荒野のオオカミと砂漠のキツネ

去り際に

翌日
ロバートは宿屋で朝食を済ませると、宿を出る準備をした。

「じゃあ…またね」

リサが名残惜しそうに涙を流す。

「そんな悲しい顔するなよ…またすぐ会えるさ」

リサに別れを告げると、
一人で空港へ向かって歩き始めた。
リサには、何故かもう二度と会えない様な気がしてならなかった。

ロバートが空港施設に着く頃には、すでに太陽は空高く登っていた。

時計を見ると、出発まで、まだ随分と時間が余っていた。
特にすることもなく時間を持て余していたロバートは格納庫へ向かった。
そこでは自身がこれから乗る四発機が、今まさに整備されているところだった。

時間は流れ、機体は駐機場所に移動して乗客の搭乗を開始した。
乗客は皆オオカミ族である。

「やはり戦争が始まるんでしょうかね」

機体を遠目に眺めながら副機長が、ロバートにそう言った。

「分からんな…でも、ここまで急に国に戻ろうとするところを見ると、やはり…」

「話によると、鉄道の方も、自分たちの祖国に帰ろうとする人でごった返しているそうです…」

「もし戦争が始まれば、旅客担当の俺たちはクビだ、クビ」

そう言ってロバートが首に手を当てるジャスチャーをした。

「もしそうなったら……」

副機長の顔がみるみる暗くなっていく

「大丈夫だ、当分の間はな…きっと大丈夫さ」

こんな楽観的なこともいつまで言っていられるのだろうか、
昨今の人の流れや情勢を見ると見ると、雲行きが怪しくなってきていることをロバートは感じていた。

それから、ロバートと副操縦士が操る機体はヒラリー空港を後にして、一路チャペル空港を目指した。

特にトラブルに見舞われることもなく、数時間にわたるフライトの末、
機体はルナ帝国領のチャペル空港へと降り立った。

それから数ヶ月後のことであった。
ロバートは急に上官に呼び出された。

特に思い当たる節がないロバートは、不思議に思いながらも上官の部屋へと向かった。

「ロバート君、君は優秀なパイロットだ、君の卓越した操縦技術は称賛に値する」

「あ…ありがとうございます」

急に褒められたロバートは、緊張しながらもお礼を言った。

「…そこでだ、ロバート君、君を特別な任務に就かせたい」

「特別な任務…ですか」

「そうだ、これは国家の重要事項だ、決して口外してはならないぞ」

「わ…承知しました」

「では、君の任務について教えよう、極秘の会合をするために我らがルナ帝国政府の重要人物をヴォルペ共和国の空港まで運んで欲しいのだ」

「なるほど…」

「他に質問はないかね？」

「…具体的にどの様な会合なのですか？」

「…それは言えないな、それ以上先は私のため、そして君のためにも教えないほうが良いだろう」

「…分かりました」

ロバートは、きっと戦争に関係することに違いないと直感的に判断した。

「分かってくれたなら良い、フライトの日程は決まり次第また後日君に伝える…いいか、絶対に他の人間に知られてはならないぞ」

「はい、分かっておりますとも」

空港の施設内に戻ると、パイロット仲間のロスが話しかけてきた。

「ようロバート、どうだった？」

「ああ、ひどく叱られたよ」

「どんなふうに？」

「お前は、上官に対する態度がなってないとか、操縦技術がクソほど酷いとか」

「うわー、だいぶやれたな」

「ははは…」

「そうだ、お前今日フライトないだろ？　酒でも飲みに行こうぜ」

「え、ああ、別に良いけど…」

「よっしゃ、そうと決まれば、今すぐ行くぞ」

「おいおい…まだ真っ昼間だぜ」

「いいだろ？　ほら、嫌なことなんて全部忘れようぜ！」

「あぁ、えっと…ははは…」

そう言って、ロスに引きずられる様にして、ロバートは空港の近くのバーへと連れて行かれた。