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話し合いは大事

鈍感だな

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「し、しもたぁ……テンパってアイトにラビ紹介してもうたぁ」
「あれ紹介だったのか」
 
 アイトから逃げて、なんとか家に着いた後。
 家のローテーブルに突っ伏したタイガは頭を抱えていた。
 ラビは荷物を部屋の端に置くと、タイガの言葉に目を瞬かせて隣に座る。
 その気配を察知して忙しなく顔を上げたタイガは、半泣きになりながら白い手の片方を両手で握った。

「ら、ラビ大丈夫か? あんなん好みとちゃう?」
「全然」
「ほんま? ほんまのほんま?」
「うん。タイガ以外興味ない」

 タイガの質問の意図がよくわからず戸惑ってはいるものの、ラビの言葉に嘘はない。
 だが感情の読み取りにくい表情で淡々と答える様子に、タイガは項垂れた。

「安心してええんか分からん……」
「そこは安心してくれ」
「んぅー」

 空いている方の手でやわやわと丸い耳を撫でられると、タイガは気持ち良さそうな声を出して大人しくなる。
 無防備な音に気を良くしながら、ラビはアイトについての説明を求める。
 スルーするにはあまりにも、タイガの様子がおかしかったからだ。

「幼なじみって言ってたけど……仲良くなさそうだな」
「めっちゃ悪い」

 心地よさそうな締まりのない顔から一変、タイガはキッパリと答えながら体を起こす。そして不機嫌に舌打ちした。

「あいつ、ガキの頃から妙に突っかかってくる嫌ーなやつなん。俺が何か始めたら後からきてあっさり追い抜いてドヤ顔で馬鹿にしてきてな? デカくて顔良くて、本人も言っとった通りなんでも出来て性格悪いところ以外非の打ち所がないんがまた腹立つわ」
「性格が悪いのは致命的だな」
「せやねん! やのに俺以外にはええ顔して人気者やし、俺が好きになった子と片っ端から付き合ってくし、俺の恋人と知らんうちに寝とるしほんまなんなんやあいつはー!」

 どんどん怒りのボルテージと声のボリュームが上がっていく。そんな中でも、タイガはラビの肌に爪を立てそうになっているのに気がついてそっと手を離す。
 そして代わりに両拳でダークブラウンのテーブルを強く叩きつけた。
 その振動を感じながら、ラビは話の内容に違和感を覚える。

「……それって……いや、なんでもない。続けてくれ」
「あいつの顔とかもう一生見たくないから留学したのにやで? 今年に入ってからこの国にあいつまで留学してきてん! 偶然とはいえ最悪や!」
「……偶然か? それ……」

 ラビの相槌とも言えない疑問符はタイガの耳には入らない。溜め込んだ不満が、ダムが決壊したかのように次から次へと溢れ出てしまっている。
 金髪を掻きむしりながら天井を見上げ、声を張り上げた。

「しかも学部も一緒やから授業被るしめっっっっちゃ絡んでくるしなんなんやー!!」

 出し切った。

「めっちゃ? 絡んで? くる? 初耳すぎる」

 ゼーゼーと肩で息をしているタイガの背を摩りながら、ラビは腑に落ちない声を出す。
 タイガは話題にも出したくなかったために話していなかっただけなのだが、恋人としては話して欲しい内容であった。
 しかし、やはりその声も興奮したタイガには聞こえていない。
 改めて、琥珀色の瞳が赤い瞳を見つめた。

「ラビも堪忍な? 俺とおったせいでめっちゃ嫌なこと言われてもうて……」
「それは全く気にしてない」
「ラビはあいつに近づいたらあかんで! もー! 絶対ラビのことは知られんようにしようと思っとったのにー!」

 言葉と共に、タイガは強くラビを抱き締める。
 恋人が出来ても、ある程度関係が進んでからいつもその雌はアイトの匂いを纏うようになっていった。
 その嫌がらせの魔の手が、ラビにまで及ぶのではないかと気が気ではない。
 纏わりついてくるアイトから隠し通すことは難しいことは分かっていた。それでも出来ればラビをアイトの視界に入れたくはなかったというのに。

 ラビはそんなタイガを安心させるように背に腕を回して抱き締め返してくれる。

「オレはタイガの方が心配だけど」
「ん? 俺? 何でや?」
「そういうとこ」

 小さくため息が聞こえたかと思うと、額に軽く口付けを落とされた。
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