていたらいけない。

「ありがとうございます。デルフィニウム様もどうぞ」

 苺パフェを返すと共に、チョコパフェをひと口分掬ってスプーンを差し出してくれた。

「ああ、ありがとう」

 そのままパクっと口に入れる。
 甘い生クリームと甘すぎないチョコの味が、香りと共に口に広がって溶けていく。
 美味しすぎる。

 幸せに浸っていると。

「シン、ラナージュ。何をしているんだ?」

 私の背後から、まさかの婚約者さまのお声が聞こえた。
 ちょっと前から不穏な空気のザワザワが聞こえていると思ったがそういうことか。

 ラナージュからは見えていたはずなのにやらかしたのかこのお嬢様?
 もしかしてわざとか?

 チョコパフェに目が眩んで周りにどう見えるか考えずアーンしちゃった私も私だけど。

 色々思うところはあったが、やましいことは何もないので、私はいつも通り振る舞うことにした。
 というよりも、アレハンドロにとやかく言う資格ないだろ。

「ああ、アレハンドロ。1人で来るのは珍しいな?」
「殿下、ご機嫌うるわしゅう。デルフィニウム様とパフェを交換をしていましたの」

 ラナージュも普通のことをしていたというようにサラッと事実だけを述べる。
 特にヤキモチ妬かせたいとかいう雰囲気でもない。

「両方食べたいなら両方持ってこさせたら良いだろう」

 他にも何か言いたそうに眉を寄せているが、私たちのことにはつっこんでこなかった。
 周りが固唾を飲んで聞き耳を立てている空気を察しているのかもしれない。

「2つも要らないんだ」
「食べきれなかったら勿体無いですもの」

 私とラナージュの畳み掛けるような否定の言葉にアレハンドロは不可解そうな顔をする。
 残すことに罪悪感ないんだな。甘やかされている。

 ラナージュはアレハンドロと同意見でもおかしくないのに、勿体無い精神があるのか。
 良くできた子だ。

「……シンはいつもエラルドのも食べてなかったか」

 ボソリとツッコまれた言葉は聞かないふりをした。
 別に毎回食べてたわけでもないのだ。
 食べてた日もあるけど。努力しなくても太らない不思議な体は素晴らしい。

「まぁいい」

 いいんだ。
 
「2人のどちらでも良いんだが、演劇に興味はないか。陛下からたまには公務など関係なく友人と娯楽を楽しめと手紙と共に観劇券が送られてきてな」

 なんて都合のいい設定を持ち込むんだ。
 
 陛下、息子にお友だちがいると分かってちょっと嬉しくなったのかもしれない。
 この話がしたくてここに来たであろうアレハンドロは、どちらでもいいと言いつつ元々は私を誘おうとしていたんじゃないだろうか。

 本当は行きたいけどなと思いつつ、立ったままのアレハンドロに座ることを促し、タイムリーな話の先を促す。

「……演劇か」
「……演目は?」

 ラナージュもどうやら私と同じ可能性を感じているようだ。スプーンを置いて真っ直ぐアレハンドロを見ている。

「『ルース……」
「まてそれ」

 やっぱりな!と思いつつ言葉を遮ると、ラナージュが強めの声で続ける。

「公演はいつ?主演は誰ですの?」

 尋問のような問いかけにアレハンドロは若干引きながら答える。

「2ヶ月後で、主演はライム……」
「それ!!」
「アンネを誘ってくださいまし!!」
「……??」

 再び言葉を遮った私とラナージュのテンションの高さに圧倒されながらアレハンドロは頷いた。
 
 やったー!良かったー!と、ラナージュとひとしきり喜びあってからふと思ったんだが。
 おそらく目を丸くして私たちを眺めているアレハンドロも同じ気持ちだろう。
 
 
 いいんだ!? 
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