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第52話 鬼神に依られた少女は目を覚ます
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SIDE:幸徳井珠世
漂白剤とアルコールが入り混じった独特な匂いが鼻腔を擽る。
私はその匂いを知っている。
病院や保健室と言った場所の匂いだ。
昔から浮遊霊や低級の禍津日《マガツヒ》に憑りつかれることが多かったわたしは、良く体調を崩して入退院を繰り返していた。
掛けられた布団を剥がしモゾモゾと起き上がる。
私が動いた事を察知してか、ベッドの脇に置いてある椅子に座った少年はスマホに落としていた視線を向けた。
「おはようよく眠れたかい?」
そう言ってにこやかに微笑んだのは同じクラスのクラスメイトで、戦闘授業の教師でもある吉田直毘人くんだった。
「ここは?」
周囲を見渡すと採光や換気のための窓はなく、精神病院や死体安置所、手術室のような窓のない部屋であり、壁にはにはびっしりと呪符が張られている。その雰囲気は異様の一言に尽きる。
「ここは東京都にある国立病院の地下にある……特別病室だ」
「特別病室?」
聞いた言葉を、まるで乳幼児のように聞き返した。
「そう、特別病室。君は鬼神の強力な鬼気に充てられて、生成りとなった。そんなあなたを保護・封印するための特別病室だ」
少年は事務的に言うと手荷物タイプのスクールバッグに、手を突っ込む。
コーヒーの缶を取り出すと、カシュリと音を立ててプルタブを開け喉をゴクゴクと鳴らしてコーヒーを飲んだ。
「生成りとは、古くは日本で言えば狐憑き、西洋で言えば悪魔付きなんて呼ばれていた。妖怪の能力や特徴を持った人間のことだ。なんて今更説明する必要はないよね?」
「だから封印なんですか?」
「封印は君の中にある鬼神を封じるものだ。この業界では生成りなんて珍しいものではないなんて釈迦に説法だよね?」
陰陽道の祖の一人、安倍晴明の母は霊狐と伝わっている。
それに遠縁の親族の中には霊狐や霊鳥に化身する人もいる。
直毘人の婚約者である三人が生成りと呼ばれる性質を持つ人間だから……
「良かった……」
と安堵の息が漏れる。が、瞬間。「だったらなんで私は、特別病室に入れられてるのだろう」と思考が巡った。
祖先由来の生成りであれば、狐などの獣や鳥、竜(蛇)などが一般的だ。
それ以外の場合でも鬼などの禍津日《マガツヒ》が憑く程度だ。
私の脳内に疑問が過る。「私は一体何に憑かれたのだろう?」
「まぁ通常の生成り程度であれば、封印と呪術的修練、精神的な鍛練を積んだ上で定期的に検査を受ければ、普通に生きていく事は十分に可能だ」
「――――まぁ人工透析みたいなモノだよね」と付け加える。
「だったらどうして……」
「まぁこの程度で済めば御の字だったんだけどね……」
「へ?」
「『審神者』や『媛巫女《ひめみこ》』は知ってるだろう?」
「それは知っています。ですから幼少期からその能力を制御できるように鍛えてきました! 『媛巫女《ひめみこ》』ってアレですよね? 非戦闘員でありながら『童子《どうじ》』に分類されない……」
「名家の産まれなんだからもう少し勉強した方が良いぞ?
審神者とは神託を受け、その解釈を信者に伝える役割を持つ人間のことで、現代では男性に用いられる言葉だが本来は男女共に使われる言葉だ。
取り分け強力な『神霊を降ろし依り憑かせる』霊媒体質である君は、記紀……日本書紀や古事記で語られる。玉依姫や玉櫛媛と同じ能力を持った巫覡……陰陽師協会でいう媛巫女の才能を持っている。
能力の弱い媛巫女は『童子《どうじ》』としてオペレーターとなっているから混乱するのも判らないではないが……」
「……」
漂白剤とアルコールが入り混じった独特な匂いが鼻腔を擽る。
私はその匂いを知っている。
病院や保健室と言った場所の匂いだ。
昔から浮遊霊や低級の禍津日《マガツヒ》に憑りつかれることが多かったわたしは、良く体調を崩して入退院を繰り返していた。
掛けられた布団を剥がしモゾモゾと起き上がる。
私が動いた事を察知してか、ベッドの脇に置いてある椅子に座った少年はスマホに落としていた視線を向けた。
「おはようよく眠れたかい?」
そう言ってにこやかに微笑んだのは同じクラスのクラスメイトで、戦闘授業の教師でもある吉田直毘人くんだった。
「ここは?」
周囲を見渡すと採光や換気のための窓はなく、精神病院や死体安置所、手術室のような窓のない部屋であり、壁にはにはびっしりと呪符が張られている。その雰囲気は異様の一言に尽きる。
「ここは東京都にある国立病院の地下にある……特別病室だ」
「特別病室?」
聞いた言葉を、まるで乳幼児のように聞き返した。
「そう、特別病室。君は鬼神の強力な鬼気に充てられて、生成りとなった。そんなあなたを保護・封印するための特別病室だ」
少年は事務的に言うと手荷物タイプのスクールバッグに、手を突っ込む。
コーヒーの缶を取り出すと、カシュリと音を立ててプルタブを開け喉をゴクゴクと鳴らしてコーヒーを飲んだ。
「生成りとは、古くは日本で言えば狐憑き、西洋で言えば悪魔付きなんて呼ばれていた。妖怪の能力や特徴を持った人間のことだ。なんて今更説明する必要はないよね?」
「だから封印なんですか?」
「封印は君の中にある鬼神を封じるものだ。この業界では生成りなんて珍しいものではないなんて釈迦に説法だよね?」
陰陽道の祖の一人、安倍晴明の母は霊狐と伝わっている。
それに遠縁の親族の中には霊狐や霊鳥に化身する人もいる。
直毘人の婚約者である三人が生成りと呼ばれる性質を持つ人間だから……
「良かった……」
と安堵の息が漏れる。が、瞬間。「だったらなんで私は、特別病室に入れられてるのだろう」と思考が巡った。
祖先由来の生成りであれば、狐などの獣や鳥、竜(蛇)などが一般的だ。
それ以外の場合でも鬼などの禍津日《マガツヒ》が憑く程度だ。
私の脳内に疑問が過る。「私は一体何に憑かれたのだろう?」
「まぁ通常の生成り程度であれば、封印と呪術的修練、精神的な鍛練を積んだ上で定期的に検査を受ければ、普通に生きていく事は十分に可能だ」
「――――まぁ人工透析みたいなモノだよね」と付け加える。
「だったらどうして……」
「まぁこの程度で済めば御の字だったんだけどね……」
「へ?」
「『審神者』や『媛巫女《ひめみこ》』は知ってるだろう?」
「それは知っています。ですから幼少期からその能力を制御できるように鍛えてきました! 『媛巫女《ひめみこ》』ってアレですよね? 非戦闘員でありながら『童子《どうじ》』に分類されない……」
「名家の産まれなんだからもう少し勉強した方が良いぞ?
審神者とは神託を受け、その解釈を信者に伝える役割を持つ人間のことで、現代では男性に用いられる言葉だが本来は男女共に使われる言葉だ。
取り分け強力な『神霊を降ろし依り憑かせる』霊媒体質である君は、記紀……日本書紀や古事記で語られる。玉依姫や玉櫛媛と同じ能力を持った巫覡……陰陽師協会でいう媛巫女の才能を持っている。
能力の弱い媛巫女は『童子《どうじ》』としてオペレーターとなっているから混乱するのも判らないではないが……」
「……」
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