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第45話 転生陰陽師は神に喧嘩を売る

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「何をしているの?」

 湊は呟いた。
 しかしそれは言葉通りの意味ではなかった。
 「なぜそんなことをしているのか分からない」と言った方が正しい。
 湊を含めたこの場にいる全員が、呪符と剣から出た靄を『呪詛』だと認識しているからに他らない。

 人間は、大まかに魂と肉体に別けられ程度の差はあれど相互に干渉するとされている。
 しかし。これは千年前から良く知られたことだ。
 だからこそ呪殺を警戒し時の権力者は、それらの術を得意とした呪禁道を廃止したのだ。

「『護國護法景童子ごこくごほうかげどうじの術』は、特殊な式神を召喚する術を呪詛として体に受け入れることで定着させる術です」

「そんなの下法じゃない……」

 肉体に呪詞(呪文や聖句)を刻むというのは古今東西で見られる霊的防御力を向上させるやり方だで、日本では『耳なし芳一』などが代表的な例だ。
 しかし魂に呪いを刻むことは生涯、否。永遠のデメリット足りえる行為だ。
 魂の傷はほぼ治らず変化はほぼ定着する。
 この特性を悪用したのが呪詛を受けることで術を定着させる『魂刻法《こんこくほう》』と呼ばれる下法だ。

「下法でもなんでもこの国を守るためには必要なことです。やっていることは怨霊系の式神や殺生石を用いたアレと変わらないですよ……」

「「……」」

 避難の言葉を口にした湊と伊吹に対して瀬織は、歴代の陰陽師が行ってきた非道の例を上げ諫めた。
 
 俺は呟くと印を結ぶ。

護法景童子召喚ごほうかげどうじしょうかん! 香犬・阿吽」

 俺の影から煙霧質エアロゾル状の可視化された瘴気が噴出し収束すると鬼神の形を形成していく…… 人間の腰ほどの背丈の大型の狼が影から現れる。
 古来より異界に繋がっているとされる場所は数多くある。その一つに影だ。

「アォーーン!!」

 黒い狼が咆哮ほうこうを上げ鬼の邪気――鬼気を払った。

「千年前《むかし》のままだなお前は……」

 鬼は纏う鬼気を吹き飛ばされ何が起こったのか分からずたじろいでいる。

「香犬あの鬼を調伏する……殺すな・・・よ?」

 主である俺からの指示に対して、黒い狼がくしゅりと鼻息を鳴らす。
 その姿は「楽勝だ」と言っているようにも聞こえる。
 そんな嘲りを含んだ鼻息だった。

「やれ」

 短い言葉で支持を飛ばす。

刹那。

 黒い犬は一瞬で消え鬼に襲い掛かった。
 ボクサーのように脇を絞め、両腕を胸の前で上に上げて顔面・頭部の攻撃に備えるような姿勢で、黒い狼の引っ搔き攻撃を防御する。
 香犬は、がら空きの腹に後ろ脚による蹴りを食らわせると宙返りをして距離を取る。

「もしかして、四肢に纏っている黒い外骨格以外は生成できないのか?」

 もしその過程が真実であるのならば憑依は浅く彼女を禍津日《マガツヒ》から解放できるかもしれない。

 胸元から特製の呪符を取り出す。
 禁術の封印を解いた呪符と異なりドス黒い何かで描かれている。それは丹や樹脂由来のにかわではなく、自らの血をベースに特殊な配合を施した特別仕様だ。

「ノウマクシッチシッチソシッチシッチキャララヤクエンサンマンマシッリアジャマシッチソワカ 禁呪符術きんじゅふじゅつ呪焔じゅえんまとい黑刀《こくとう》」

 墨汁で描いたような濃淡だけで描かれたような、呪いの焔が妖刀・呉藍朱雀くれあいすざくにまるで蛇のように纏わり付いた。
 さながらその姿は不動明王が持つ智慧利剣。倶利伽羅のようであった。

「この呪焔は、特別な方法以外では消して消える事はない炎さえ焼き尽くすとされる……さて鬼よこの呪いに耐えられるかな?」

「ぬ! 不動明王の剣か!? 龍蛇の癖に彼奴らに味方する裏切り者がぁぁぁぁああああああ!」

 俺の想像通り戸部天王は龍蛇に関係する神格で間違いないようだ。

「香犬よ合わせろ。お前が作った隙で俺が奴を仕留める。お前は一度失敗したんだそれくらい受け入れろ!」

 香犬渋々と言った様子でフンと鼻を鳴らすと、地面を蹴って飛び出した。
 俺もそれに続いて剣を八相の構えから顔の耳の横に構え右手は『く』の字になるように左手は胸の前にくるような姿勢……いわゆる示現流じげんりゅう薬丸自顕流やくまるじげんりゅうでいう蜻蛉トンボに類する構えで走りながら鬼に駆け寄る。

 香犬は「ウォーーン」と再び雄叫びを上げ鬼を威圧すると攻撃を始める。
 飛び掛かる香犬の攻撃を「受けきれる」と判断したためか、先ほどとは異なり手の甲側を使って捌いた。

 鬼神戸部天王の防御を破るだけなら今の俺でもできる。
 しかしそれは少女の死を意味する。
 無用な殺生はしたくない。
「俺の天呪【皓刃銀シラハガネ】は、触れたモノの刃物で切断する。その本質は応用にある」

「神仏より授かった天呪の開示とは本気だの……しかし天呪の本質を貴様は何も判ってはおらぬの。天それすなわち、わらわら神仏が人間に与えた祝福ぞ? その祝福でわらわを傷つけられると思うたか?」

 鬼神の目は本気だった。

「神仏さえもその役割に抗うことはできません。龍蛇の魔物を英雄が討伐するように……神話に記された通り人間と同じく神仏さは永久不滅の存在ではないのですから……」

「これは然り、だが貴様は神でも半神でもましてや英雄でもない。武人である貴様は神代の武具でもあるのかえ?」

 鬼神の目は笑っていた。
 彼女は俺が何も有効だを持っていないと判断したのだろう。
 
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