お転婆姫の懐剣~没落騎士はお転婆姫の近衛騎士となる。野心家な腹黒姫は女王となるため謀略を巡らせる~~

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

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第8話 水浴び

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「最悪な気分だ。まさか昨日の出来事を夢で見るなんて……」

 寝汗によって、ワイシャツが背中にべったりと張り付いている。

「まさか出向? 転属? の通達が来た初日からサンライトイーストグロウ教会への礼拝に行くことになるなんて……」
 
 井戸の冷たい水で汗を流そうと思い。
 ワイシャツにズボンと言うラフな服装で、屋敷の裏庭に向かう……

「――――でしょ?」

「あははは! だよねー」

 どこか楽し気な声が聞こえてくる。
 大方、朝食の用意か掃除のためにメイドが水を汲んでいるのだろう。と思い気にせず先を急ぐ……
 屋敷の角を超えたときその光景は、視界に飛び込んできた。

 肌色があった。
 視界一面に見えるのは、井戸にたむろう年頃の若い女の裸体だった。
 汗や垢と言った旅の汚れを落そうと、総勢二十名強の年若い乙女達はキャッキャうふふ言いながら、濡れたタオルで体を清めているようで……
 どう考えても、姫の女騎士達が水浴びをしている場面に鉢合わせてしまったようだ。
 一瞬混乱してつい。「あっ!」と声を漏らしてしまったのが運の付き……
 ワイシャツを着たままの男と、下着or素っ裸の女……人間五十年とよく言うけどまだ三分の一弱しか生きていないに……どうやら俺の尊厳は終わりを告げようとしているのだと悟る。

 黄金を溶かしたような煌びやかな髪色に、サファイアのような大きな瞳は、きりりとしており意思の強さ、気高さを感じさせる少女の躰は、程よく肉の付いており、出る所はしっかりと出て、引っ込むところは細くきゅっと絞られている腰回り。
 水を弾く玉のような白い肌。
 弾いた水は、浮き出た肋骨や座した股の間に溜まっている。
 メイドの指の動きによって、ふにふにと自由自在に形を変える。綺麗なお椀型の双丘。
 
 正に男が好む理想の女体と言うべき躰だ。

「ひっ! ――――ッ!!」

 少女達の誰かの喉から引き攣ったような、呼気が漏れ聞こえる。
 少女の肺が新鮮な空気を求め、胸筋や横隔ま動かし次の動作行動の為の予備動作だ。

不味い! 叫ばれる!!

 羨ましい。眼福だ。

 ――――と、この状況を第三者の俯瞰した目線では言えるかもしれないが、眼前の姫。及びその周囲にいる女性陣の「恥かしさ」と「怒り」、「混乱」と言った。
 様々な感情がごちゃ混ぜになった。得も言われぬ表情を浮かべ、中には涙を浮かべている者を見ると嗜虐心が刺激される。が、魔術師達が炎や風、水、雷、土と様々な属性の魔法を手を掲げ、「振り下ろせばいつでも放てるぞ?」と、言外に言うこの剣呑な雰囲気のなかでは、弁明や謝罪の言葉は愚か身動ぎ一つすることは出来ず。
 背中につーっっと冷汗が流れるのを感じ、思わずぶるぶると身震いする。

やばい! 逃げないと!
 
 俺の中の理性はカンカンと鐘を打ち鳴らし、警告を告げている。
 やはり体は動いてくれない。

「『没落名家の騎士』。なぜこのような蛮行をしたのですか?」

 呆れ顔を根性で黙らせ、ピクピクとこめかみを痙攣させた不自然な笑顔を浮かべ、姫は冷たい声音で理由を聞いて来る。

 怒るのも無理はない。「貞淑に生き、未来の夫に操を捧げよ」と言うのがこの国が女性に求めるあり方だ。
 だが、俺が凄いと思うのはこの中のだれも叫ばない事だった。
 叫べば助けは来るが、自分や姫の評判は下がってしまう。強烈な自制心からくるもののようで、水浴びの準備で半裸や下着姿の者が率先して前に立ち、全裸の同僚を庇うようにして立っている。

「誤解……ではないですが、不慮の事故なんです! 皆さんが水浴びをしてる事も知らなかったし、知っていても覗く積りなってなかったんです!」

「ならなぜここに足を運んだんですか?」

「酷い寝汗を欠きまして……訓練の時と同じように井戸水で汗を流しさっぱりしたくて来ただけなんです」

――――と理由を熱弁する。

 ここでしくじれば、姫の裸を見たとして不敬罪で良くて斬首。悪ければ連座が発生してしまう。

「全てを信じる訳には行かないけど、今のところ処分を保留にするという判断でどうかしら? 騎士の皆」

 姫の周囲で己の体を手で覆う、女騎士達は無言のまま否定も肯定もしない。

あ、終わった。

 自信の死を悟る。

「……と言う訳で、私はあなたを許す期会を与えます」

 姫の言葉で魔法を掲げていた。
 ウェスタ配下と思われる少女たちは魔法を即座に消す。

「……」

「サンライトイーストグロウ教会への礼拝が終わるまでに、一つでよいのでここにいる皆が認める功績を打ち立てなさい。それが出来なければ、刑罰を与えます」

「わかりました。急な事で気が抜けておりました今日から心を入れ替えて働きますのでなんとか……」

 そういって頭を下げると足早に現場を後にする。

「――ッ!」

 背後からは同僚の少女の殺気立つ視線を感じるが、無視をする。
 同僚の少女達も思うところはあるだろうが、現状は姫の判断に従うようだ。

(なんにせよ、俺の命は助かった)

 姫が命を救ってくれた事に安堵しながら、俺は足早にそのばを去った。
 俺の汗を流しに行ったのに余計な汗をかいた。


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