19 / 65

第16話 転生陰陽師は子種を狙われる

しおりを挟む

「娘はいるし、俺にも参加権はあるな」と土御門さんまでも参加を表明する吞み会を否定などできず、妻たちは送り出すしかなかった。
 当然のように取り残された女性たちよる不満大会が帰りの廊下やエレベーターで始まったのはもはや必然だった。

 愚痴もある程度言い終わった頃、倉橋夫人が話題を変えた。
「そう言えば、吉田さんのところは『許嫁』は決めているのかしら?」

「いえ、まだ決めていません」

「第特別位階の男児が産まれたとあれば、御老人たちは浮足立つことでしょう。特に公家……陰陽道系の適合者アデプタは霊器《れいき》や神器《じんぎ》など、ただ用いるだけで効力の増す道具を武家の下法と毛嫌いしていますし……」

「……」

 母は言い返すことはない。

「直毘人くんとの間に産まれた子は弱くても第三~四位階相当。魔力が低下傾向にある昨今では、まさに種馬として吉田の血が世界に羽ばたくことになります。
まるで世界に羽ばたいた種牡馬のように……」

「……つまりそうなりたくなければ自分たちに組みしろと?」

「旦那たちもそういう話をしていると思うわよ?」

ここで黙っていた和装の勘解由小路《かでのこうじ》夫人も参戦する。

「土御門、倉橋、勘解由小路《かでのこうじ》と陰陽三大宗家の有力者はそろっているじゃない。居ないのは幸徳井かでいと、偽物の賀茂、それと……新興の鳥羽とば家だけよ」

「どうするつもりですか?」

「多分だけど吉田家への要求は土御門、倉橋、勘解由小路《かでのこうじ》の三家から嫁を取り、吉田直毘人を家長にすることかしら? まあ幸徳井かでい鳥羽とば他の家からも介入はあると思うけど……」

「許嫁にしてくれればそこら辺の面倒ごとを三大宗家の皆さまが対応してくださると?」

 勘解由小路《かでのこうじ》夫人は他の三人に目配せをする。

「簡単に言えばそういうことよねぇ?」

「下手に分家や他家からむこを取るよりも男系に拘らず、よりよい血を求めることが当家にとってもメリットのあるお話です。
それに……」

「それに……?」

「何人もの著名な預言者や星読みが予言したのよ。
曰く『運命を背負った童あり。そして大いなる災いを払うであろう。ただし力ある同士と協力せねば成し遂げること叶わず。より大きな災いが日の本を襲うであろう』と……」

「そして土御門、倉橋、勘解由小路《かでのこうじ》の娘は全員が高位の『生成り』同士、利害の一致というやつです」

「……今は折れるしかないようですね」

「悪い様にはしませんよ。差し当たって長期休みには四家合わせて子供を遊ばせ、仲を深めさせようではありませんか?」

「春は花見、夏は海と山で、冬はスキーと、子供も楽しめるレジャーは多いですから、男尊女卑の魔術師の妻として息抜きも必要でしょう」

 これが俺たち三人が初めて出会った日の出来事だ。



………
……




 バーカウンターで四人の男たちがグラス片手に談笑していた。  
グラスが一度空になり雑談がひと段落付いたところで、家格が一番上の土御門が話を切り出した。

「本題に入ろう。土御門、倉橋、勘解由小路この暫定三家は直毘人くんとの婚約関係を結びたい、と言うのが偽らざるわれわれの本音だ」

 それは予想通りの言葉だった。

「でしょうね……ですが、いいんですか? 吉田の術は……陰陽道の祖、吉備真備が廃止した典薬寮の色濃く受け継いだ家系。それも武家の家ですが……」

「千年以上昔の呪殺事件が原因とはいえ、陰陽道にも呪禁道の影響は残っている。血を受け入れることで差別に近しい見られ方も変わり、融和が進むのではないか? という打算があることは否定しない」

 さすがは土御門、その行動には複数の意味があるようだ。

「事実、そこにいる土御門さんの式神は渡辺家の人間だ」

「渡辺? ああ、ホールで隠形していた……」

「土御門や倉橋では、分家や他家の人間を式……従者や秘書にする風習があるんだ」

「ウチにはないけど……」

 遠縁の親族でもある勘解由小路は否定する。

「オホン。それに世界中の占星術師が近い将来に災厄が起こると予言している。無論、日本の星読みも……な。
不要な混乱を避けるため政府や『降魔十三家』は黙秘しているがな……」

 『降魔十三家』とは世界に君臨する適合者アデプタの王家であり、世界の守護者でもある。  
 個人技こそ世界最強である『十五使徒』に劣るものの、一族一門の数や力で権威を維持している。

「それほど大ごと……あるいは何も分っていないと言ったところか……」

「その通り……」

「われわれは『十三家』と『使徒』による勢力図を塗り替える大戦《おおいくさ》になると考えている。」

大戦で『十三家』と『使徒』が被害を受けたところに付け込んでその立場を簒奪しようと言うことだろうか? ……吉田家にとっては主導権を握られていること以外、デメリットはないが……乗るか反るか。

 黙り込んだ俺の思考を遮るように土御門はこう言った。

「勘違いしないでほしい。日本を守る優秀な血を求めているだけだ。吉田家の分家になることも吝かではない。安倍清明より続く家を吉田の名で上書きできる機会だとは思わないか?」

 呪禁道の技を伝え改良してきた吉田家にとって、立場を簒奪した陰陽道の二大宗家は怨敵と言っていい。
 もちろん筋違いであることは百も承知であるが、そうでもして敵を作らなければ千年もの長い間、平静を保てなかったというのは理解している。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...