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第三章

第93話 初陣の心構え

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 俺はナオスが苦手だ。
 整った容姿に術師としても剣士としても、薬師とも優秀なその技能には嫉妬を通り越した感情さえ覚えるほどだ。
 ……と言うか誰だってそうなると思う。

 世間的には愚弟達でさえも、独立した家を建てられるぐらいには優秀と言われている。
 彼ら彼女らがそう言う評価をされるのならナオスは、国すら興せるレベルの大英雄だ。

 大英雄でも初陣の勝率は低い。
 俺に出来ることはこの特別優秀な弟と良好な関係を築くこと、大成することを助け早く愚かな家から遠くに行ってもらうことぐらいだ。

「ナオスお前には損な役割を押し付けた。せめてもの罪滅ぼしだ初陣の心構えを教えよう」

「……心構えですか?」

 『聖人』と言う立場は兵を安心させる。
 ナオスは自分以外に指揮官がいるのだから、心構えなど必要ないと考えたのだろうが『聖人』と言う御旗だからこそ必要なのだ。

「戦場では何が起こるか判らん。開戦前の情報に齟齬が生じ、それを鵜呑みにして戦いを始めれば、負けるなんてことは良くあることだ。安全圏にいると思い気を抜けば、突如として敵の精鋭が襲い掛かってきて全滅なんて日常茶飯事だ」

 目を瞑り絞り出すように、努めて平坦な声音で言葉を紡ぐ。

「昨晩同じ釜のスープを食べ盃と言葉を交わした人間が死ぬことが平時となるのが戦場だ。心せよ」

「……」

 当然、魔王との戦いの中で身を持って情報の重要性を身に染みて知っている勇者ナオスには、釈迦に説法なのだが……ナオスが勇者であることを知らないオニを責めることが出来ようか? 否、出来ない。

「ご忠告ありがとうございます兄上。しかし、平民や奴隷、秩序を守る兵士や冒険者にとってそれは日常であります。
『平和とは戦争と戦争の間の準備期間である』と言う言葉が示す通り、平和を享受する者はいつか来るその時を覚悟せねばなりません。
『なんじ平和を欲さば、戦への備えをせよ』と言う奴です」

 ナオスの言葉には説得力があった。
 しかしその言葉の全ては当時の国と神殿、賢者の学院が記した『勇魔戦記』『使徒語録』『勇者の思想と英知についての考察』の何れかに記されていたと記憶している。

 三冊の本は三聖典と呼ばれ盛んに研究されている。
 離れにも模写があったのだろうか? 否、ドンペリ家の息女が仕込んだのだろう。

「知っていることと実感していることは別だ。教えることは出来ても体験せねば判らないことは存外多い俺もそうだった」
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