転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

文字の大きさ
46 / 74

第25話 五本指靴下とインソール2

しおりを挟む
「「!??」」騎士たちは、エルが口にした『水虫』という言葉に、一様に顔をしかめた。それは、彼らにとって忌まわしい病の名前だった。

「生き物と同じように、水虫にも好む環境がある。それは、多湿で不衛生な状態だ。つまり、君たち兵士や、畑仕事をする農民たちの靴の中は、ヤツらにとって天国のような場所ということになる……靴下で汗を吸い取り、インソールで靴の中の乾燥を保つことで、水虫の繁殖を防ぐことができるんだ」エルは、前世の知識を総動員して、彼らに分かりやすく説明した。

「そ、それは、本当ですか?」老練な従士の一人が、半信半疑といった表情で声を上げた。

「痒みで集中力を奪われると、まともに戦うことなどできません。わたくし自身も、若い頃は水虫に苦しめられました……」老従士は、遠い目をしながらそう語った。「それに、騎士病と言われる痔による痛みなども、戦場では命取りになりかねません。下半身の不調は、想像以上に戦闘能力を低下させるのです」真面目な顔で語られる、どこかユーモラスな病名に、エルは内心で苦笑した。

「確かに、一瞬の判断の迷いが、生死を分けることもございます。五本指靴下も、この吸湿性の高いインソールも、重要な軍事物資になりえますね!」壮年の従士が、力強くそう断言した。エルは、内心で「しめしめ」と思った。あわよくば売り物に……と考えていた五本指靴下とインソールが、あっという間にステップド騎士領の重要な軍事物資扱いになってしまった。まあ、領内の兵士たちが快適に過ごせるなら、それはそれで良いか。

五本指靴下とインソールを履いた従士たちが、一合ずつ打ち合いを始めた。以前と比べて、足元が安定しているのか、踏み込みが力強く、体勢が崩れにくいように見える。「何だか、足の裏に吸い付くような感覚がありますぞ!」「ええ、わかります!踏ん張りが効くので、以前よりもずっと動きやすいです!」互いに驚きの声を上げながら、騎士たちは打ち合いを続けた。「腕の差はほとんどないはずなのに……靴下とインソールだけで、ここまで差が出るとは……!」一人の騎士が、感嘆の声を漏らした。

「五本指靴下は、普段は意識しない足の指を強く意識させる。それによって、踏み込みや体重の移動、重心の操作が、普段よりもずっと容易になるはずだ」エルは、そう説明した。「少なくとも、東方の武術や、この地の古武術においても、足の指の使い方は非常に重要だと聞いている。剣術においても、下半身の安定こそが、強力な一撃を生み出す源となるのだからな」

「足の指ですか……」壮年の従士は、自分の足を見下ろしながら呟いた。「手指と同じように、一本一本を意識して使えるようになれば、踏ん張りもより一層効くということですね。我々は、剣は下半身と上半身の連動だと教えているのに、足の指の重要性を理解できていなかったとは……なんたる不覚!」彼は、自身の指導不足を痛感したように、拳を握りしめた。

「弱兵が良い道具を使えば、精兵との差を埋めることができる。そして、精兵が良い道具を使えば、さらに強くなる。ただ、それだけのことだよ」エルは、静かにそう言った。道具は、使う者の能力を最大限に引き出すための、重要な要素なのだ。

「道理ですな」壮年の従士は、深く頷いた。

「あとは、靴そのものを改良すれば、さらに完成度が高まるかもしれないな」エルは、そう呟きながら、足元の革靴を見下ろした。

「まだ、改善できるところが思いつくのですか?」ガレスが、驚いたように問いかけた。

「今のままでも、十分使えるとは思うけどね」エルは肩をすくめた。「ただ、戦場に出ることを考えると、できる限りのことはしておきたいというのが、正直な気持ちだ」幸い、この世界にはファチクスという、ゴムに似た性質を持つ植物の樹液が存在する。これを利用すれば、インソールのクッション性を高めたり、靴底に滑り止めをつけたりすることもできるだろう。靴底のパターンなんて、ロクに知らないけれど、何とかなるか……。

 その時、試し履きをしていた騎士の一人が、申し訳なさそうな顔でエルに近づいてきた。「エル様、申し訳ございません!爪先と踵の部分が、少し破れてしまいました!」

 エルは、破れた箇所を確認し、冷静に言った。「ああ、やはりそうか。糸を束ねる回数が少なかったか、二度縫いをしなかった俺の落ち度だ。強度を上げることは重要だな」

「いえ、そんな……わたくしの使い方が悪かったのかもしれません……」騎士は、恐縮した様子で首を横に振った。

 エルは、恐縮する従士に優しく声をかけた。「使う者の意見は、何よりも優先して反映させるべきだ。今回の報告は、非常に貴重だ。靴下もインソールも、恐らくステップド騎士爵家の重要な産業になるだろう。早急に改良版を作り上げ、それを秘技とするべきかもしれないな」

 ガレスは、エルに同意した。「できるうちに差を作っておくのは、賢明な判断かと存じます。正直に申し上げて、五本指靴下や、この吸湿性の高いインソールは、一旦その効果が発覚すれば、すぐに真似されるでしょう。領主様の権威を頂き、他国に容易に模倣されないようにするのが、よろしいかと存じます」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...