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第八話
しおりを挟む出席を取ると一限の授業まで約10分の時間がある。
その間に下駄箱まで戻って上履きを履き、慌てて戻る。
「トイレにしては短かったけど、何しに行ってたの?」
あまり興味なさげな声で成嶋さんが話かけて来る。
「上履きを履き忘れて……」
「今日は時間あったでしょう?」
ギク。
あからさまに不審な行動だもんな。もしかして中身が、真堂恭介じゃないことに気が付かれたか?
「そ、その時トイレを我慢しててな……」
「そう……」
トイレならしょうがないわ。とでも言いたげに視線を廊下の方へ向ける。
ふぃぃ~ なんとか誤魔化す事が出来た。
たとえ俺がテンパッていても、この世界には関係ない。
時間になれば授業は始まる。
いって、高校一年の四月の授業。難しい事は殆どない。
まだキチンとした授業が始まっていないため殆どガイダンス程度。
灰色だった高校生活をやり直すには丁度いい機会だ。
ゲーム内悪役に転生した前提が無ければの話だが……
「オリエント世界と地中海に付いて学んでいく。
先ずは世界四大文明と河川を……真堂答ろ」
そんなことを考えていると教師に当てられてしまう。
昨日休んだ俺に答えられる訳がない、とでも言いたげなクスクス笑いが聞こえる。
フォローのつもりの教師の問答も、主人公達からすればつるし上げの場でしかないようだ。
表現し難い居心地の悪さを感じるものの、俺よりも後ろの席から怒りを感じるため俺がそう言った強い不快感を感じる事はなかった。
椅子を引くことなく立ち上がると詰まる事無く答える。
「はい。西からエジプト文明ナイル川。メソポタミア文明チグリス・ユーフラテス川、インダス文明インダス川、中国文明黄河です」
「うむ、よく勉強している」
残念だったな。俺の得意科目は歴史系全般なんだ。
進学校に不良がいる事が許せない自治厨には悪いけど、昨日はサボりたくてサボった訳じゃないんだ。
前世?文系大卒の俺がこの程度で詰まる筈はない。
スラスラと答えた事が意外だったのか、俺に敵対的な生徒は目を丸くして驚いている。
まぁ元の精神がクソ野郎だったことには同意するけど、だからと言って攻撃して言い訳じゃない。
教師が次に当てたのも昨日休んだ成嶋さんだった。
「……では『オリエント』の意味を……成嶋答えろ」
「『ヨーロッパ世界から見て日の昇る所、東方』を意味する独善的な言い回しです」
「正解だ。しかし歴史的語句に文句を言うな」
「すいません……」
「まあいい。昨日の続きから授業を続けるぞ? 古代オリエント世界は……」
教師はノートを見ながら板書を続ける。
この空気感からも確定だが、過去の俺のしでかしで今の俺が周囲から嫌われているのは事実だ。
その評価を覆すには人一倍努力して信頼を回復していくしかない。
もしそれを怠れば、原作通りの結末に終わってしまう。
しかし、俺は既に天啓を得ている。
ヒントを得たのは、あの電車内での痴漢騒動。
俺の記憶が正しければあのような話は無かったハズだ。
痴漢を俺が捕まえた瞬間、周囲の大人が鬼の首を取ったように痴漢を批難し始めた……そして俺は考える。
もしかしてルート分岐型ゲームのように特殊パラメータが存在し、それを変化させることで世界に影響を与えられるのではないだろうか? と……
東京を舞台にした周回ゲームから拝借して、特殊なパラメータを『カルマ値』と名付けよう。
「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。
習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」とは誰の言葉だっただろうか?
しかし人が人を評価するのは美醜と成果あとは、それまで培ってきた印象や固定観念と言ったモノだけだ。
仮説の段階ではあるが、善行を積めば回りがそれを後押しする。つまりこれから少しの間が勝負と言う訳だ。
この世界は悪役を必要としている。
その悪役に選ばれ、破滅しないようにするために善行を積んで俺も俺の物語の主人公になればいいのだ!
「ハハハ……」
渇いた笑いが漏れ出る。
結局前世と変わらない。
努力と運で世界は出来ているのだ。
二度目の人生。
スタートが最悪なぐらい丁度いいハンデだ。
むしろ知識や経験、仮説ではあるが世界の仕組みが判っているだけ十二分にアドバンテージを持っているともいえる。
努力の先には一度目の人生では送れなかった最高の青春が待っているハズだ。
ラブコメの世界に産まれたからこそ味わえる。
甘酸っぱい男女の甘い恋愛模様。
俺だってそんな学園生活を送りたい!!
先ずは「当たり前の事を当たり前に」「小さなことからコツコツと」始めていくのが無難だろう。
だが、手っ取り早いのは【ネームドキャラクター】との関係改善だろう。
このクラスには第一巻時点でもそこそこの人数の【ネームドキャラクター】がいる。
まずは我らが主人公『若松祐堂』だ。
窓側の席に座る気の良い陰キャで四月の時点ではやや丸い。
一般的な男子高校生といった見た目をしている。
所謂今は共感できる主人公ってやつだな。
それが幼馴染にフラれてから家事と勉強に励む努力家となる。
その過程で身体は絞られ、生来の優しく気配り上手な性格に、高家事スキルと好成績がプラスされ、更に時には冷徹に計算で動く
立派な?主人公へと変貌してゆく。
正に俺達陰キャの理想。義理の姉もいる。
主人公後ろの席ポジは『若松志乃亜』。
新入生総代を務めるほどに成績優秀、学園側からの信頼も厚く、一目見れば忘れないレベルの美少女で、慎ましやかに微笑むその笑顔は正に“天女”。その上メシマズで時折ぽんこつを披露する様から人気が高い。
女子達の中心が『山本・ウインチェスター・八枝子』
ハーフで髪色は明るく整った顔立ち。
気が強く激情家の面もあるが、面倒見のよい姉御肌。
ヒロインではなないものの、読者人気の高いキャラクターだ。
陽キャ男子の中心が『保科頼母』
気のいい男子でコミュニケーション能力が高く主人公の友人ポジショで主人公を陽キャに導いていく重要キャラクターだ。
そしてこの俺『真堂恭介』だ。
取り敢えず彼らと関係を深めていく事で悪評を何とかしてしていくしかないようだ。
「はぁ……」
深いため息が出る。
「これは長い道のりになりそうだ……」
そんなことを考えながら板書をしていると授業は終わる。
「起立、礼、ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
直後椅子にヘニャリと座り込むと、どっと疲れが溢れて来る。
昼休憩になった。
転生後初めての授業……久しぶりの学校と言う空間と、俺を目の敵のように扱ってくる集団と同じ空間にいると言うのは予想以上にメンタルに来るらしい。
学園モノの定番『屋上でお昼を食べる』をやってみようかな……
などと思って席を立つが……
「屋上に行きましょうよ」
「今日は風が気持ちよさそうだ」
主人公とヒロインのやり取りを見ると屋上での昼食と言う憧れは失せる。
もしかして、屋上でメシを食ってるのは全員主人公なのか? などと有り得ない妄想が脳裏を過った。
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