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第19話ぼっちは善意で晒される

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 昨日、入学祝いで食べた焼肉(食べ放題)の御かげで寝覚め悪い朝を迎えた俺。安めな脂で顔はテカり、胃もムカムカする。

「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは」心の中の三倍速の赤い人語録に共感しつつ、階段を下る。

 朝食のため、リビングからキッチンを目指すと、無駄に広いリビングのソファーに腰かけた菜月なつきさんが視界に入った。
菜月なつきさんはスマホの画面を忙しなく叩いている。

ゲームでもしているのだろうか?

 そんなことを考えていると、ふと視線を上げた菜月なつきさんと目と目が合う。

「あっおはよう。今日は遅かったんだね」

「おはよう菜月なつきさん。胃が重くて……ゲームでもしてるの?」

「LIMEよ。学年LIME」

 はて?、今時の学生はクラスLIMEどころか学年LIMEが存在するのか……

 何となく “違う” と分かっていても、思わず確認せざる負えない性分が邪魔をしてしまう。

「中学の?」

 高校のグループであってほしくないという。
 蜘蛛の糸のような、か細い僅かな希望を打ち砕いて欲しくないという儚い願いは、次の瞬間には見事に断ち切られる。

「ううん。違うわ “高校” のLIMEグループね。入試の結果が出た段階で有志の生徒が、TwitterやInstagram、FacebookなんかのSNSを通じて呼びかけながら作ったみたいで、私もSNSを通じて招待されたのよ」

「へ、へぇ~。そ、そうなんだ……」

 一応、SNSをやってはいるものの合格発表とかそういうツイートはしていないので、そういう繋がりに引っかからなかったのだろうと思う事にした。
 他にそう言う奴が居たとしても、大体は同じ中学の奴に教えてもらって入るんだろうなと考える。

「もしかして、容保かたもりくんは知らなかった?」

「う、うん。実はそうなんだ。ウチの中学からは俺以外合格者いないし、SNSもあんまり積極的にやっている訳じゃないから……」

「じゃぁ私が招待しておくね。学年LIMEとクラスLIME……招待しておいたよ」

 と満面の笑みで敵陣に目印付きで俺を放り込む。

「あ、ありがとう……」

 一瞬。菜月なつきさんに招待されることで、無用な注目を集めるので出来れば遠慮してほしい。と思ってしまったものの、かといってこの笑顔を曇らせる訳にはいかないので、引き攣る顔を根性で押さえつけ、出来る限りの笑顔を浮かべる。

「入ってないならもっと早く言ってくれればよかったのに……」

それはこっちのセリフだ!

 と言いたくなる感情を抑え、今日の朝食は軽めにヨーグルトとグラノーラで済ませることにした。

「知らなかったんだから言いようがないよ」

 どうせならLIMEではなくDiscordにして、様々な用途のチャンネルを作った方が、ゴチャゴチャせずに盛り上がると思うんだけどなぁ……
 中学のクラスLIMEには参加はしているものの、基本的に通知をOFにして稀に既読を付けるだけにしている。
 たいして仲がいい訳でもないのに、家でもクラスメイトに気を遣うなんて無駄なことをしたくないからだ。

「それもそうだね」

 取り合えず招待を受け、両方のLIMEグループに同じ文章をコピペして張り付ける。


<  早苗高校新一年生学年グループ(200)  Q  3  三

             今日
             10:11
 菜月が容保をグループに招待しました。招待中の友達が参加するまでしばらくおまちください。
             10:13
    容保がグループに参加しました。

     既読13  xx中学出身の高須容保(たかすかたもり)
     10:14  です。趣味は料理と読書です。これからよ
          ろしくお願いします。
      

 皆ヒマなのかものの数秒で通知音が鳴り、「よろしく」とか「よろ」とか言った返事が返ってくる。
 一先ず面倒ごとにはなっていないようだ。
 だがこの誰が招待したのか一目で分かるこのシステムは、ボッチには辛いモノがある。

「学校の皆が好意的でよかったね」

 菜月なつきさんは、年の離れた弟を見守るような目で俺を見る。

 両方のグループの過去ログを遡りながら、匙でシリアルを掬い口に運ぶ。

「このグループは普段どんなことを話してるの?」

「雑談がメインかなぁ~」

 やっぱり人数が多いとコアな話題にはつながっていないようだ。
 兄姉がいて過去問が流れて来ていれば儲けものと思っていたが……そんなに上手くはいかないようだ。
 勉強があまり得意な方ではないので、過去問で下駄を履きたかったのだ。

「部活動紹介の時に過去問ってありますか? って聞いてみるか……」

 運動部の連中にそこまでの脳があるとは思えないが、赤点で試合に出れません。とならないように過去何年もの過去問を保管している部活があるかもしれない。と考える。

 どうやら俺の独り言が聞こえていたようだ。

「なんで早苗の過去問が欲しいの?」

菜月なつきさんと違って一年半の間、物狂いで努力してギリギリ受かったようなものだからさ、過去問とかあれば楽かなって思ってさ……」
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