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第14話:泥だらけの英雄、塵ひとつない軍師
「はぁ……はぁ……! ど、どうだ……ッ!」
地下ホールに、勇者アルスの荒い息遣いが反響していた。かつては輝きを放っていた彼の黄金の剣は無惨に刃こぼれし、自慢の金髪は汗と煤(すす)が混じった黒い粘液で、べっとりと額に張り付いている。
彼らの眼前に横たわっているのは、巨大な鎧の塊――中ボス『デュラハン』の残骸だ。本来であれば、勇者パーティの実力をもってすれば苦戦するはずのない相手だったが、今の彼らにとってそれは、死神そのものに見えたに違いない。
「お、終わった……のか……?」
剣聖ガイルが、ひしゃげた大剣を杖代わりにして、重々しくその場に膝をついた。 彼の自慢である重装鎧はあちこちがへこみ、不自然にねじれている。特に左足の装甲は剥がれ落ち、そこからは鮮血が滲んでいた。先ほどの戦闘中、デュラハンの攻撃を回避しようとした際、自分の足で自分の足を引っ掛けて転倒するという、およそ剣聖にあるまじき失態による傷だ。
「もう……魔力が空よ……」
大魔導士カレアが、魔力の切れた杖を放り出し、埃っぽい床へ力なく座り込んだ。 彼女が誇る高級なシルクのローブは所々が焼け焦げ、見るも無惨な穴が開いている。狭い通路で最大火力の『ファイアボール』を放ち、その爆風を自分自身が浴びた名残だった。
「ケホッ……回復ポーション、もうないんですか……?」
聖女マリアもまた、青ざめた顔で空になった小瓶を握りしめていた。彼女の癒やしの力も底をつき、仲間を癒やす術はもう残されていない。
辺りを包む静寂。そこには勝利の歓声など微塵もなく、あるのはただ「辛うじて生き延びた」という安堵と、泥沼のような疲労感だけだった。
「……くそっ。なんだってんだ今日は」
アルスは込み上げる苛立ちをぶつけるように、足元に転がるデュラハンの兜を蹴飛ばそうとした。だが、極限の疲労で足が上がらず、逆につま先を兜の硬い金属部分に強打してしまい、「ぐぅっ!」と情けない呻き声を上げる羽目になった。 どこまでも格好がつかない。
「運が悪かっただけだ。……そうだろ?」
彼はすがるような視線で、誰にともなく同意を求めた。そうだ、今日はたまたまツイていないだけだ。運命の歯車がほんの少し狂っただけに過ぎない。俺たちの実力はこんなものではないはずだ――そう自分に言い聞かせなければ、今にも心が折れてしまいそうだったからだ。
「――お疲れ様。随分と楽しそうなダンスだったな」
その時だった。墓場のように静まり返っていたホールに、場違いなほど落ち着いた、そして冷ややかな声が響き渡った。
「え?」
アルスが弾かれたように顔を上げる。へたり込んでいた仲間たちも、一斉に声のした方角――ホールの入り口付近にある、崩れた柱の陰へと視線を向けた。
そこに、二つの人影が佇んでいた。
「な……」
アルスは我が目を疑った。そこに立っていたのは、つい数日前に自分が「不要だ」と断じて追放した男。元軍師、ジン・クラウゼルだったからだ。
「ジ、ジン……!? なんでお前がここに!?」
アルスが叫ぶ。驚愕するのも無理はない。ここはBランクダンジョンの深層、強力な魔物と無数の罠がひしめく死地である。追放された無能な荷物持ちふぜいが、単独でたどり着けるような場所ではないはずだ。
だが、アルスをさらに混乱の渦に突き落としたのは、そこにいるジンの「姿」そのものだった。
「……嘘、でしょ……?」
カレアが呆然と呟く声が震えていた。
ジンは、まるで王都の公園を散歩してきたかのような、あまりにも清潔な姿でそこにいた。身に纏っているのは安物のローブだが、そこには泥汚れ一つなく、戦いの痕跡など微塵も感じさせない。汗もかいておらず、呼吸すら乱れていないのだ。
そして、その隣に控える銀髪の少女もまた、異常なほどの静謐さを纏っていた。 ボロボロの服を着てはいるが、その立ち振る舞いは凛としており、手にした水筒の蓋を丁寧に、音もなく閉めているところだった。まるで、楽しいピクニックの帰り道であるかのように。
「なぜって、依頼(クエスト)だからに決まってるだろ」
ジンは軽く肩をすくめると、コツ、コツと足音を立ててゆっくり近づいてくる。 その足取りは羽のように軽い。泥と血にまみれて床に這いつくばる勇者たちとは対照的に、彼は圧倒的に清潔で、そして残酷なまでに余裕に満ちていた。
「お前らこそ、どうしたんだその無様な格好は。いい大人が泥遊びか?」
「なっ……!?」
アルスの顔が、羞恥と怒りで赤く染まる。
「ぐ、偶然だ! 今日はたまたま調子が悪いだけで……罠が! そう、このダンジョンは罠が異常に多かったんだよ!」
「罠? ああ、あの子供だましのような落とし穴や、見え見えの矢のトラップのことか?」
ジンは冷ややかに笑い、さらに言葉を続けた。
「それなら心配いらないぞ。ここに来るまでの罠は、全部解除済みだったからな」
「は、はぁ!?」
「お前らが全部踏み抜いてくれたおかげで、俺たちは随分と楽をさせてもらったよ。感謝するぜ、勇者様」
ジンの言葉の意味を理解した瞬間、アルスは絶句した。自分たちが死ぬ思いで、傷つきながら突破してきた数々の罠を、こいつは「楽をするための道」として利用し、あまつさえ高みの見物を決め込んでいたというのか。
「ふ、ふざけるな! 俺たちがどれだけ苦労したと……!」
「苦労? それを世間では『無能』と呼ぶんだよ」
ジンが吐き捨てるように言った瞬間、隣にいた少女が一歩、スッと前に出た。
「……下がってください、汚い」
鈴を転がすような美声、しかし氷点下の響きを持つ声だった。リリだ。 彼女はアルスたちを、まるで道端に落ちている汚物を見るような、底知れぬ侮蔑の瞳で見下ろしていた。
「ジ、ジン、その女は誰よ……?」
「俺の新しい相棒だ」
カレアの問いに、ジンは短く答えた。リリは懐から清潔なハンカチを取り出すと、汚れてもいないジンの足元の埃を、ササッと払う仕草を見せた。
「ジン様、空気が淀んでいます。長居は無用です。……バカが移りますから」 「ぶっ」
あまりの言い草に、ガイルが吹き出しそうになり、慌てて自分の口を大きな手で押さえた。リリの毒舌は、的確かつ鋭利に勇者たちのプライドを抉り取った。
「き、貴様……!」
アルスが反射的に剣の柄に手をかけようとする。だが、リリの赤い瞳がギラリと光った瞬間、アルスの背筋に鋭い氷柱を突き刺されたような悪寒が走った。殺気。 それも、ただの殺気ではない。「指一本でも動かせば殺す」という、明確で絶対的な死の宣告だ。
「……ッ!」
アルスは無意識に手を引っ込めた。自分でも信じられなかった。王国の英雄である自分が、こんな小娘の、しかも武器も構えていないただの視線一つに怯えてすくみ上がったなんて。
「おいリリ、威嚇するな。弱って死にかけている犬をいじめる趣味はない」
ジンが軽く手を挙げると、リリが放っていた濃密な殺気は霧散した。彼女はくるりとジンに向き直り、先ほどまでの冷徹さが嘘のように、とろけるような笑顔を見せる。
「はい、ジン様! ……あ、喉渇いてませんか? 冷たいお茶がありますよ」 「ああ、もらうか」
リリは甲斐甲斐しく水筒を差し出す。ジンはそれを受け取り、一口飲んで喉を潤してから、再びアルスたちを見下ろした。
「で? これからどうするんだ、勇者殿。見たところ、もう限界そうだが」
ジンの指摘は図星だった。ポーションは尽き、魔力もなく、装備はボロボロ。この先には、ダンジョンの最深部とボスが待っている。今の満身創痍の状態で進めば、全滅は免れないだろう。
「……くっ」
アルスは悔しさに唇を噛み締めた。認めたくなかった。自分たちが追放したはずの「疫病神」に、こんな無様な姿を見られ、あまつさえ心配されるような言葉をかけられるなんて。しかも、相手は無傷で、余裕綽々なのだ。
「……俺たちは、ここで一旦休憩するだけだ! 態勢を整えれば、最深部のボスなんて敵じゃねえ!」
アルスは精一杯の虚勢を張った。
「そうか。じゃあ俺たちは先に行かせてもらう」
ジンは興味なさそうに背を向けた。 その背中は、アルスたちなど眼中にもないと言わんばかりだ。
「おい待て! ポーション!」
アルスが叫んだ。 なりふり構っていられなかった。
「お前、持ってるだろ! 元パーティメンバーのよしみだ、寄越せよ!」
あまりに身勝手な要求。だが、アルスにとっては当然の権利だった。今までずっと、ジンは言わずとも必要な物資を用意し、ポーションが無くなれば自分の分を差し出してくれていたのだから。
ジンは足を止め、肩越しに振り返った。
「……有料だぞ?」
「金なら払う! 成功報酬から引いとけ!」
「前払いだ。今ここで、金貨10枚」
「はあ!? ふざけんな、そんな大金持ち歩いてるわけねえだろ!」
ダンジョン攻略中に現金をジャラジャラ持ち歩く馬鹿はいない。それを知っていて、ジンはわざと言っているのだ。
「なら、商談不成立だな」
「なっ、待てよ! 俺を見捨てる気か!?」
「見捨てる?」
ジンは冷たく笑った。その笑顔は、かつてアルスが彼に向けた冷笑よりも、ずっと冷酷だった。
「勘違いするな。俺たちはもう『赤の他人』だ。他人の命を守る義務なんて、俺にはない」
突き放すような言葉。それは、かつてアルスがジンに向けた「お前クビな」という言葉への、痛烈なしっぺ返しだった。
「行くぞ、リリ」
「はい、ジン様」
二人は呆然とする勇者たちを残し、奥へと続く暗い通路へ消えていった。 後に残されたのは、泥だらけの英雄たちと、どうしようもない惨めさだけだった。
「……クソッ、あいつ……!」
アルスは拳を地面に叩きつけた。その衝撃で、天井から「偶然」剥がれ落ちた小さな石が、彼の頭にコツンと当たった。それはまるで、世界そのものが今の彼を嘲笑っているかのようだった。
地下ホールに、勇者アルスの荒い息遣いが反響していた。かつては輝きを放っていた彼の黄金の剣は無惨に刃こぼれし、自慢の金髪は汗と煤(すす)が混じった黒い粘液で、べっとりと額に張り付いている。
彼らの眼前に横たわっているのは、巨大な鎧の塊――中ボス『デュラハン』の残骸だ。本来であれば、勇者パーティの実力をもってすれば苦戦するはずのない相手だったが、今の彼らにとってそれは、死神そのものに見えたに違いない。
「お、終わった……のか……?」
剣聖ガイルが、ひしゃげた大剣を杖代わりにして、重々しくその場に膝をついた。 彼の自慢である重装鎧はあちこちがへこみ、不自然にねじれている。特に左足の装甲は剥がれ落ち、そこからは鮮血が滲んでいた。先ほどの戦闘中、デュラハンの攻撃を回避しようとした際、自分の足で自分の足を引っ掛けて転倒するという、およそ剣聖にあるまじき失態による傷だ。
「もう……魔力が空よ……」
大魔導士カレアが、魔力の切れた杖を放り出し、埃っぽい床へ力なく座り込んだ。 彼女が誇る高級なシルクのローブは所々が焼け焦げ、見るも無惨な穴が開いている。狭い通路で最大火力の『ファイアボール』を放ち、その爆風を自分自身が浴びた名残だった。
「ケホッ……回復ポーション、もうないんですか……?」
聖女マリアもまた、青ざめた顔で空になった小瓶を握りしめていた。彼女の癒やしの力も底をつき、仲間を癒やす術はもう残されていない。
辺りを包む静寂。そこには勝利の歓声など微塵もなく、あるのはただ「辛うじて生き延びた」という安堵と、泥沼のような疲労感だけだった。
「……くそっ。なんだってんだ今日は」
アルスは込み上げる苛立ちをぶつけるように、足元に転がるデュラハンの兜を蹴飛ばそうとした。だが、極限の疲労で足が上がらず、逆につま先を兜の硬い金属部分に強打してしまい、「ぐぅっ!」と情けない呻き声を上げる羽目になった。 どこまでも格好がつかない。
「運が悪かっただけだ。……そうだろ?」
彼はすがるような視線で、誰にともなく同意を求めた。そうだ、今日はたまたまツイていないだけだ。運命の歯車がほんの少し狂っただけに過ぎない。俺たちの実力はこんなものではないはずだ――そう自分に言い聞かせなければ、今にも心が折れてしまいそうだったからだ。
「――お疲れ様。随分と楽しそうなダンスだったな」
その時だった。墓場のように静まり返っていたホールに、場違いなほど落ち着いた、そして冷ややかな声が響き渡った。
「え?」
アルスが弾かれたように顔を上げる。へたり込んでいた仲間たちも、一斉に声のした方角――ホールの入り口付近にある、崩れた柱の陰へと視線を向けた。
そこに、二つの人影が佇んでいた。
「な……」
アルスは我が目を疑った。そこに立っていたのは、つい数日前に自分が「不要だ」と断じて追放した男。元軍師、ジン・クラウゼルだったからだ。
「ジ、ジン……!? なんでお前がここに!?」
アルスが叫ぶ。驚愕するのも無理はない。ここはBランクダンジョンの深層、強力な魔物と無数の罠がひしめく死地である。追放された無能な荷物持ちふぜいが、単独でたどり着けるような場所ではないはずだ。
だが、アルスをさらに混乱の渦に突き落としたのは、そこにいるジンの「姿」そのものだった。
「……嘘、でしょ……?」
カレアが呆然と呟く声が震えていた。
ジンは、まるで王都の公園を散歩してきたかのような、あまりにも清潔な姿でそこにいた。身に纏っているのは安物のローブだが、そこには泥汚れ一つなく、戦いの痕跡など微塵も感じさせない。汗もかいておらず、呼吸すら乱れていないのだ。
そして、その隣に控える銀髪の少女もまた、異常なほどの静謐さを纏っていた。 ボロボロの服を着てはいるが、その立ち振る舞いは凛としており、手にした水筒の蓋を丁寧に、音もなく閉めているところだった。まるで、楽しいピクニックの帰り道であるかのように。
「なぜって、依頼(クエスト)だからに決まってるだろ」
ジンは軽く肩をすくめると、コツ、コツと足音を立ててゆっくり近づいてくる。 その足取りは羽のように軽い。泥と血にまみれて床に這いつくばる勇者たちとは対照的に、彼は圧倒的に清潔で、そして残酷なまでに余裕に満ちていた。
「お前らこそ、どうしたんだその無様な格好は。いい大人が泥遊びか?」
「なっ……!?」
アルスの顔が、羞恥と怒りで赤く染まる。
「ぐ、偶然だ! 今日はたまたま調子が悪いだけで……罠が! そう、このダンジョンは罠が異常に多かったんだよ!」
「罠? ああ、あの子供だましのような落とし穴や、見え見えの矢のトラップのことか?」
ジンは冷ややかに笑い、さらに言葉を続けた。
「それなら心配いらないぞ。ここに来るまでの罠は、全部解除済みだったからな」
「は、はぁ!?」
「お前らが全部踏み抜いてくれたおかげで、俺たちは随分と楽をさせてもらったよ。感謝するぜ、勇者様」
ジンの言葉の意味を理解した瞬間、アルスは絶句した。自分たちが死ぬ思いで、傷つきながら突破してきた数々の罠を、こいつは「楽をするための道」として利用し、あまつさえ高みの見物を決め込んでいたというのか。
「ふ、ふざけるな! 俺たちがどれだけ苦労したと……!」
「苦労? それを世間では『無能』と呼ぶんだよ」
ジンが吐き捨てるように言った瞬間、隣にいた少女が一歩、スッと前に出た。
「……下がってください、汚い」
鈴を転がすような美声、しかし氷点下の響きを持つ声だった。リリだ。 彼女はアルスたちを、まるで道端に落ちている汚物を見るような、底知れぬ侮蔑の瞳で見下ろしていた。
「ジ、ジン、その女は誰よ……?」
「俺の新しい相棒だ」
カレアの問いに、ジンは短く答えた。リリは懐から清潔なハンカチを取り出すと、汚れてもいないジンの足元の埃を、ササッと払う仕草を見せた。
「ジン様、空気が淀んでいます。長居は無用です。……バカが移りますから」 「ぶっ」
あまりの言い草に、ガイルが吹き出しそうになり、慌てて自分の口を大きな手で押さえた。リリの毒舌は、的確かつ鋭利に勇者たちのプライドを抉り取った。
「き、貴様……!」
アルスが反射的に剣の柄に手をかけようとする。だが、リリの赤い瞳がギラリと光った瞬間、アルスの背筋に鋭い氷柱を突き刺されたような悪寒が走った。殺気。 それも、ただの殺気ではない。「指一本でも動かせば殺す」という、明確で絶対的な死の宣告だ。
「……ッ!」
アルスは無意識に手を引っ込めた。自分でも信じられなかった。王国の英雄である自分が、こんな小娘の、しかも武器も構えていないただの視線一つに怯えてすくみ上がったなんて。
「おいリリ、威嚇するな。弱って死にかけている犬をいじめる趣味はない」
ジンが軽く手を挙げると、リリが放っていた濃密な殺気は霧散した。彼女はくるりとジンに向き直り、先ほどまでの冷徹さが嘘のように、とろけるような笑顔を見せる。
「はい、ジン様! ……あ、喉渇いてませんか? 冷たいお茶がありますよ」 「ああ、もらうか」
リリは甲斐甲斐しく水筒を差し出す。ジンはそれを受け取り、一口飲んで喉を潤してから、再びアルスたちを見下ろした。
「で? これからどうするんだ、勇者殿。見たところ、もう限界そうだが」
ジンの指摘は図星だった。ポーションは尽き、魔力もなく、装備はボロボロ。この先には、ダンジョンの最深部とボスが待っている。今の満身創痍の状態で進めば、全滅は免れないだろう。
「……くっ」
アルスは悔しさに唇を噛み締めた。認めたくなかった。自分たちが追放したはずの「疫病神」に、こんな無様な姿を見られ、あまつさえ心配されるような言葉をかけられるなんて。しかも、相手は無傷で、余裕綽々なのだ。
「……俺たちは、ここで一旦休憩するだけだ! 態勢を整えれば、最深部のボスなんて敵じゃねえ!」
アルスは精一杯の虚勢を張った。
「そうか。じゃあ俺たちは先に行かせてもらう」
ジンは興味なさそうに背を向けた。 その背中は、アルスたちなど眼中にもないと言わんばかりだ。
「おい待て! ポーション!」
アルスが叫んだ。 なりふり構っていられなかった。
「お前、持ってるだろ! 元パーティメンバーのよしみだ、寄越せよ!」
あまりに身勝手な要求。だが、アルスにとっては当然の権利だった。今までずっと、ジンは言わずとも必要な物資を用意し、ポーションが無くなれば自分の分を差し出してくれていたのだから。
ジンは足を止め、肩越しに振り返った。
「……有料だぞ?」
「金なら払う! 成功報酬から引いとけ!」
「前払いだ。今ここで、金貨10枚」
「はあ!? ふざけんな、そんな大金持ち歩いてるわけねえだろ!」
ダンジョン攻略中に現金をジャラジャラ持ち歩く馬鹿はいない。それを知っていて、ジンはわざと言っているのだ。
「なら、商談不成立だな」
「なっ、待てよ! 俺を見捨てる気か!?」
「見捨てる?」
ジンは冷たく笑った。その笑顔は、かつてアルスが彼に向けた冷笑よりも、ずっと冷酷だった。
「勘違いするな。俺たちはもう『赤の他人』だ。他人の命を守る義務なんて、俺にはない」
突き放すような言葉。それは、かつてアルスがジンに向けた「お前クビな」という言葉への、痛烈なしっぺ返しだった。
「行くぞ、リリ」
「はい、ジン様」
二人は呆然とする勇者たちを残し、奥へと続く暗い通路へ消えていった。 後に残されたのは、泥だらけの英雄たちと、どうしようもない惨めさだけだった。
「……クソッ、あいつ……!」
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