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第三章

第96話 初心を思い返す

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 婚約破棄の出戻りで魔術に優れる姉のオットー。
 公爵の座を狙っているが全て平均的でオマケに酒と女に溺れている愚兄のブウ。
 特に語ることすらない兄のシーカリ。
 貴族主義者で次期当主候補を熱望する愚姉《ぐし》のミナ。
 武芸や魔術、貴族としての能力が劣る双子のヒトとムシ。
 剣と魔術に優れ【小雷公】と呼ばれる愚弟ムノー。


 オニ兄上は責任者として無用なリスクを冒さないことを考えれば候補者は彼らぐらいだ。
 しかし、上の兄二人と愚姉と言う政敵を育てる理由がないので却下すれば必然的に残ったメンバーから総大将を選ぶことになるのだが……。

 オニ兄上は総大将を自分の抱える騎士にし、非嫡出子であるものの聖人である俺を据えることで自分の派閥強化を選んだと言う訳だ。
 この会話も神殿と公爵家(オニ兄上)との政治的駆け引きに他ならない。
 全く面倒なものだ。

「しかし実態は異なる。それに俺は家を継ぐ気も神の下僕となるつもりもない。古今東西の税を尽くした食事を食み、王侯貴族平民奴隷問わず美女を抱くそんな酒池肉林の限りを尽くし時には、四肢を生やすだけで良いのなら話は別だがな」

「……それは……」

 ツナーグ女神官は言葉を詰まらせる。
 出来るか出来ないかで言えば「出来る」しかし、そんな破戒を望む人間を、最高位の聖職者である『聖者』として迎えることに一神官として反対したのだ。
 本来、神殿に使える神官は神に奉仕する下僕・先兵だ。
 しかし世俗権力に触れる内に腐敗する。これは世界を問わない世の常なのだ。

「無理なことを言っている自覚はある。だから俺は世俗に生きると言っているのだ」

「……判りました。上には巧く伝えておきましょう」

 どうやら俺の意図を汲み取ってくれたようだ。
 女神官は背を向ける。
 チャイナドレスのようにハッキリと体のラインが出る。神官服から浮き出た大きな尻眺めていると……女神官は振り向き近づいてくると顔を近づけてこう言った。

「さっきのお話は方便ですよね?」

「……」

 これ以上ボロを出さないためにも押し黙ることにした。

「確かに女性の身体は好きなんでしょう。私の身体をご覧になんているようですし……」

「……」

 俺はクラスメイトに言われた言葉を思い出した。
「男のチラ見は女のガン見だからね! 全部判ってるんだから!」

「酒池肉林を本気で臨む度胸がある悪人ヒトなら、既に私に手を出しているハズです。この制服ってお尻目立ちますから……」

 そう言って白い肌を赤く染める。

「私は神の使徒として生きていることに後悔はありません。しかし神官の中には自分の生き方を後悔する者も多く居ます」

 彼女の言葉は身に染みる。
 前世の俺達は望まないカタチでこの世界に連れてこられ、強制的に神々の使徒として時間を使った。
 神官になった者の中にも家庭の事情や思っていたのと違ったなんて理由で後悔している人間もいるのだろう。

「私は親に決められ二〇年神に仕えてきました。親を恨んで悩んだ日々がないとは言いません。しかしやはり後悔はないのです私はこの生き方しか知りません。だから私はあなたにも幸福に生きて欲しい……ただそれだけです」

 そう言って彼女は背を向けてこの場を後にした。
 それは俺と彼女は二度と交わらないことを意味しているようだった。
『幸福に生きよ』か……俺も幸福に、後悔のない人生を生きるために転生したんだ。
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