ハルといた夏

イトマドウ

文字の大きさ
3 / 9

出会い

しおりを挟む
 最後にばあちゃんの家に来たのは、小学校に入る前だったので約6年ぶりだった。
 僕が小さかったこともあるし、ばあちゃんの家も家の周りも正直よく覚えていなかった。
 年賀状を見る限り、確か父さんの姉さん夫婦と住んでいたはず。
「よぉ来たねぇ」
 ばあちゃんが家から出てきて、出迎えてくれた。
 ばあちゃんの顔は年賀状とか写真で見ていたのですぐにわかった。
 実際に会ってみると6年前と雰囲気は変わっていないように思えた。
「ご無沙汰してます」
 母さんが頭も下げたので、僕も真似した。
「ナッちゃんじゃなぁ。えらい大きゅうなって」
 ばあちゃんは、うれしそうにうなずいた。
「ばあちゃん、挨拶は後にしよう。とりあえず荷物を入れるよ」
「ほうじゃなぁ。疲れたじゃろうけぇ、ゆっくりしんさい。ご飯とお風呂もちゃんと用意しとるけぇな」

 僕たちのための寝室に荷物を置いて、居間へ移動した。ばあちゃんの家は広かった。
 四人で晩御飯を食べていると、今のドアが開いてイカツイ男の人が入ってきた。
「兄さん、おひさしぶりです。お元気じゃったですか?」
 大きな声で、父さんに話かけた。
「ああ、陽太くん。久しぶり」
 父さんも親しげに返事をした。
 イカツイ男の人は父さんの姉さんの旦那さん。大きくて金髪で、半袖シャツの端には少し刺青が見えていた。
 久しぶりに叔父さんを見て、目を丸くしていると叔父さんがこちらを向いた。
「おう、ボン。えらい大きゅうなったのぅ」
「ボン?」
 僕のこと?不思議に思っていると大きな手で頭を撫でられた。
 手がゴツゴツしていて撫でられて痛かったのは初めてだった。
「おい、ハル。お前も挨拶せんといけんで」
 叔父さんが振り返ると、そこには女の子が一人立っていた。
 叔父さんの一人娘の小晴さん。今年高校1年生。
 僕よりも背が高くて、ポニーテル。肌は少し焼けていて、活発そうだった。
「空良おじさん。久しぶり」
「小晴ちゃんかぁ、大きくなったね。今更だけど高校合格おめでとう」
「ありがとぅ」
「空良おじさん、お母さんは仕事で遅うなるって、さっき連絡あったんよ」
「相変わらずだなぁ」
「それなら、いる面子で楽しもうや」
 おじさんは開いている場所で胡坐をかくとばあちゃんがビールとグラスを持ってきてくれた。
 大人たちはお酒でも盛り上げる中、僕と小晴さんは黙々とご飯を食べていた。
「ナツ、あたしと遊んだこと覚えとる?」
 僕の箸を伸ばす手が止まる。
「えっと、ごめんなさい」
「いいよ。まだ小さかったけぇ。あたしら、1、2回一緒に遊んだんよ」
「そうなんですね」
 やっぱり覚えていなかった。小晴さん・・・何て呼んでいたかもわからない。
 あまり会話も続かず、僕らはまた黙々とご飯を食べていた。
 食べ終わったら、You tubeを見ようと思った。
「あ!」
 僕は大事なことを思い出した。
「父さん、Wifiの設定教えてほしいんだけど」
 食べ終わってでも良かったが、酔っぱらう前に聞かないといけないと思った。
「んー、Wifi?ばあちゃん、わかる?」
 父さんはすでに良い感じに出来上がっていた。
「ばあちゃんの家にいるときくらいガマンできないの?」
 母さんが小声で諭してくる。
「ワイ・・・ファン?なんじゃろ?」
 ばあちゃんは全く理解していないようだ。
 僕は困った。スマホは格安の契約なので、回線速度が低く動画を見ることができない。
「あたし知っとるよ。部屋にパスワードがあるけぇ、食べ終わったら行こうな」
 よかった。僕と小晴さんは大人たちが飲み続けている中、居間を後にした。

 小晴さんの部屋に向かう途中、僕の先を歩きながら話かけてきた。
「いやー助かったわ。父さん、飲み始めると長いけぇ」
「いえ、僕も助かります」
「敬語なんてええよ」
 小晴さんは笑っていた。
 部屋の前に着くと、特に気にする様子もなく、中に入っていった。
 僕も入って良いのか、部屋の前で立っていると
「遠慮もええよ」
 そう言って手招きした。
「と、言うてもこれを渡すだけなんやけどね」
 Wifiのパスワードを書いたメモをくれた。
「ありがとう」
 受け取ると特に話す話題もないので、僕は部屋を出ようとした。
「昔はハルって呼んどったんよ」
「え?」
 僕は振り返って小晴さんを見た。椅子に片膝をついて座って頬杖をついていた。
「で、あたしはナツって呼んでた」
 やっぱり覚えてない、けどそうだったのかもしれない。
「うん、これからはそれでいこう。おやすみ、ナツ」
 ハルの笑顔は、とても人を惹きつける力があって、僕は少し見とれながら呟いた。
「おやすみ、ハル」

 その夜、僕はYou tubeを見たけど、ハルの笑顔がチラついて内容が全然入ってこなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...