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第34話決闘の観戦者
しおりを挟む大騎士であるデニスは、騎士ではあるもののこの屋敷を拠点にしている。剣狼騎士団に名を連ねている訳ではない。
現ノーフォーク公爵コンスタンティンの命を受け、ユーサーの父であるパウルに仕えている直轄の騎士であり、現在の職務はパウルの警護とユーサーの指導、それとパウルとユーサーが作った士官学校の特別教官である。
午前から始まる稽古を終え、士官学校に通っている小姓や従騎士に指導してやろうと思い、宿舎の方へ足を延ばしていた。
「……タダじゃすまなさないぞ!」
何かを怒鳴っている声が聞こえる。デニスは息を引潜め声のする方へ近づいた。
そこに居たのはユーサー様と小姓の中でも悪童として知られる。三人組だった。教師役の騎士達がボヤいているのを聞いた覚えがあった。
不味いな……
ユーサー様は5歳とは思えない程頭が切れ、地味な鍛錬も文句一つ言わずやり通す事が出来る忍耐力がある。しかし、年齢差を覆せるほどの実力差があるのかは、正直に言って未知数だ。
共に剣を学ぶ友が必要な頃だとは思っているが、それに見合う逸材を俺はまだ見つけられていない。
ユーサー様には悪いが失敗や負ける経験は、今以上に大きく成長する糧になる。神話の英雄は障害を打ち破りヒーローになるのだ。彼らを下せるのならより高い壁を用意してやる必要がある。挫折も失敗も早いうちに経験しておいた方が良い。
危なくなったら手をだそう……そう思って俺はユーサー様の成り行きを見守っていた。
「おい! コイツの着ている服妙に金がかかっていないか……この糸の解れ一つない洋服。もしかして城主様のご子息なんじゃ……」
――――とガキの一人がユーサー様の服を見てそう言った。目端は聞くようだな……騎士として使い辛い能力が密偵としては優秀そうだ。
「城主の息子が、なんで使用人の暮らす離れの当たりに居るんだよ? 頭を使って考えてみろそんな訳ないだろ?」
「それもそうだな……」
まだお頭のほうはダメか……
「すまなかった。急いでいて前を見ていなかったんだ。どうかこの通り頭を下げるから許してくれ……」
ユーサー様は事を荒立てるつもりはないようだ。温厚な方だ。
コレがユーサー様の従兄弟になるともっと苛烈な対応になるだろう……
「ガキが調子に乗ってんじゃねぇーよ!!」
太ったガキは、子分の持っていた木剣を引き抜いてユーサー様に投げつける。
「騎士や貴族は白い手袋を投げ、決闘の合図にするらしいじゃないか、生憎と手袋やハンカチは持ち合わせ当ていないんでね。剣を拾えテメェのその舐めた態度に、俺様が直々に教え込んでやるよ!」
決闘の際には手袋や籠手を地面に投げあるのだが、ソレを騎士の魂でる剣で代用したようだ。
「お手柔らかに頼みますよ。先輩……ルールは?」
「魔法以外何でもありだ」
「……」
「なんだ怖気付いたのか?」
ユーサー様の態度を見てガキは挑発した。
「いいや。決闘って言うのは、神様にどっちが正しいかを決めてもらう神明裁判の一種なんだ。騎士や貴族は例え農民からの決闘でもそれを断る事は出来ない……自力救済。最後にモノを言うのは暴力と言う訳さ。君達の無謀な決闘をどうすれば大事にしないようにできるか? と心砕いて考えていたが……もうどうでもいい。ノーフォーク公孫ユーサー・フォン・ハワード謹んで貴殿からの決闘をお受けしよう!」
ユーサー様宣言でガキどもは場の主導権を奪われてしまう。
「さぁ、いざ尋常に勝負ッ!」
ユーサー様の掛け声を合図に決闘は開始された。開始と同時にユーサー様は、剣を変則的な上段に構えると駆け出し、距離を詰めると袈裟斬りに振う。
「キヤァエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイッ!!」
パン!
ユーサー様の剣は僅かに及ばず、両者共に後方に飛び仕切り直すようだ。
技術と頭脳の面では間違いなく、ユーサー様が優れている。
しかしあの少年の戦闘時の思考力というか、野生の嗅覚には恐れを覚える。もちろん優れた筋力を持っている事は否定しようのない事実だ。あのタイプは一人で戦場を掻きまわすエースには成れるが、軍を指揮する将には向いていないタイプだ。
「なかなかやるじゃなぇか……大きな声で驚かせやがって……」
ハァハァと肩で息をしながら文句を垂れる。
若い間は贅肉で重量を増し重い一撃を放つ方が勝ちやすい。だが年を取ればとる程それは通じなくなる。騎士として長く活躍しそして昇進していくのは、ユーサー様のような技を持った柔の騎士だ。
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