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第50話 転生陰陽師は黒と白二つの天呪

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 九字の歴史は古く、二世紀頃の中国に遡る。
 東西晋の道家の葛洪《かつこう》が記した書『抱朴子《ほうぼくし》』内篇17巻「登渉篇《ほうぼくし》」の中で『六甲秘祝《ろっこうひしゅ》』と言う名で入山時に唱えるべき呪法として紹介され、日本では仏教や陰陽道など大陸由来の魔術体系の中で良く用いられた。 

 先ずは、格子紋様ドーマンが少女の中にいる蛇神・戸部天王を攻撃しその隙に真言を詠唱する。

「――――!!」

「オン・キリキリ、オンキリキリ――――」

 真言を唱えながら、流れるような動きで剣印、刀印と呼ばれる印を結ぶ。
 真言には小咒、中咒、大咒のように同じ神仏を礼賛するものでも真言の内容や長さが異なるものがある。
 分かり易く砕いていえば、メ〇、メ〇ミ、メ〇ゾーマのようなもので威力や使い勝手が変化すると理解してもらえればそこまで間違いはない。

「――――ノウマクサンマンダ・バサラダンセンダ・マカラシャダソワタヤ・ウンタラタカンマン、ノウマクサラバタタ・ギャテイヤクサラバ・ボケイビャクサラバ・タタラセンダ・マカロシャケンギャキサラバ・ビキナンウンタラタ・カンマン――オンギャクギャクウン」

 不動明王中咒ちゅうしゅ、不動明王大咒だいしゅを唱え転法輪印てんぽうりんいん五鈷印ごこいんと印を組み換え秘仏・大聖歓喜天だいしょうかんぎてんの調伏真言を唱えながら諸天救勅印しょてんきゅちょくいんを結び、最後に外縛印げばくいんと呼ばれる指を絡め組んだような印を結びながら、最後に不動明王中咒を唱える。

「――――ノウマクサンマンダ・バサラダンセン・ダマカラシャダソワタヤ・ウンタラタカンマン! 不動金縛りの術!!」

 約三十数秒近い詠唱を持って調伏術・不動金縛りは発動する。
 神社の注連縄しめなわのような半透明の縄――羂索が地面から出現し少女の体を緊縛する。

「―――!?」

 これは本来は羂索けんじゃくと呼ばれる鳥獣を捉えるための縄であり、仏教においては独鈷所どっこしょという祭具が一端に取り付けられたもので、悪魔を調伏するのに用いられるとされる。

 近代式符術でも取り入れられた『不動金縛りの術』であるが、近代式符術ではここまで大規模な詠唱は本来しない。
 だが俺の霊力の残量と拘束力を加味すれば、古式に分類されるこの『古式・不動金縛りの術』別名『霊縛法れいばくほう』しか選択肢がなかったのである。
 
「ふう、何とか拘束できたな……これより戸部天王を調伏し君を 生存できるように頑張るよ」

 柏手をパン! と打ち周囲の瘴気を散らすと祝詞のりとを上げる。

「原初の混沌は二つに分かれ澄んだ明白な気、すなわち陽気昇りて天と成り、濁りし暗黒の気、即ち陰気下りて地なる。是即これすなわち陰陽、万物形成す根源なりや
 これなる陰陽師、吉田直毘人。つつしんで道教の主神・高上玉皇上帝こうじょうぎょくこうじょうていの孫にして陰陽道の主神・泰山府君たいざんふくん冥道の主祭神に申し上げたてまつる――神の威光・神威を持って天津神、国津神諸々の血を引きし人たる我を太陽、鬼神たるなんじ戸部天王またの名を八岐大蛇、蛇毒気神《ダドクケノカミ》を月輪がちりんとし服従・使役の盟約の大法を結ばんと願い奉《たてまつ》る。陽光たる我を受け入れ我に従い我が式神と成り給へ急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 陰陽道の基本である。陰陽五行説では、男性は陽の気、女性は陰の気を持つとされ、五行も『木』や『火』を陽、『金』や『水』を陰、『土』を半陰半陽としている。のだが、今回の鬼神が如何なる気を帯びた鬼であったとしても、人間である俺を太陽(陽の気)、鬼神である鬼を月(陰の気)として主従の契約を結ばせる呪術がこの「式神契約の術」である。

「陰陽師よ。わらわの完敗である。しかしわらわの同胞たる邪神共の連合は世界各地で虎視眈々とこの世を変えるために暗躍しておる。努々忘れるなよ? 汝らは薄氷の如く脆い安寧を教授しているだけだと恐れ敬い平伏せよ! 我ら原初の恐怖成り!!」

 女神はこの世を呪う言葉を紡ぐと封印された。
 俺の祝詞のりとを聞き届けると少女は、プツリとまるで糸が切れた操り人形のように意識を失った。

 『邪神連合』そして『原初の恐怖』か……恐らく推定・閻魔大王の予言に関係することだと思われる。
 できる限りのことはしてきたけれど間に合わなかったか……

「女の子をなんとか助けられたはいいものの人間と式神契約をするなんて複雑な気分だ……」

 人間を式神――仕事での部下とするのは珍しいことじゃない。
 旧家であればよく見られることだ。

「学生だからである程度お目こぼしされてた仕事も、零落したとはいえ神クラスを相手にできるなら仕事に専念しろって言われかねない……実に面倒だそれに……」

 天呪を作り替えたことでそれ以前はできなかったことが今だとできると理解できた。
 俺は両手に魔力を込める。
 すると右手には白い魔力がそして左手には、が宿っていた。
 試しに左手でその辺に生えていた木を殴りつけると――メキメキという音を立てて倒れた。
 幹にはくっきりと拳の跡が残っていた。
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