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第43話 転生陰陽師は凶神と対する

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「どうしてボクが鬼だと思うの?」

「鬼に憑依された人間は霊的にも肉体的にも頑丈になる。最悪のケースを考えれば君は鬼にかれて記憶があいまいになっているか、鬼が意識を奪っていることが考えられる」

「嘘だろ?」
「何とか言ってよ!?」
「たまよ!?」
「なんとか言ってよ!!」

 幸徳井《かでい》珠世《たまよ》の仲間達は、口々に彼女に呼びかける。

 禍津日《マガツヒ》に憑依された人間は、魂魄に悪影響を及ぼし最悪の場合は死に至る。
 科学を持っても脳機能が全て解明されていないように、魂に関わる魔術は未だ未解明な部分が多い。
 どの程度の“格”を持った禍津日《マガツヒ》かは分からないが、“格”が高ければ高いほど悪影響が早く出るのは常識だ。

さて……どうする……

「危ないから離れなさい!」

 湊が幸徳井《かでい》珠世《たまよ》の元へ駆け寄ろうとする仲間を静止する。
 次の瞬間少女の姿を見失った。
 ほぼ全員が少女の姿を見失い周囲をキョロキョロと見回した。

 刹那。

 キーンと短い甲高い金属音が鳴り響くと、刹那の時間無音がその場を支配した。
 俺が抜き放った刀は、黒く変色した少女の細腕と鍔迫り合い状態になっている。
 魔力を脚に流し、体重の乗った前蹴りフロントキックを腹に当てるつもりで放つが、既に禍津日《マガツヒ》は距離を開けている。

「――――!!」

 額には大きな一対の角が生えており、四肢は黒く変色し、更にはとげや外骨格のようなモノが表面を覆っている。

「姿を現したか鬼め!!」

 『鬼』と分類される禍津日《マガツヒ》は、伝統的に肌の色で陰陽五行と五蓋《ごかい》に当てはまると言われている。

青鬼は木気+瞋恚《しんに》蓋(怒り・憎しみ・敵意)
赤鬼は火気+貪欲蓋
黄鬼は土気+掉挙《じょうこ》蓋(後悔)
緑鬼は金気+惛沈《こんじん》・睡眠蓋(怠惰)
黒鬼は水気+疑蓋

 恐らく黒鬼つまり水気を帯びた鬼だと思われる。
 俺は一枚の呪符を投げた。

「土行符よ。炎を導き、灰塵《かいじん》に帰《き》せ! 黒き水魔を堰《せき》き止めろ! 五行変転へんてん円環《えんかん》相生《そうじょう》相克。火生土かしょうど、土剋水《どこくすい》急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!!」

火気がないのに「火気から土気を生じさせ、水気を土気で打ち破る」と術に対して条件付けたのは、慌ててミスをしたという訳ではない。

 簡易的な【神契《しんけい》】を結ぶことで魔術の効果を底上げしている。
 火気がない状態で土気を生じさせるのは、プログラムとして破綻する。
 しかし破綻に近い条件を設定しプログラムの条件を満たすことで大幅に効果が跳ね上がる。

 そしてそれは自分ではなく他人にやらせることで、条件達成の難易度は大きく跳ね上がりると同時に効果も跳ね上がるのだ。

 三人は呪符を放つ。

「「「木行符もくぎょうふよ。水流の如く迫り木梢《もくしょう》を伸ばし絡め捉えよ! 水生木《すいしょうもく》急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」」」

 地面が揺れ木の根のようなツタが出現すると鬼の手足を絡めとる。

「――――な!?」

 鬼は驚きの表情を浮かべるも即座に脱出を試みた。

「蔦が絡みついて抜け出せないッくっ! 高貴なわらわを拘束するとは何たる不敬! 不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬不敬」

 女鬼は地団太を踏みながら、呪詛の籠った言葉を吐いた。

 絡みついたツタに炎が引火し、炎はやがて業火へと昇華する。
 火達磨になった鬼に向け次の術が放たれ、三人の少女達は五行を相生させ威力を高めていく……

「御身がいかなる鬼神かは存じませんが、火気より土気が生じその土気が水気を剋することは、自然の摂理なれば御身と言えど、その定めに逆らう事叶わないでしょう……」

 火が消えかけたところで、地面から岩石でできた杭のような岩が飛び出して鬼を攻撃する。
 黒色に変化した拳で岩を殴っているものの、不利属性である水気を帯びた鬼では強化された札術を打ち破ることはできないようだ。

「土気は比和《ひわ》する急急如律令!」

 重ねて発動した魔術によって地面が割れると黒々とした石柱が隆起りゅうきし鬼へと襲い掛かる。
 黒い石の正体は、古くは烏石や漆石と呼ばれた黒曜石だ。
 鋭く脆い性質を持つため、古くから鏃や槍の穂先変わったモノだと剣の刃として用いられてきた歴史を持つ。

 黒曜石の刃が鬼を切り裂いた。

「ぐぁぁあああ!! ただ人が許さぬぞ! わらわを誰と心得るわらわこそ! 薬宝賢明王やくほうけんめいおうの御子たる『戸部《とべ》天王』であるぞ、この無礼者ぉがぁぁあああああああああああああああ」

 悲鳴を上げ鬼は藻掻くも続いて発動された土石流の術によってこの場から退かされる。

 薬宝賢明王や戸部天王と言う言葉の一部にには聞き覚えがある。
 間違いない神それも凶神の類だ。
 しかし今そのことを考えている暇はない。
 一度退却して態勢を整えるべきだ。

「ここは一度撤退して態勢を立て直しましょう」

「そうですね。それは?」

「この村にある神社で祭られていたご神体と思われる銅鏡・・です」

 煤け色の落ちた紫色の布に包まれていたのは、直径20㎝ほどの円形の鏡だった。裏側の中心部にはつまみがあり、その周囲には様々な画像や文様が鋳造されている。
 かく言う俺もホンモノを見たのは、両手の指で足りるほどしかない貴重品だ。

「光明が見えました何とかなるかもしれません」

 運転手の男は唇を強く噛み締めるとこういった。

「ご武運を……」

「負けるつもりはありません、俺は最強を目指しているので……」

「それは頼もしいです」

 恐らく神本人ではなく分霊《わけみたま》のようなものだとは思うが、神と対峙するのは久しぶりだ。
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