歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第9話:ただ運が悪いだけの日

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「――はぁっ!」

 勇者アルスの黄金の聖剣が閃く。 狙うは目の前にいるオークの首。 いつもなら、この一撃で魔物の首は宙を舞い、鮮血と共に華麗な勝利が決まるはずだった。

「ブモッ!?」

 しかし、オークが泥に足を取られて体勢を崩したため、剣先は空を切り、わずかに耳を掠っただけだった。

「ちっ、避けやがった!」

 アルスは舌打ちをし、追撃を加えようと踏み込む。 だが、踏み込んだ先には「偶然」露出していた木の根があった。

 ガッ。

「うおっ!?」

 アルスは無様につまずき、オークの目の前で転びかける。 オークが好機とばかりに棍棒を振り下ろす。

「さ、させねぇぞ!」

 剣聖ガイルが割り込み、大剣で棍棒を受け止める。 だが、その衝撃でガイルの腰のベルトが切れ、ズボンが少しずり落ちた。

「ぬおっ!? なんだ!?」

「ガイル! 何やってんのよ、みっともない!」

 後方から大魔導士カレアが罵声を浴びせつつ、炎の魔法を放つ。

「燃え尽きなさい! ファイアボール!」

 放たれた火球はオークへ直撃――するはずが、突然吹いた一陣の風にあおられ、軌道を逸れた。 火球はオークの横をすり抜け、森の下草に引火した。

「きゃあっ! 煙がこっちに!」

「ゲホッ、ゲホッ! カレア、どこ狙ってんだ!」

 聖女マリアが煙に巻かれて咳き込む。 戦場は無様な泥仕合と化していた。

          ◇

 結局、たかがオーク数匹を倒すのに、普段の倍以上の時間がかかった。 アルスたちは煤(すす)と泥にまみれ、肩で息をしていた。

「……なんだ今日は。厄日か?」

 アルスは苛立ちながら剣についた血糊を拭った。 拭おうとした布が古くなっていたらしく、ビリリと裂けて剣身にこびりつく。

「あーもう、クソッ!」

 彼は布を地面に叩きつけた。

「おかしいわね……。私の魔法が外れるなんて」

 カレアが不満げに杖を見つめる。

「湿気のせいで魔力の伝導率が悪かったのかしら」

「俺のベルトもだ。昨日買ったばかりの高級品だぞ? 不良品つかまされたか?」

 ガイルがずり落ちるズボンを押さえながら嘆く。

「皆さん、落ち着いてください。怪我はありませんか?」

 聖女マリアが癒しの魔法をかけようとするが、アルスの擦り傷を治そうとして、うっかり魔力を込めすぎた。

「熱っ!? マリア、熱いって!」

「あ、あら? ごめんなさい、手元が狂って……」

 全員が首を傾げていた。 今までなら、こんなミスはありえなかった。 アルスの剣は必中だったし、敵の攻撃は「間一髪」で外れていたし、魔法はクリティカルヒットするのが当たり前だった。 それが「実力」だと思っていた。 それが「幸運」という下駄を履かせられていただけだとは、誰も気づいていない。

「……おい、ドロップ品はどうだ?」

 アルスが気を取り直して尋ねる。 この森のオークは、稀に『魔鉄の鉱石』というレアアイテムを落とす。 それを売れば、今日の不快な気分の埋め合わせくらいにはなるだろう。

 ガイルがオークの死体をまさぐる。

「……ダメだ。ただの『オークの腰布』だ」

「こっちは?」

「『折れた棍棒』。ゴミだな」

「こっちは……うわっ、腐った肉だ。臭ぇ!」

 全滅。 レアアイテムどころか、通常ドロップすら最低品質のものばかりだ。

「ふざけんな! 今日はとことんツイてねえな!」

 アルスは近くの岩を蹴り飛ばした。 その岩が跳ね返り、自分の脛に当たって「痛っ!」と叫ぶところまでがセットだ。

「……ねえ、アルス」

 マリアが不安そうに口を開いた。

「もしかして、ジンさんがいなくなったせいじゃ……」 「はあ? 何言ってんだマリア」

 アルスは鼻で笑った。

「逆だ逆。あいつの『貧乏神』っぷりが、まだ俺たちにこびりついてるんだよ。厄病神の残滓(ざんし)ってやつだ」

「そ、そうかしら……?」

「決まってるだろ。あいつがいなくなって清々したというのに、これ以上あいつの影に怯えるなんて馬鹿らしいぜ」

 アルスは自信満々に断言した。

「見てろよ。この『不運の残りカス』さえ払拭できれば、俺たちはもっと輝ける。明日は王都のカジノで大勝負だ。今日の憂さ晴らしをして、俺の最強の運を証明してやる!」

「そうだな! さすがアルスだ!」

「ええ、そうね。気晴らしは必要だわ」

 仲間たちも、アルスの根拠のない自信に釣られて表情を明るくする。 彼らは知らなかった。 ジンという「避雷針」を失った彼らが、カジノという「確率の戦場」に行くことが、どれほどの自殺行為であるかを。

 森の奥から、不気味なカラスの鳴き声が響く。 それはまるで、彼らの未来を暗示する弔鐘(ちょうしょう)のようだった。
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