歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第5話:不運でないことをかみしめること

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 翌朝。 俺たちが目を覚ましたとき、天井は落ちてこなかったし、床が抜けることもなかった。リは起きた瞬間、自分の体をまさぐるように確認し、五体満足であることを知って、また少し泣いた。

「……生きてる」

「当たり前だ。さっさと顔を洗え。飯にするぞ」

 俺は感傷に浸る暇を与えず、彼女を食堂へと連れ出した。 腹が減っては戦ができん。特にリリの体は限界に近い。まずは栄養を叩き込むのが最優先事項だ。

 宿の一階にある食堂は、朝から労働者や駆け出しの冒険者たちで賑わっていた。 俺たちは隅のテーブル席を確保し、一番安い「朝定食」を二つ注文した。

「ほら、来たぞ」

 ドン、とテーブルに置かれたのは、湯気を立てる野菜シチューと、固焼きの黒パン。王都の高級店に比べれば家畜のエサのような見た目だが、今の俺たちにはご馳走だ。

「……」

 リリはスプーンを握ったまま、固まっていた。 シチューを見つめる目が、獲物を前にした猛獣のように鋭い――いや、違うな。 あれは「恐怖」している目だ。

「どうした。食わないのか?」

「あ、いえ……その」

 リリは怯えたように周囲を見回し、小声で囁いた。

「……爆発、しませんか?」

「は?」

「シチューが沸騰して顔にかかるとか……中から毒虫が出てくるとか……スプーンが折れて喉に刺さるとか……」

「……」

 どんな食生活を送ってきたんだ、お前は。 俺は呆れを通り越して感心しながら、自分のシチューを一口すすった。

「見ろ。爆発しないし、虫もいない。ただの煮込みすぎた野菜スープだ」 「は、はい……」

 リリはゴクリと喉を鳴らし、決死の覚悟でスプーンを皿に入れた。 そして、恐る恐る口に運ぶ。

 パク。

 彼女の動きが止まった。 口をもぐもぐと動かし、ごくんと飲み込む。

 次の瞬間、彼女の大きな瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。

「……っ、うぅ……!」

「おい、熱かったか?」

「ちが、違います……!」

 リリは首を振り、涙を拭いもせずにシチューをかき込み始めた。

「味が、します……。変な味がしないんです……。砂利が入ってない……お皿が割れない……椅子が壊れない……っ」

 彼女は一口食べるごとに、噛み締めるように確かめていた。 自分が許されていることを。 世界から拒絶されず、ただ食事をすることを受け入れられている事実を。

「あったかい……美味しいです、ジン様……っ」

 その姿は、痛々しくもあり――同時に、守ってやりたいと思わせる何かがあった。 ただの安飯でここまで幸せになれるなら、コストパフォーマンスが良いなんてもんじゃない。

「……ゆっくり食え。誰も取らない」

 俺は自分のパンを半分にちぎり、リリの皿の横に置いてやった。

「え? で、でもこれはジン様の……」

「俺は少食なんだ。残すともったいないから、お前が処理しろ」

 嘘だ。本当は俺だって腹が減っている。 だが、ガリガリに痩せたこいつが、リスのように頬を膨らませて食べているのを見ていると、不思議と空腹感が紛れる気がした。

(……チッ、甘やかすつもりはないんだがな)

 俺は心の中で毒づきながら、彼女が喉を詰まらせないように、自分の分の水も差し出した。 これは投資だ。 彼女という最強の兵器を万全の状態にするための、必要経費に過ぎない。

「んぐっ……ふぅ……!」

 数分後。 リリの皿も、俺が押し付けたパンも、すべて綺麗になくなっていた。 彼女は満足げに腹をさすり、ほう、と幸せそうな息を吐いた。 その顔には、昨日までの悲壮感はない。 年相応の少女らしい、あどけない笑顔が浮かんでいた。

「ジン様! 私、こんなに美味しいご飯を食べたの、生まれて初めてです!」

「そうかよ。……口元、ついてるぞ」

 俺は指で彼女の口元についたソースを拭ってやった。 リリは「あ」と赤くなり、それから嬉しそうに目を細めた。 まるで、主人に撫でられた忠犬のように。

「さて、エネルギー補給も完了したことだし、行くか」

「はい! どこへでもお供します、ご主人様!」

「ご主人様はやめろ。……行くぞ、まずは金稼ぎだ」

 俺は席を立った。 手持ちの金は昨日の宿代と飯代で底をつきかけている。 これから生きていくには、そしてこの「幸運な生活」を維持するには、先立つものが必要だ。

 幸い、俺には「不運」という名の最強の弾丸が装填されている。 そして隣には、世界最強の回避能力を持つ護衛がいる。

「リリ。俺の背中は任せるぞ」

「はいっ! 指一本触れさせません!」

 リリが頼もしく胸を張る。 俺たちは宿を出て、朝の光が降り注ぐ王都のメインストリートへと足を踏み出した。 この先に待ち受けるのが、魔物か、盗賊か、あるいは更なる理不尽か。 何が来ようと関係ない。

 俺たちの「運命」は、もう俺たちの手の中にあるのだから。
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